ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピーブルズ」の意味・わかりやすい解説
ピーブルズ
Peebles, James
ジェームズ・ピーブルズ。カナダ生まれのアメリカ合衆国の物理学者。フルネーム Philip James Edwin Peebles。2019年に物理的宇宙論の研究でノーベル物理学賞(→ノーベル賞)を受賞した。スイスの天文学者ミシェル・マイヨールとディディエ・ケローとの同時受賞。
1958年にマニトバ大学で学士号,1962年にプリンストン大学で博士号を取得。その後もプリンストン大学で研究を続け,1965年に同大学助教,1972年に教授に就任したのち,1984年アルバート・アインシュタイン科学教授,2000年名誉教授を歴任。
1965年プリンストン大学のロバート・ディッケのもとで,ビッグバン説の物理学的証拠を探す研究チームに加わる。宇宙マイクロ波背景放射 CMB(→宇宙背景放射)はビッグバンの痕跡だと予言したが,同チームが CMBの観測を始める前に,アメリカの物理学者アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンから CMB発見の知らせが入った(この発見でペンジアスとウィルソンは1978年のノーベル物理学賞を受賞している)。CMBの発見によって,宇宙の起源と進化は空疎な理論ではなく有益な科学研究の対象となった。
1965年に,宇宙が十分に膨張し,宇宙を満たす高温の黒体放射の相殺効果に重力が打ち勝つほど冷えるまで銀河は形成されなかったとする論文を発表。翌年,宇宙の温度がヘリウムの生成量に大きく影響することを示した。温度が下がると,ある時点で重水素からヘリウムが生成されなくなり,その結果ヘリウムより重い元素は合成されなくなる(この研究以前,天文学者は重元素がビッグバンで合成された可能性があると考えていた)。
1970年大学院生のジャー・ユとともに,CMBの角度パワースペクトルが宇宙の物質密度に基づいて変化することについて考察,パワースペクトルの予測値を計算し,のちに『プランク』や『WMAP』Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(ウィルキンソン・マイクロ波非等方性観測衛星)などの人工衛星が観測することになる結果を導き出した。
1982年には,冷たいダークマターが銀河団や銀河などの形成に不可欠だと考える最初の宇宙論学者の一人となり,宇宙の物質の大部分は,重力を通してのみ他の物質と相互作用するダークマターであるとした。
著書に『物理学的宇宙論』Physical Cosmology(1971),『宇宙の大規模構造』The Large-Scale Structure of the Universe(1980),『物理学的宇宙論の原理』Principles of Physical Cosmology(1993)など。教科書『量子力学』Quantum Mechanics(1992)の執筆や,ライマン・ペイジ,ブルース・パートリッジとともに宇宙論学者による回想録集『ビッグバンを探して』Finding the Big Bang(2009)の共同編集にも携わっている。
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