男体山(二荒山)南麓にある同山火山活動によって形成された堰止湖で、北岸
弘仁五年(八一四)空海が撰文した沙門勝道歴山水瑩玄珠碑并序(性霊集)には「有一大湖、冪計一千余町、東西不闊、南北長遠、四面高岑倒影水中」とあり、続いて延暦三年(七八四)三月下旬勝道が「至彼南湖辺、四月上旬造得一小船、(中略)棹湖遊覧」したと記される。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
栃木県日光市の南西部,男体(なんたい)山(二荒(ふたら)山)の南に位置する。湖面標高1269m,面積は11.5km2で,標高1000m以上の湖としては日本最大。東西約6km,南北平均幅は約2km,最大深度163m,周囲の長さ21km。男体山から噴出した溶岩によって大谷(だいや)川がせき止められてできた堰止湖である。かつて戦場ヶ原や西ノ湖を含む大湖と考えられたこともあったが,これらの湖はそれぞれ成因を異にする。湖水は華厳滝となって落下する大谷川の表面排水のほか,華厳滝の滝壁から湧き出す十二滝や白雲滝などの地下排水を通して下流に流れ出る。湖尻に設置されている栃木県営の中禅寺ダムは湖水位を最大2m調節できるため,華厳滝の落水量や下流の発電所への流入水量を調整している。湖水の透明度は夏に大きく,1年を通しておよそ8~10mの間を変化する。日光国立公園の中核となっており,湖畔は華厳滝とともに国の名勝に指定され,国際的観光地として知られる。
男体山は古代に僧勝道が開いた山岳信仰の霊場であり,山頂に二荒山神社の奥宮,中禅寺湖北東岸の中宮祠(ちゆうぐうし)に中宮(中宮祠),日光市街に本社がある。現在のいろは坂上り口から上は女人の登山を禁止し,〈峰禅頂〉の僧が湖の東岸歌ヶ浜などを拠点として修行した。さらに近世には一般の人が参加する〈行人〉による〈男体禅頂〉〈船禅頂〉も講の形で行われた。船禅頂は,浜禅頂または補陀落(ふだらく)禅頂ともいわれ,湖上に船をこぎ出し,歌ヶ浜,上野島,千手ヶ浜などの諸堂,霊所を順拝する修行である。中禅寺は勝道によって創建された神宮寺であり,中宮祠とともに神仏混淆の伽藍を形成していたが,明治初めの廃仏毀釈によって中宮祠の所管となり,集落名も中禅寺から中宮祠に改められた。湖名も中宮祠湖とされたが広く用いられるには至らなかった。また,深沢を結界とする女人禁制も解かれ,中禅寺湖とその付近は信仰の対象から観光地へと変化した。旧中禅寺は1902年の山津波で崩壊したが,13年に歌ヶ浜の立木観音を中心に再建され,輪王寺の一堂となっている。
優れた湖畔の景観に加えて,8月の平均気温が18℃と避暑地として絶好の条件を備えていることから外国人が数多く来訪するようになり,明治20年代には湖畔に外国人の別荘が建てられた。観光客の増加につれて食堂,みやげ物店も成立し,かつての茶屋は旅館となり,中宮祠は明治期に定住の集落となった。現在は各種の公共施設が整備され,日光湯元から引湯した中禅寺温泉(硫黄泉,45~73℃)もある。1873年イワナ,コイ,フナ,ウナギなどが湖に放され,82年に琵琶湖のマス,87年にアメリカからニジマスが移殖され,国営の養魚場(現,独立行政法人の水産総合研究センター中央水産研究所日光庁舎)も設置されて,水産業が営まれるようになった。もともと中禅寺湖は神聖な湖とされ,その魚を食べることは禁じられていたが,年間200万尾弱のマスが放流され(2007年度は約140万尾弱),付近の渓流や湯ノ湖とともにマス釣りの名所として知られる。また,かつての船禅頂に代わって,夏季には定期遊覧船が就航し,湖上の名所を巡回している。
執筆者:平山 光衛
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栃木県日光市にある湖。面積11.5平方キロメートルはわが国高山湖の最大。周囲は23.6キロメートル。最大深度は163メートルに達し、華厳滝(けごんのたき)の滝壺(たきつぼ)よりも60メートルほど低い。湖水の透明度は8~10メートルで貧栄養湖に属し、湖水の環境基準は「AA」に指定されている。『日光山志』は「東西凡(およそ)三里余、南北凡一里余」と記しているが、東西約6.7キロメートル、南北は最大3キロメートル、平均1.8キロメートルであるからずいぶんと過大に評価されていた。男体山(なんたいさん)をつくった溶岩が大谷川(だいやがわ)をせき止めて湖が生まれ、華厳滝をかけるに至った。一時は戦場ヶ原や西ノ湖(さいのこ)とともに大湖をなしていたと考えられたが、現在はそれぞれ別々の成因をもつことが明らかにされている。湖尻に県が管理する高さ2メートルの中禅寺ダムがあり、湖からの落水量を調節している。マスが放流され、5~9月が遊漁期となっている。日光国立公園自然美の中核をなし、国の名勝に指定されている。湖中の上野(こうずけ)島には、勝道上人(しょうどうしょうにん)の遺骨を納める碑石があり、湖の周りはホテル、旅館、保養所などのほか、夏季にはキャンプ場が開かれる。また、遊覧船も就航している。JR日光駅、東武鉄道日光駅よりバスで50分。
[平山光衛]
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