フォルクマン拘縮(読み)フォルクマンこうしゅく(ぜんわんぶのコンパートメントしょうこうぐん)(その他表記)Volkmann contracture

六訂版 家庭医学大全科 「フォルクマン拘縮」の解説

フォルクマン拘縮(前腕部のコンパートメント症候群)
フォルクマンこうしゅく(ぜんわんぶのコンパートメントしょうこうぐん)
Volkmann contracture
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 四肢の筋肉、血管神経組織は、筋膜や骨間膜などによって囲まれており、この閉鎖空間をコンパートメントといいます。外傷などによりコンパートメント内の組織圧が上昇して循環不全を生じ、筋肉、神経組織の壊死(えし)を来してくる病気をコンパートメント症候群といいます。これが前腕屈側に生じたものをフォルクマン拘縮と呼びます。

 コンパートメント症候群のなかでフォルクマン拘縮は最も頻度が高く、上腕から前腕にかけての外傷や外部からの圧迫などにより生じた筋肉内微小循環障害のため、前腕の筋群、とくに屈筋群が非可逆性壊死に陥り、その末梢(まっしょう)に拘縮や麻痺を生じます。

原因は何か

 前腕屈側の筋肉、血管、神経組織は強靱(きょうじん)な筋膜や骨膜などで囲まれており、この空間をボラールコンパートメントといいます。上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)などによって血管が損傷したり、圧迫を受けると、ボラールコンパートメント内の筋肉組織で阻血(そけつ)(血液が足りなくなる)が起こって筋肉内に浮腫(ふしゅ)(むくみ)が生じます。さらに静脈の閉鎖が加わって筋肉内圧を高め、さらなる循環障害を来すという悪循環を繰り返し、筋肉への血液供給を極端に減少させることが原因で起こります。

症状の現れ方

 受傷後数時間後から発症する前腕部の腫脹(しゅちょう)疼痛(とうつう)、指を他動的に伸ばそうとしても痛みのためにできない、指がしびれるといった症状が外固定や牽引(けんいん)をしても改善せず、進行性に悪化していきます。とくに疼痛腫脹チアノーゼ(皮膚や粘膜紫色になること)、脈拍欠如、運動麻痺、異常知覚といった血管閉塞の明瞭な6症状が出現した時は手遅れの場合が多くなります。

 しかし、脈拍は欠損しない不完全な血管閉塞の場合が多いです。完全にフォルクマン拘縮ができあがってしまうと不可逆性の変化となり、手関節、指関節は屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく)して鷲爪様変形になり、手指の機能は完全に失われます(図8)。

検査と診断

 受傷後、血管の不完全閉鎖の場合には脈拍が触れ、末梢の循環もよいことが多いので、指を伸ばすと痛みが出るといった所見は診断のために重要です。

 肘や前腕の外傷では、常にフォルクマン拘縮を念頭に置いて、血管閉塞の6症状に注意して診断を行います。とくにX線写真上、高度な転位を認める上腕骨顆上骨折の場合で、同部の腫脹が強い時には見過ごさないことが大切です。補助診断法として筋膜内に針を刺入し、筋膜内圧を測定する方法があります。

治療の方法

 動脈閉鎖後、フォルクマン拘縮が生じるまでの時間は6~8時間といわれているので、適切な初期対応が重要です。まずは、可能な限り骨折の整復やギプスで圧迫など阻血(そけつ)の原因を除去します。

 改善がなければ緊急手術で筋膜切開を行い、内圧を減少させます。陳旧(ちんきゅう)例(古い病巣)では線維化した筋肉を切除し、再建手術が必要になりますが、完全回復は期待できません。

