プラーナ(英語表記)Purāṇa

精選版 日本国語大辞典 「プラーナ」の意味・読み・例文・類語

プラーナ

(Purāṇa) 古譚(こたん)。紀元前五世紀ごろからの、古代インドのヒンドゥー教の主神ビシュヌ神やシバ神にまつわる伝説を主としたもの。

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デジタル大辞泉 「プラーナ」の意味・読み・例文・類語

プラーナ(〈梵〉Purāṇa)

《古い物語・古伝説の意》ヒンズー教の伝える一連の聖典文献。神話・伝説をはじめ、あらゆる分野の内容を含むが、なかでもビシュヌシバ両神を賛美する内容が目立っている。

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改訂新版 世界大百科事典 「プラーナ」の意味・わかりやすい解説

プラーナ
Purāṇa

サンスクリットで〈古い(物語)〉を意味し,一群のヒンドゥー教聖典を指す。インドの伝承では,チベーダを編纂し《マハーバーラタ》を著述したとされる伝説上の聖仙ビヤーサの作とされ,〈第5のベーダ〉とも呼ばれる。起源は古く,バラモン教時代に伝えられた神々,聖仙,太古の諸王に関する神話,伝説,説話に発すると考えられ,これらは,ベーダの伝承者とは別に存在したとされる職業的語り手の集団によって伝承された。こうした集団は叙事詩(《マハーバーラタ》《ラーマーヤナ》)の伝承集団と近い関係にある一方,ベーダの祭式や解釈学,また法の成文化にもかかわっていた。多様な側面をもつプラーナの原型は,バラモン教からヒンドゥー教へという社会の大きな変化の中で,新たに発生した寺廟や巡礼地に集まる身分の低い僧職の人々に受け継がれた。彼らはヒンドゥー教のあらゆる要素を取り入れ,挿入,改ざんを繰り返し,4世紀から14世紀の間に現形の諸プラーナを定着させた。

 諸プラーナのうち代表的プラーナとして以下の18の〈大プラーナMahāpurāṇa〉があげられる。すなわち〈ブラフマ〉〈パドマ〉〈ビシュヌ〉〈バーユ〉〈バーガバタ〉〈ナーラダ〉〈マールカンデーヤ〉〈アグニ〉〈バビシュヤ〉〈ブラフマバイバルタ〉〈リンガ〉〈バラーハ〉〈スカンダ〉〈バーマナ〉〈クールマ〉〈マツヤ〉〈ガルダ〉〈ブラフマーンダ〉である。それぞれ《ブラフマ・プラーナ》というように呼ばれる。叙事詩と同様に,主として平易なシュローカ(16音節2行の詩型)で書かれ,古典サンスクリットの文法には合わない形も多い。内容は,ヒンドゥー教諸神の神話,伝説,賛歌,祭式,また宗派神崇拝のための斎戒儀礼(ブラタ),巡礼地の縁起(マーハートミヤ),祖霊祭,神殿・神像の建立法,カースト制度,住期の義務,さらに哲学思想,医学,音楽など,ヒンドゥー教のあらゆる様相を示している。6世紀ころの辞典《アマラコーシャ》などにみられる伝承によれば,プラーナは次の五相(パンチャラクシャナpañcalakṣana)を備えているとされる。すなわち,(1)宇宙の創造,(2)宇宙の還滅再建,(3)神仙の系譜,(4)人祖マヌの治世の記述,(5)日種・月種に属する諸王朝の歴史,である。しかしこれらは,むしろ先に述べたプラーナの原型・古型の特徴を示すとされ,現存のプラーナにはこうした要素をほとんど含まないものもある。

 プラーナは,正統派のバラモンからはベーダを学習する資格がない婦女シュードラの教育を目的としたものと評されることもある。しかしこのことは,ヒンドゥー教の土俗的・民衆的側面を代表する文献としてのプラーナの性格を物語るものでもある。なお,〈大プラーナ〉のほかに〈副プラーナ〉と呼ばれる聖典群も数多く存在する。また,ジャイナ教ネパール仏教の聖典にもプラーナを名のるものがあり,様式はヒンドゥー教のそれに等しい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プラーナ」の意味・わかりやすい解説

