プランクトン(読み)ぷらんくとん(英語表記)plankton

翻訳|plankton

デジタル大辞泉 「プランクトン」の意味・読み・例文・類語

プランクトン(plankton)

遊泳能力がほとんどなく、水中または水面を浮遊している生物の総称。動物プランクトンには原生動物・クラゲ類・貝類・甲殻類やそれらの幼生、植物プランクトンには珪藻けいそう藍藻らんそうなど、多くのものが含まれる。量的に多産するので、水生動物の餌として重要であるが、赤潮の原因となるものもある。浮遊生物。

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精選版 日本国語大辞典 「プランクトン」の意味・読み・例文・類語

プランクトン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] plankton [ギリシア語] planktós 「放浪者」の意に由来 ) 水中で浮遊生活を営む生物の総称。多くは顕微鏡的大きさで、ほとんど遊泳力をもたないが、大形のクラゲなども含まれる。また各種動物の幼生も多くみられる。動物プランクトンと、珪藻類・藍藻類・緑藻類などからなる植物プランクトンとに区別される。淡水・海水に広く分布し、魚などの天然のえさとして水産業上重要であるが、夜光虫や鞭毛虫類が大量に発生して赤潮現象を起こし、養殖魚介類に大害を与えることもある。浮遊生物。〔外来語辞典(1914)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「プランクトン」の意味・わかりやすい解説

プランクトン
plankton

浮遊生物ともいう。プランクトンの名はギリシア語の〈漂うもの〉を意味する語planktosに由来し,1887年にドイツのヘンゼンV.Hensenにより最初に用いられた。自分自身に移動力がまったくないか,あってもひじょうに弱く,水の動きに逆らって移動せず,水中に浮遊して生活している生物群集と定義される。水圏の生物群集を生態的に区分するとき,水中を自由に遊泳するネクトンnekton(遊泳生物),海底と接触して生活するベントスbenthos(底生生物)と対比する語として用いられる。プランクトンは大部分が数μmから数cmの小型の生物であり,顕微鏡を用いなければ体の構造はもちろん,その存在さえ確認できないような微細な種類が多いが,傘の径が1mを超すエチゼンクラゲもプランクトンとして扱われる。しかし,実際的,現実的にはプランクトンネットやバケツなどで採集される水中の生物をさすことが多い。近年,移動力の点でプランクトンとネクトンの中間にあるようなオキアミ,サクラエビのような甲殻類,ハダカイワシのような小型魚類などをマイクロネクトンmicronektonと呼び,プランクトン学の一分野として研究されている。

 浮遊生活への適応はプランクトンの最も著しい特徴である。体を小さくするだけで容積に対し表面積が大きくなり,水との摩擦抵抗が大きくなる。さらに,突起物を出したり,ガスや油を蓄えたり,水分含有量を多くしたりして沈降を防いでいる。プランクトンは大きさ,生息水域,生息深度,浮遊生活の期間などにより類別がなされている(表参照)。

すべての大きさのプランクトンを一度に採集する方法はない。採集法には〈採水法〉と〈ネット法〉がある。採水法はバケツまたは採水器により一定量の水をとり,その中のプランクトンを調査する方法である。微細なプランクトンの採集や植物プランクトンの定量などに用いられる。ネット法はプランクトンネットを用い,水中を引網することによりプランクトンを採集する方法である。定量にはネットの口の部分にろ水計をつけて,ろ過水量を測定する。ネットの網目は対象とするプランクトンに応じて決めればよいが,一般に動物プランクトン用には0.3mm,植物プランクトン用には0.1mmが用いられる。目的により開閉型,高速採集用,近底層採集用など種々な採集具が考案されている。

プランクトンはクロロフィルをもち,光合成を行う植物プランクトンと,植物プランクトンを直接あるいは間接的に餌として生活する動物プランクトンとに分けることができる。植物プランクトンには分類学的に高等なものはなく,ラン藻,ケイ藻,鞭毛(べんもう)藻,緑藻など,すべて藻類に属する植物により構成され,単細胞あるいはその集合した群体として出現する。海洋ではケイ藻,鞭毛藻が,淡水域ではラン藻,緑藻が量的に重要である。動物プランクトンは原生動物から脊椎動物にいたる,ほとんどすべての動物門の動物が出現する。重要な動物群としては,原生動物(放散虫,有孔虫,繊毛虫),クラゲ類,ワムシ類,甲殻類(ミジンコ類,橈脚(じようきやく)類(コペポーダ),アミ類,端脚類,オキアミ類など),ヤムシ類,軟体動物の翼足類,原索動物(サルパ類,尾虫類)などである。中でも甲殻類は種類数,出現数はともに多く,陸上の昆虫類に比肩される。成体時には底生生活や遊泳生活をする環形動物の多毛類,多くの貝類,エビ・カニ類,棘皮(きよくひ)動物のウニ,ナマコ,ヒトデ,多くの魚類なども卵や幼生期には浮遊生活をしており,これらも重要な構成員である。

