中央銀行が掲げる将来の金融政策の方針。政策金利を据え置く期間や政策を変更する際の条件を前もって示し、市場参加者の予想や期待に働き掛けて政策の効果を高める。条件を細かく設定するほど政策の自由度を下げることにつながりかねない。目標と経済実態にずれが生じた場合には、市場への説明や目標の修正を迫られる場合もある。(ロンドン共同)
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中央銀行が市場参加者に対し、金融政策を将来どのように変化させるかについて明示する指針。政策金利を据え置く期間を示したり、雇用や物価などの経済指標がどのように変化すれば将来の政策を変更する意志があるのかを伝えるといった手法をとる。これは、中央銀行による金融政策が市場金利に与える影響を強めると同時に、家計や企業の予想や期待に働きかけ、インフレ予想や成長予想を引き上げ、消費や投資を活発にするねらいがある。金融政策をめぐる誤解を避け、体系だった金融政策の先行き(将来の案内)を示すことに由来する名称である。市場との対話術の一つで、日本では「先取り指針」「時間軸政策」とよばれることもある。短期金利がゼロ近辺に定着し、政策金利を下げる余地がなくなった日米欧などの中央銀行が積極的に採用している。日本銀行が1999年(平成11)にゼロ金利政策を導入した際、「デフレ懸念の払拭(ふっしょく)が展望できるようになるまで」とゼロ金利の解除時期を明示したことが、フォワードガイダンスの最初の事例とされる。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は2003年8月、1%の政策金利を「かなりの期間続けることができると予想する」と表明してフォワードガイダンスを導入し、2012年12月には「失業率が6.5%以上でインフレ予想が2.5%を超えない間は、異例の低金利を続ける」と公表した。ヨーロッパ中央銀行(ECB)やイングランド銀行も2013年にフォワードガイダンスを導入し、日本銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)(1944― )も同年に「年2%の物価上昇目標の実現に必要な時点まで」量的・質的金融緩和(異次元緩和)を続けると表明した。
フォワードガイダンスは、あえて将来の金融政策を市場に約束し、自らの政策自由度を奪ってしまう特徴がある。そのため目標とする経済指標を精緻(せいち)化すればするほど、中央銀行の政策の柔軟性が奪われるという指摘もある。とくに目標とした経済指標と実体経済とにずれが生じた場合に中央銀行の信頼性を損なうリスクがあり、事実、イングランド銀行やFRBは2014年に入ってフォワードガイダンスの目安としてきた失業率の数値基準を撤廃した。
なお、欧米では金融政策の効果をあげるために政策変更のさまざまな条件を明確にし、中央銀行が自身の行動を制約する指針を、ギリシア神話の英雄オデュッセウスの苦難の長旅になぞらえて「オデッセイ・フォワードガイダンスOdyssean forward guidance」とよぶことがある。これに対して、あいまいでさまざまな解釈ができる指針を、古代ギリシアのデルフィ(デルフォイ)の神託のあいまいさにたとえて「デルフィ・フォワードガイダンスDelphic forward guidance」という。
[編集部]
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