プラーナ
ぷらーな
Purāa

ヒンドゥー教徒の伝える一群の聖典文献の総称。宗派的色彩が濃く、おおむねビシュヌ、シバ両派のいずれかに所属する。「プラーナ」の語は「いにしえの物語」を意味するが、これが特定の書物をさすようになったのは『アタルバ・ベーダ』以降とみられ、また現在のようなプラーナ文献が予想されるのはスートラ文献以降のことと推定される。いずれにせよ、きわめて長期間にわたって徐々に諸種のプラーナがつくられていったとみられる。言語、韻律その他の点で、とくに叙事詩『マハーバーラタ』とは共通性を示すが、内容的にはきわめて雑多であり、一貫性には乏しい。しかしビシュヌ神やシバ神についての神話や化身伝説、宇宙論、哲学的世界観、宗教儀礼(とくに祖霊祭)、社会制度、医学、文芸論など、種々の問題に幅広く言及しているので、プラーナ文献はヒンドゥー教の思想や文化の万般を知るうえで、資料的に大きな価値を有する。18の「大プラーナ」と同数の「副プラーナ」とがあり、前者には有名な『ビシュヌ・プラーナ』や『バーガバタ・プラーナ』が含まれている。

[矢島道彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「プラーナ」の意味・わかりやすい解説

プラーナ
Purāṇa

ヒンドゥー教の聖典。もとは古譚,古伝説の意味。主題は (1) 宇宙の創造,(2) 宇宙の破壊および再生,(3) 神々および聖賢の系譜,(4) 人祖マヌに支配される長い期間,(5) 王朝の歴史の5項目といわれている。現在プラーナの代表的なものは 18種伝わっているが,前述の5項目のほかにも多数の神話伝説を含み,また哲学,宗教,祭式,習俗,政治,法制,天文,医学,兵学などあらゆる主題を内包する百科全書的な文献である。古いものはおそらく3世紀以前につくられたが,後世にいたるまで次々とつくり続けられた。プラーナのうちでも『ビシュヌ・プラーナ』と『バーガバタ・プラーナ』はビシュヌ派のみならずインドの宗教,文化に多大な影響を与え,特に後者はバクティ運動のバイブルとされた。 (→ウパプラーナ )  

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百科事典マイペディア 「プラーナ」の意味・わかりやすい解説

プラーナ

ヒンドゥー教の聖典。サンスクリットで〈古い(物語)〉の意。宇宙の創造,神々の系譜,諸王朝の歴史を述べた文献で〈第5のベーダ〉とも呼ばれる。シバビシュヌはこの書の中で最高神とされる。4―14世紀の間の成立で,現在代表的なものが18種伝わっている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「プラーナ」の解説

プラーナ
Purāṇa

古代・中世インドの宗教文献群の総称。「古い(物語)」を意味する。4世紀頃から15世紀頃の間に多くのプラーナがつくられた。大プラーナといわれるものは18を数え,同数の副プラーナなどを含む。元来,宇宙の創造・消滅,諸王朝の系譜などが中核をなした。これに,ヒンドゥー教の神話,宗教儀礼,聖地の縁起,人々の義務,音楽,医学,建築学などさまざまな内容が付加されていった。ジャイナ教やネパール仏教の聖典,地方語のプラーナもある。

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世界大百科事典(旧版)内のプラーナの言及

【インド神話】より

…また近年,比較神話学の分野において,インド神話は重要な位置を占めている。インド神話は,一般にベーダの神話と,叙事詩・プラーナ聖典の神話に大別される。
【《リグ・ベーダ》の神話】
 前1500年から前900年ごろに作られた,最古のベーダ文献である《リグ・ベーダ本集》には,一貫した筋の神話は見いだされないが,事実上の作者である聖仙(リシ,カビ)たちは,当時のインド・アーリヤ人が持っていたなんらかの神話を前提として詩作したと思われる。…

【インド文学】より

…ベーダ文学は時代の推移に伴い,神話的のものから神学的,哲学的,祭儀的となった。
【二大叙事詩とプラーナ】
 インドの国民的二大叙事詩《マハーバーラタ》と《ラーマーヤナ》は,古代文学と中古文学の中間にあってインド文学史上重要な地位を占め,その影響は国外にまで及んでいる。《マハーバーラタ》はバラタ族に属するクルとパーンドゥの2王族間の大戦争を主題とする大史詩で,18編10万余頌の本文と付録《ハリ・バンシャHarivaṃśa》から成り,4世紀ころに現形を整えるまでに数百年を経過したものと思われ,その間に宗教,神話,伝説,哲学,道徳,制度などに関するおびただしい挿話が増補されて全編の約4/5を占めているが,それらのうち宗教哲学詩《バガバッドギーター》,美しいロマンスと数奇な運命を語る《ナラ王物語》,貞節な妻《サービトリー物語》などは最も有名である。…

【ヒンドゥー教】より

…ヒンドゥー教の聖典中,今日でも最も愛唱され尊崇されている《バガバッドギーター》は前者の一部である。(2)プラーナ(〈古譚〉の意) 自ら〈第五のベーダ〉と称し,一般大衆のヒンドゥー教に関するいわば百科事典ともいえる聖典である。宗派的色彩が濃厚で,だいたいビシュヌ派か,シバ派のいずれかに属している。…

※「プラーナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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