植物プランクトンは光合成を行い,コンブやアオノリなどの海藻とともに,水圏における有機物生産者として極めて重要である。生産された有機物は,直接それを餌とする動物プランクトンや,その動物プランクトンを餌とする小魚など,食物連鎖をとおして魚類や鯨類を育てるもととなる。したがって,海洋のすべての生物生産の基礎になるので,植物による生産を基礎生産(一次生産)という。基礎生産者は光を利用するので,ほぼ100m以浅の有光層でのみ生活できる。植物プランクトンの基礎生産は光,温度,栄養などの影響を受ける。中でも窒素やリンなどの栄養塩類は大部分の海洋では不足しており,繁殖の上での制限要因となっている。これらの栄養塩類はおもに生物の死体や排出物に由来するが,消費するもののいない中層や深層に蓄積している。これが湧昇流などにより有光層に運ばれると,植物プランクトンの繁殖が促される。その最も顕著な例は南アメリカのペルー沖にみられる。豊富なプランクトンを求めてカタクチイワシが集まり,世界的な大漁場となっている。ペルー沖に限らず,世界の有数な漁場は基礎生産量の高い海域とおおむね一致している。

 プランクトンの量は季節的に変化する。温帯から亜寒帯の海では,冬季には表層の水温が低下して上下層間の水温差がなくなり,海水の鉛直混合が活発になり,下層の栄養豊富な水が表層に運ばれる。春季にはその栄養を利用して植物プランクトンの増殖がみられ,これにつれて動物プランクトンもふえる。夏には海水は暖められて,表層は比重の軽い水におおわれて海水は安定した状態となり,下層からの栄養塩の補給はなく,また動物プランクトンによる捕食も盛んに行われるので,植物プランクトンは減少する。秋には動物プランクトンの死体や排出物により植物プランクトンは再び増殖するが,春ほどの増加はみられない。このように,通常,プランクトンは春と秋の2度の増殖期をもつ。2度の増殖期の間隔は高緯度地方に移るにつれて短くなり,極地の海では夏に1回の増殖がみられるにすぎない。プランクトン量の地理的分布は,一般的には,陸地から栄養の流入する内湾,沿岸域や鉛直混合により栄養塩の補給されやすい高緯度地方に多く,逆に外洋域や海水の成層状態の安定している熱帯海域には少ない。

 動物プランクトンには日の出ごろ深層に沈降し,日没ごろ表層に浮上する鉛直移動を行うものが多い。移動の幅,その上限や下限などは種や成長段階によって異なるが,多くの種では50~100m,中には200~300mの移動を行う種もある。暗い深層に沈降することにより,視覚により餌をとる魚から逃れるためとの説もあるが,理由についてはまだ十分に解明されていない。鉛直移動の結果として,表層で生産された有機物が短時日のうちに深層に輸送されることになり,海洋の物質循環に大きな役割を果たしている。

沿岸域の富栄養化した海域では,しばしばプランクトンが大増殖し,そのために海水が着色することがある。これを赤潮と呼ぶ。赤潮生物の種や生理状態により,必ずしも赤くはならず,赤褐色,桃色,褐色,緑色,黄緑色などさまざまである。〈潮〉の字が示すように,元来は海域での現象に対し用いられた語だが,近年は淡水赤潮の呼名も使われている。赤潮の原因となる生物の種は多いが,ケイ藻,鞭毛藻,ヤコウチュウの場合が多い。通常,それらのうちの1種が大増殖して赤潮となるが,春季,三陸沖にみられる〈厄水(やくみず)〉と呼ばれる赤潮は,数種のケイ藻の混合したものである。赤潮はときに水産業に大きな被害を与える。毒物質を生産するプランクトンの中には,必ずしも赤潮にはならず,また魚貝類に対してはなんら毒性を示さないが,それを餌として食べた魚貝類に毒が移行,蓄積し,人間がその魚貝類を食べたときに中毒を起こす場合がある。中でもホタテガイやカキなどの二枚貝にみられる〈麻痺性貝毒〉はフグ毒に類似した強毒で,ある種の鞭毛藻に由来している。
赤潮