病気に気づいたらどうする

 早急に整形外科を受診しましょう。

藤井 正司


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「フォルクマン拘縮」の解説

ふぉるくまんこうしゅくそけつせいこうしゅく【フォルクマン拘縮(阻血性拘縮) Volkmann Contracture】

[どんな病気か]
 肘(ひじ)の周辺の脱臼(だっきゅう)や骨折などのあとに、内出血や圧迫などによって閉鎖された筋肉・神経・血管の組織(コンパートメント)の内圧が上昇し、循環不全(コンパートメント症候群(しょうこうぐん))がおこり、これによって筋肉の組織が死んだり(壊死(えし))、末梢神経(まっしょうしんけい)まひをきたし、肘から手にかけての拘縮、まひが生じる病気です。
 原因は、子どもでは上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)が多く、おとなでは前腕部圧挫傷(ぜんわんぶあつざしょう)(前腕部が強い力で挟まれたりしておこる)や前腕部骨折が多くなっています。
[症状]
 初めは肘や前腕が著しく腫(は)れて強く痛みます(急性期)。
 進行すると、橈骨動脈(とうこつどうみゃく)の脈拍(手首の脈)が触れなくなり、手指が白くなり、しびれて動かなくなります。
 慢性期になると、軽傷では、2~3本の指が曲がって伸びない状態となり、重症では、手指すべてがワシの爪(つめ)のように変形して、しびれなどの知覚障害が残ります。
[検査と診断]
 急性期の症状がみられたら、筋肉・神経・血管組織のコンパートメント内圧をはかります。内圧が高ければ、コンパートメント症候群と診断し、フォルクマン拘縮になると判定します。
[治療]
 急性期では、まず骨折や脱臼の牽引整復(けんいんせいふく)を行ないます。それでも痛みと腫れがひどく、脈が触れないなど、症状が改善しなければ、できるだけ早く(発症後12時間以内)に、筋肉神経が循環障害をおこすのを防ぐため、前腕部の皮膚、筋膜まで切開し、筋肉内の圧力を下げます。
 慢性期になり、すでに筋肉が壊死して、手指の変形が完成している場合は、筋肉や神経の癒着(ゆちゃく)をとったうえで、変形状態に応じた矯正手術(きょうせいしゅじゅつ)を行ないます。
 フォルクマン拘縮は、いったんおこってしまうと治療はむずかしく、もとどおりには治りません。早期に適切な治療を受ける必要があります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォルクマン拘縮」の意味・わかりやすい解説

フォルクマン拘縮
ふぉるくまんこうしゅく

急激な動脈血行障害によって前腕の主として回内屈筋群が変性・拘縮をおこす疾患で、不可逆性の阻血性筋壊死(えし)と神経障害がみられる。原因としては、小児の上腕骨顆上(かじょう)骨折時の緊迫したギプス固定、あるいは骨片圧迫による上腕動脈のけいれんなどが知られ、不適切な治療によっておこる後遺症である。激甚な疼痛(とうつう)のあることが特徴的で、脈拍の減弱、指の色調の蒼白(そうはく)、麻痺(まひ)や感覚異常もみられる。速やかに肢位を変えたり外固定を除去して阻血を防ぐが、阻血徴候が消えない場合は速やかに専門医の外科治療を受ける必要がある。現在ではこの予防のため、上腕骨顆上骨折の整復後に行う肘(ちゅう)関節の鋭角屈曲位における副子(ふくし)固定や切割のないギプスは禁忌とされている。なお、初めてこの疾患を報告したフォルクマンRichard von Volkmann(1830―89)は、ドイツの外科医である。

[永井 隆]

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世界大百科事典(旧版)内のフォルクマン拘縮の言及

【阻血性拘縮】より

…筋肉の血行障害のため,筋組織が強く障害されて繊維性の瘢痕(はんこん)組織に置き換えられ,筋肉の伸縮性が失われて関節の可動制限をきたし,変形を生じたものをいう。フォルクマン拘縮Volkmann’s contractureとも呼ばれ,小児の肘関節部外傷とくに上腕骨顆上骨折の際ギプスによる緊縛で生ずることが多い。すなわち上腕骨顆上骨折の際,時間の経過とともに関節部の腫張はかなり著しくなるが,整復操作,とくにこれが何度か繰り返し行われた場合には腫張がいっそう増す。…

※「フォルクマン拘縮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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