オランダの物理学者。ライデンに生まれる。生地で教育を受け、最初小学校の教師になった。のちに中学校に転じ、その間ライデン大学で物理学を学んだ。1866年ハーグの中学校に移り、そこの校長をしながら物理学の研究を続けた。1873年、有名な論文「気体と液体の連続性について」によって博士の学位を取得、1877年から1907年までアムステルダム大学の物理学教授を務めた。いち早くマクスウェルの高い評価を得たこの論文は、クラウジウスの1857年の気体分子運動論に関する論文に啓発され、直接にはアンドリュースの臨界温度の発見を伴った二酸化炭素の状態変化に関する実験結果を分子論的に説明することを目的としたものである。そのなかで示された、分子の大きさと分子間引力とを考慮した実在気体の状態方程式は「ファン・デル・ワールスの状態方程式」として知られる。これによって、当時永久気体とよばれていた酸素、窒素、水素、ヘリウムなどの状態変化の予測が可能になり、それらの気体の液化の可能性に理論的基礎が与えられた。物質の状態変化、毛管現象など主として物理化学的現象の熱力学的ならびに分子論的研究に生涯を捧(ささ)げた。1910年、その状態方程式に関する業績に対してノーベル物理学賞が授与された。アムステルダムで死去した。
[井上隆義]
オランダの物理学者。ライデンの生れ。小学校の教師をするかたわら,ライデン大学で物理学を学んだ。R.クラウジウスの熱の本性に関する分子運動論に触発され,二酸化炭素の状態を実験的に研究し臨界温度を発見していたアンドルーズの実験結果を,分子論的に説明することを試みた。その結果,物質の気体と液体の状態に本質的な違いがないという考えに達し,1873年,〈気体と液体の連続性について〉と題する学位論文を提出,この中で,気体分子間の引力と分子自身の体積を考慮に入れた実在気体の状態方程式を示した。このファン・デル・ワールスの状態方程式は,分子運動論が十分よく知られていた当時にあって,集団的な分子効果を示すという点では,その先駆的研究とされている。77年にアムステルダム大学が設立されると,物理学の教授となった。状態方程式に関連して対応状態の法則を提唱したが,多くの液体や気体の性質が温度,圧力,体積の尺度を変えるだけで同一の状態方程式(換算状態方程式)に帰せられるというこの法則によって,J.デュワーの水素液化やカメルリング・オンネスのヘリウム液化の方法が決定され,そこから低温物理学が開かれた。1910年には,液体および気体の物理学的状態に関する研究に対して,ノーベル物理学賞が与えられた。
執筆者:日野川 静枝
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オランダの物理学者.初等・中等学校の教師を務めながらレイデン(ライデン)大学で物理学を学んだ.1877年アムステルダム大学教授となり1907年退官.1873年“気体および液体の連続性について”と題する学位論文で,かれの名にちなんでファンデルワールス力とよばれている分子間にはたらく引力と分子の体積を考慮したファンデルワールスの状態式を提唱し,T. Andrewsによって見いだされた臨界現象を説明することができた.1880年には対応気体の原理を発表し,臨界圧,臨界温度,臨界体積を尺度とした気体の種類によらない一般的な状態方程式を表し,永久気体とよばれた気体の液化の指針を示した.表面張力,毛管現象の熱力学的理論にも寄与した.液体および気体の物理学的状態に関する研究で,1910年ノーベル物理学賞を受賞した.
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…オランダの物理学者ファン・デル・ワールスが1873年に提唱した状態方程式で,1molの物質に対して,と表される(pは圧力,Vは体積,Rは気体定数,Tは絶対温度)。この方程式は,理想気体からのずれを,(1)定数bで気体分子の大きさの影響を表し,(2)定数aで分子間引力の効果を取り入れるという考え方に立脚して導かれた。…
※「ファンデルワールス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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