漁獲対象となるプランクトンは1cm以上の大型種で,クラゲを除けばすべて甲殻類で集群性をもつものに限られる。食料となるクラゲはエチゼンクラゲ,ビゼンクラゲなど根口クラゲ目に属する5種が知られ,日本,中国,東南アジアなどで漁獲される。日本では有明海が主産地である。サクラエビは5~6cmに達する浮遊性のエビで,世界中で駿河湾のみで漁業が行われている。漁獲物は乾製品として市販される。アキアミは〈アミ〉の名がついているが,サクラエビと近縁な小型のエビである。アジア,アフリカの熱帯域や中国では,ペーストやソースなどの発酵食品に加工され,日常の重要なタンパク源になっている。日本では有明海,瀬戸内海,富山湾などで漁獲され,〈アミの塩辛〉として売られている。オキアミのうち日本で漁獲されるツノナシオキアミは,岩手県から茨城県の沿岸で,春季,沿岸に浮上してきた群を対象として漁獲される。ナンキョクオキアミはかつてはヒゲクジラ類の餌として重要な役割を果たしてきたが,現在でも南極海海洋生態系のかなめとしての重要性に変りはない。本種の資源量は数千万~20億tと推定され,将来の動物タンパク源として世界的に注目されている。ソ連は1961年より,日本では72年より操業を開始し,食料,養魚や釣りの餌として利用されている。アミは湖沼や沿岸域で漁獲され,つくだ煮になる。天然の植物プランクトンでは,食料その他の目的で収穫されるものはないが,クロレラはタンパク質の含量が乾量の50%にも達し,必須アミノ酸であるリシンを多く含んでおり,食糧源として栽培されている唯一の植物プランクトンである。

 水産養殖では子魚期の餌として大きさが適当なこと,捕食しやすい浮遊状態を保つこと,水質を悪化させないことなどから,生きたプランクトンが利用される。コイ,フナなどの淡水魚にはワムシ,ミジンコなどが,タイ,ヒラメなどの海産魚にはワムシ,橈脚類,カキの幼生などが,クルマエビにはケイ藻のスケレトネマが使われる。今日の水産養殖の発展は,スケレトネマやワムシなど餌生物の大量培養法の進歩が大きな支えとなっている。ケイ藻,有孔虫,放散虫,翼足類などは死んだ後も殻や骨格が海底に沈積し,軟泥をつくっている。ケイ藻軟泥がその後の隆起により陸上に現れたのがケイ藻土で,工業用製品に利用されている。また,石油の成因にはプランクトンが大きく関与しているといわれ,ある種の有孔虫は石油探査の指標となる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プランクトン」の意味・わかりやすい解説

プランクトン
ぷらんくとん
plankton

水中生物のうちで、運動能力がまったくないか非常に弱く、水に漂っている生物群。浮遊生物ともいう。名前はギリシア語の「放浪させられる者」という意味のことばからきている。水中の生物をその生活の仕方によって分けた区分の一つで、ほかに自由に泳ぎ回ることのできるネクトン(遊泳生物)、水底や岩などに付着・潜入したりはい回っているベントス(底生生物)があり、さらに厳密には他の生物に寄生する寄生生物がある。プランクトン以外の生物群もその大部分は繁殖の一時期をプランクトンとして過ごすが、これを幼生プランクトンという。これに対し生涯プランクトンとして過ごすものを終生プランクトンという。

[松崎正夫]

分類

分類学的には植物プランクトンと動物プランクトンに大別される。前者は体内にクロロフィルなどの色素をもち光合成によって独立栄養を営み、後者は他の生物やその破片を捕食し従属栄養を営む。系統的には魚卵や稚魚から原生動物までほとんどすべての動植物群が含まれるが、なかでも植物では珪藻(けいそう)類、藍藻(らんそう)類、緑藻類、鞭毛(べんもう)藻(虫)類、動物では橈脚(とうきゃく)類(甲殻類)、毛顎(もうがく)類(ヤムシ類)、サルパ類などが終生プランクトンとして繁栄している。

