サケ目サケ科の淡水魚。原産地はヨーロッパで,ヨーロッパではきわめてふつうに見られ,シューベルトの《鱒(ます)》は本種を指す。日本へは昭和の初めにアメリカからカワマス卵を移殖する際に混入して入ったとされる。1936年奥多摩に移殖の記録がある。現在,中禅寺湖ではかなり生息する。形態はニジマスに似ているが,体側に紅色の縦帯がなく,カワマスのような背部の雲形斑紋がない。体側にカワマスよりも大きめの白点および赤点が,黒点に混じって存在するが,ときには赤点を消失したものもある。産卵期は10月下旬~12月で,1年だけでなく数年続けて産卵する。卵はニジマスに比べてやや白濁した黄みを帯びている。卵径は約6mm程度,孵化(ふか)にはニジマスより冷たい水温を必要とし,12.8℃以上では孵化しない。10℃前後で約40日で孵化する。ニジマス,カワマスなどよりも貪食(どんしよく)で,大型の魚をも捕食する。体長はふつうは40cmくらいであるが,最大80cmに達するものもある。釣りの好対象となり美味である。
執筆者:松下 克己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
硬骨魚綱サケ目サケ科に属する魚。体色は黄褐色、体側に粗大な黒点と朱紅点が散在する。分布はヨーロッパの北部・中部の全域、黒海、カスピ海、アラル海周辺から北アフリカにも及ぶ。地域による亜種が多い。一般に淡水生活型であるが、一方、降海・遡河(そか)型のシートラウトがあり、両者の関係はヤマメとサクラマスの関係に似る。南アメリカやタスマニア島に移殖されたブラウン型のものからシートラウトが現れることから、両型に本質的な差のないことがわかる。日本にはおもに北アメリカを経て移入され、中禅寺湖、上高地梓(あずさ)川沿いの池や山岳地帯の冷水湖に放され、小魚、水生昆虫を貪食(どんしょく)して大きく成長する。池中養殖はかなりむずかしい。野生的で釣りの対象としておもしろく、肉味は佳良である。
[久保達郎]
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