 プランクトンの大きさは数マイクロメートルから数ミリメートルのものがほとんどであるが、なかにはクラゲ類のように1メートルを超えるものもあり、大きさによって巨大・大形・小形・微小・極微小プランクトンなどとよぶ。最近は電子顕微鏡の普及によって微小なプランクトンの分類が進み、決定された種類数はなお増え続けている。

[松崎正夫]

浮遊適応

プランクトンの形態的特徴は、水中での位置を保つための適応が著しいことである。すなわち、一般にきわめて小形で相対的な表面積が大きいほか、繊毛、鞭毛、刺毛、突起などが発達し水の抵抗を大きくしている。また体内に油球やガスをもつものもある。幼生プランクトンでは親とまったく異なる形態を示し、浮遊生活に適応している。しかし、プランクトンが死んでしまうと、その遺骸(いがい)は分解したり、また小さな塊となって静かに海底に沈潜していくが、この現象をマリンスノーmarine snowという。降雪に似ているところから名づけられたもので、海雪(かいせつ)と訳される。

[松崎正夫]

分布

プランクトンはあらゆる水域にすむ。生息場所によって海洋プランクトン、汽水プランクトン、淡水プランクトン、また海洋のなかでも沿岸・沖合い・外洋プランクトン、淡水では湖沼・河川プランクトンなどの語が用いられる。さらに表層・中層・深層・暖水性・冷水性プランクトンなどにも区分される。

 プランクトンは性質上流れに身を任せているので、その種類がいつどこで増殖するかをあらかじめ知ることにより、水塊の移動や混合、流れの変化などを知る手掛りとなる。このため海洋観測にはプランクトンの採集を加えることが多い。また沿岸や淡水ではプランクトンの種類と量の変化によって水の汚染の状態や赤潮の発生を監視する。このような調査によく使用される種を指標種という。

 植物プランクトンは日光が有効に到達する表層(有光層)に分布し、外洋でも200メートル以深にはほとんどみられないが、動物プランクトンは深海までのあらゆる深さに分布し、また著しい特徴として、昼間は中層に夜間は表層にと日周期の垂直移動をするものが数多く知られている。甲殻類の橈脚類、オキアミ類などには数百メートルに及ぶ垂直移動を集団で行うものがあり、音響測深機や魚群探知機に記録されたものを擬底層とよぶ。

 プランクトンの分布を決定するものは、水温・塩分・水の流れ・明るさ・水深などの物理的条件のほか、栄養塩類、餌(えさ)の量、捕食者の量などがあり、種類によってそれぞれ異なる。陸水や沿岸、表層など環境変化の多い所に生息するものは広い耐性をもち、沖合い、深層のものは耐性の範囲が狭い。量的には陸水の流入する沿岸域や水塊の境界、冷水域など水の湧昇(ゆうしょう)のおこりやすい所に多く、外洋、熱帯では少ない。これらのおもな原因は植物プランクトンに必要なリン・窒素・ケイ素などの栄養塩の量で、漁場形成の重要な要因となっている。プランクトンも他の生物群と同様に寒帯では種類数が少なくて個体数が多く、熱帯では種類数が多くて量が少ない。

[松崎正夫]

季節変化

温帯では春と秋の2回、寒帯では初夏に1回植物プランクトンの大きな増殖期がみられる。冬季は日光の不足、低温、激しい対流混合などのため植物プランクトンの増殖は抑えられているが、この混合のため無光層から有光層への栄養塩の補給が行われ、春季に日射の増加、対流の停止とともに大増殖がおこる。夏季は表層に密度成層が発達するとともに有機物は無光層へ沈降し、有光層では栄養塩が不足して植物は減少するが、秋季に対流混合の再開とともに温帯で中規模の増殖がおこる。動物プランクトンは植物の増殖期にやや遅れて増加する。幼生プランクトンをはじめ春から夏にかけて増加する種が多いが、秋季に増殖の中心があるものもある。一般に増殖期には小形の個体が多くみられ、また季節によって顕著に形態の異なる種も知られている。熱帯では動植物とも季節変化は明瞭(めいりょう)でない。

[松崎正夫]

生活との関連

日本ではアミ類、サクラエビ、イワシ類の稚魚(シラス)、ビゼンクラゲなどが塩漬け、佃煮(つくだに)、中華料理などに用いられる。これらは直接食用とされるものであるが、さらに重要なのはすべての水産物の基礎生産者としての役目である。すなわち、植物プランクトンによってつくりだされた有機物は動物プランクトンに受け継がれ、さらに大形の生物に利用されて水中の食物連鎖を形成する。

 プランクトンの豊凶は有用魚種の稚仔(ちし)の生存率に大きく影響し、またイワシ類、マアジ、ニシンなどプランクトン食性魚の漁況には直結する。近年の養殖業の発展にはその種苗となる稚仔の養成が不可欠で、そのために用いる餌料(じりょう)プランクトンの大量培養技術の発達によるところが大きい。

 一方、海洋でプランクトンがときに大繁殖をして水色が変わってしまう状態を「赤潮」という。この現象は、その海域の水中溶存酸素をプランクトンが大量に消費するため、魚貝類を死滅させることになり、水産業に大きな被害を及ぼす。赤潮は、内湾や湖沼の栄養塩の多い場所で、珪藻・藍藻類や鞭毛藻(虫)類などのプランクトンにより、主として夏季の水の動きの少ないときに発生する。湖沼・養魚池などの淡水域での同様な現象を「水の華」water bloomという。この水変り現象は、青色、紅褐色や黄褐色を帯びるが、この場合のプランクトンは前者がミドリムシ、クロレラなど、後者はツノモ、珪藻などである。

[松崎正夫]

採集と研究

採集にはプランクトンネットを用いる方法と採水法がある。プランクトンネットはナイロン製の網地を円錐(えんすい)形とし先端に採集物を集める管をつけたもので、目的によって長さや網目に多くの種類があり、垂直曳(ひ)き・水平曳き・所定の深さで開閉する方法などがある。微小なプランクトンはバケツ、採水器などにより一定量の水をくみ、放置沈殿、遠心分離して濃縮し採集する。採集物は普通10%程度のホルマリンで固定保存後、光学顕微鏡、走査型や透過型電子顕微鏡などによって種類の同定・計数・形態の研究を行う。

 植物プランクトン量を測定する一法として、植物色素量、とくにクロロフィルaを蛍光分析により定量することができる。一般にアセトン抽出して行うが、水中に測定器を入れて連続的に測定する方法や、航空機や人工衛星から広範囲に測定する方法も試みられている。プランクトンを飼育することによって、摂餌、成長、繁殖、代謝などの生理の研究が進み、多くの培養法や装置がくふうされている。植物プランクトンによる光合成量を測定するためには、定量瓶に培養し酸素量の変化を測定する方法や、炭素同位体の摂取量を測定する方法がある。これらプランクトンの定量的研究は水中における生態系の解明の基礎となり、とくに水産資源の科学的管理のために欠かせない。

[松崎正夫]

『小久保清治著『海洋・湖沼プランクトン実験法』(1965・恒星社厚生閣)』『山路勇著『日本海洋プランクトン図鑑』(1966・保育社)』『宝月欣二著『生態学研究講座3 水界生態学』(1974・共立出版)』『丸茂隆三編『海洋学講座10 海洋プランクトン』(1974・東京大学出版会)』『大森信・池田勉著『生態研究法講座5 動物プランクトン生態研究法』(1976・共立出版)』『水野寿彦著『日本淡水プランクトン図鑑』(1977・保育社)』


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百科事典マイペディア 「プランクトン」の意味・わかりやすい解説

プランクトン

planktonはギリシア語のplanktos(漂うもの)を語源とし,運動能力が弱く,波のまにまに漂って生活している動植物をいう。浮遊生物とも。水中を自由に遊泳するネクトンや海底と接触して生活するベントスと対比する語。大きさは数μmのバクテリアから直径1mにもなるエチゼンクラゲまでさまざま。一生をプランクトンとして生活するものと,稚魚,ウニやカニの幼生のように一時期をプランクトンとして過ごすものとがある。葉緑素をもって光合成を営む植物プランクトンは動物プランクトンの餌となり,さらに動物プランクトンはイワシやサバなど魚類やヒゲクジラ類の重要な餌となる。種類は非常に多いが,植物プランクトンではケイ藻類が,動物では小型甲殻類,特に橈脚(じょうきゃく)類(コペポーダ)が代表的。突発的に大増殖すると赤潮となり,真珠やカキ養殖に大害を与えることがある。
→関連項目タイヨウチュウ地球規模海洋生態系変動研究計画パンドリナ鞭毛虫ボルボックスミドリムシヤコウチュウ(夜光虫)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プランクトン」の意味・わかりやすい解説

プランクトン
plankton

浮遊生物ともいう。水中に浮遊して生活する微小な生物の総称。ベントス (底生生物) やネクトンとともに水生生物の生態群を区別する語。個々の生物はむしろ受動的に水中に浮遊し,自力で積極的に遊泳することは少い。したがって遊泳のための器官は,単細胞のものなら鞭毛,多細胞のものでも簡単な脚などをもつにとどまるか,またはこれを欠いている。ケイ藻類,デスミッドなどのような緑藻類および青粉などのような藍藻類は植物性プランクトンと呼ばれ,原生動物をはじめとして,ミジンコなどのような甲殻類,クラゲ類,各種動物の幼生などは動物性プランクトンと呼ばれる。プランクトンは,大型水中生物の基礎餌料となり,重要なものである。 1970年代になって,工場排水や生活排水による湖沼,沿海の富栄養化によって特定のプランクトンが異常増殖し,これが2次的な水質汚濁の原因となっている。海の赤潮は植物性のものも動物性のものもあるが,魚介類を大量に殺す場合があり,またこの大量の死骸が沈殿すると,へどろとなって海底に積って分解し,やがて無酸素化して嫌気性の分解を行い,海底を無生物状態にすることがある。湖沼ではミクロキスチスなどの青粉が水面を埋めつくし,この死骸が水底で硫化水素などを発生させて魚介類を死滅させる。

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海の事典 「プランクトン」の解説

プランクトン

水中の生物の中で、水中に浮遊し、自分自身の運動能力が無いか、あってもきわめて弱いものをプランクトン(浮遊生物)という。これに対して、魚のように大 きな運動能力を有するものをネクトンという。生態的な分類であるため、プランクトンはきわめて多様で、植物(植物プランクトン)から動物(動物プランクト ン)までを含み、1m以上の大きさのくらげから、数μの原生動物や珪藻まで種々の大きさを持つ。 (永田)

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栄養・生化学辞典 「プランクトン」の解説

プランクトン

 水生の生物で,水中を浮遊して生活するもの.通常非常に小型のものをいう.

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世界大百科事典(旧版)内のプランクトンの言及

【海】より

…海の生物の中には,顕花植物のアマモや,哺乳類のクジラ,アザラシ類などのように,陸上で進化したグループが,再び海に生活の場を求めて適応進化したものもいる。
[海の生態学]
 海の生物の生活型は,大きくプランクトンplankton(浮遊生物),ベントスbenthos(底生生物),ネクトンnekton(遊泳生物)の三つに区別される。プランクトンは,海水中に浮遊して生活し,自らの能力で移動しないものを指し,ネクトンは,強い遊泳能力をもって水中で生活するもので魚類や,イカ・タコの類,エビ類,それに水生哺乳類などが含まれる。…

【生活型】より

…ろ過食者ともいう)という類型がある。 生活型として最もよく使われるのは,水中生物についてのプランクトンplankton(浮遊生物),ネクトンnekton(遊泳生物),ベントスbenthos(底生生物)という類型であろう。これは呼び名の示すとおり,生物の遊泳能力にもとづく生活型分類である。…

【海】より

… 200mより浅い陸棚の海底には,陸地から運びこまれた,わりに粒の粗い陸性堆積物がある。深さ200m以深の大陸斜面では陸から運ばれてきた泥や砂は少なくて,おもにプランクトンの遺骸からなる遠洋性の堆積物と,粒の細かい陸源の泥を含む亜洋性堆積物がある。もっと深い大洋底は非常に細かい生物の遺体からできたどろどろの軟泥からなる。…

【生活型】より

…特殊な食性についての類型としては,リター・フィーダーlitter‐feeder(落葉,落枝を食べる動物),デトライタス(またはデトリタス)・フィーダーdetritus‐feeder(生物の遺体を食べる動物。枯食者ともいう)があり,特殊な摂食様式としてフィルター・フィーダーfilter‐feeder(水中でプランクトン類をろ過して食べる動物。ろ過食者ともいう)という類型がある。…

【藻類】より

…基物について生育するものを底生藻または着生藻といい,漂って生育するものを浮遊藻という。浮遊藻はふつう植物プランクトンと呼ばれる。
[分類]
 藻類の分類には,最も重要な物質代謝である光合成に関する特徴が,第1の基準となっている。…

※「プランクトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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