ギリシア神話のティタン(巨人)神の一人。その名は〈先に考える男〉の意。イアペトスIapetosの子。アトラス,エピメテウスEpimētheus(〈後で考える男〉の意)の兄弟。デウカリオンの父。ヘシオドスの《神統記》によれば,かつて神々と人間が犠牲獣の分け前をめぐって争ったとき,彼は牛の骨を脂肉で包んだものと,肉と内臓を皮に包んだものをつくって,いずれを取るかゼウスに選ばせた。するとゼウスは前者に手を出したため,以後,犠牲獣の美味な部分は人間が食する定めとなった。その後,これを怨んだゼウスが火を人間から隠すと,プロメテウスはひそかに天上の火を大茴香(ういきよう)の茎に移して地上に持ち帰り,またもやゼウスの裏をかいて人間の苦境を救った。そこでゼウスは,人間どもの禍いの因となるべく,神々に命じてつくらせた人類最初の女パンドラをエピメテウスの妻に与える一方,プロメテウスをカウカソス(コーカサス)山の岩に鎖でつなぎ,肝臓を鷲についばませた。この肝臓は夜の間に元どおりになるので,彼の苦痛は絶えることがなかったが,のち英雄ヘラクレスに解放されたという。このほか,彼は粘土から人間を創造したとの伝承もあり,またアイスキュロスの悲劇《縛られたプロメテウス》では,天文,数,文字など,さまざまの技術を人間に教えた恩人とされている。彼を主題とした近代の文学作品では,イギリスの詩人シェリーの《プロミーシュース解縛》(1820),フランスの作家ジッドの《鎖を解かれたプロメテ》(1899)などが有名。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話のティタン神族の1人。アトラスやエピメテウスの兄弟にあたる。ティタン神族とオリンポス神族が覇権を争ったとき、プロメテウスは世界の支配権がゼウスに帰することを予見して彼に味方した。そのため敗れたティタンたちが大地の奥底タルタロスに投げ込まれても、彼だけは神々や人間たちと自由に往来することを許された。しかし、やがて悲惨な状態にある人間に深く同情するようになったプロメテウスは、人間に対して容赦のないゼウスと対立するようになる。犠牲の牛を神々と人間で分け合う方法を決めるときも、またプロメテウスが天上の火を盗み出して人間に与えたときも、ゼウスは痛いめにあった。当時の人間は火をもたず、したがって夜は暗闇(くらやみ)のなかで野獣を恐れ、火を用いて食物を料理することも知らなかったので、彼は大茴香(おおういきょう)の茎の中に天上の火を隠して地上へもたらしたという。さらにプロメテウスは、人間が生きていくために必要な知恵と技術を教え、まさしく人類の文化の恩人であった。が、ここに至ってついにゼウスはプロメテウスと人間に対して仕返しをする。つまり、人間の最初の女パンドラをつくってエピメテウスのもとへ連れてゆき、人間にあらゆる災いをもたらすとともに、プロメテウスを遠いコーカサスの岩山に鎖でつないで大鷲(おおわし)に彼の肝臓を食わせ、夜の間にふたたび肝臓が元どおりに回復するという絶えることのない苦痛を与えた。長い年月ののち、旅の途中のヘラクレスが大鷲を射落としてプロメテウスを救い出し、やがてゼウスとプロメテウスは和解する。
[伊藤照夫]
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ギリシア神話で人類の恩人とされる巨神。火を天から盗んで人類に与えたためにゼウスの怒りにふれ,カフカース山頂につながれて鷲(わし)に内臓をくわれる責め苦にあったという。
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…ルクレティウスの《物の本質について》には,肝臓に燃える欲望の燠(おき)を消すという表現が見られ,旧約聖書の《エレミヤ哀歌》には〈わが肝はわが民の娘の滅びのために,地に注ぎ出される〉の句がある。人間に火を与えた罰としてカウカソス山上につながれたプロメテウスが,大ワシに毎日肝臓をついばまれることになったのも,肝と魂との相関があるからである。臆病者の肝臓は血の気がないために白いと考えられた(シェークスピア《十二夜》)。…
…このような視点と題材処理の手法は,同じ素材を扱う悲劇詩人との対比において明瞭にされよう。 例えばアイスキュロスの悲劇《縛られたプロメテウス》では,火の神プロメテウスはやむにやまれぬ人間愛に促され,天上の火を盗み人間に与え,技術を授け,文明世界の創造のために己が身を犠牲にする崇高な英雄として扱われている。しかし同時代の喜劇詩人エピカルモスは,プロメテウスを大盗人にしたて,人間も何を盗まれるかと戦々恐々としている様を語っている。…
…金属に比せられる世代交代のモティーフは東方起源と考えられているが,鉄の世代の厳しい現実直視,英雄の世代に対する特別な崇敬の念など新たな要素も注目される。しかし人間と神々との関係を規定する神話としては同じヘシオドスやアイスキュロスが伝えるプロメテウス神話がいっそう重要であろう。かつて犠牲獣の配分をめぐって神々と人間どもがいさかいを起こしたとき,プロメテウスが奸智をもって調停を企てた。…
…制作,上演年代不詳。巨人神プロメテウスは人間に火を与えたかどで主神ゼウスの怒りをかい,スキュティアの岩山に縛られるが,自己の正義を主張し毅然としてゼウスの暴力に反抗する。そのため彼に同情を寄せる合唱隊,オケアノスの娘らとともに奈落に突き落とされる。…
…ユダヤ伝説では神が土の塵(ちり)(ヘブライ語で〈アダーマー〉)からアダムと彼の最初の妻リリト(リリス)をつくった。ギリシア神話ではプロメテウスが粘土から人間をつくり,エジプトの造物神クヌムも粘土から人間をつくっている。バビロニアではベール(バアル)神の首からほとばしる血と土を混ぜ合わせて人がつくられているし,オーストラリア,ニュージーランド,タヒチ,ペルー,アフリカその他においても,粘土や赤土から人間がつくられたとする伝承がある(J.G.フレーザー《旧約聖書のフォークロア》)。…
…ギリシア神話で,人類最初の女。プロメテウスが天上の火を盗んで人間に与えたとき,怒ったゼウスは,人間どもにその恩恵の代償を支払わせるべく,鍛冶の神ヘファイストスに命じて粘土で女を造らせ,他の神々から女性としての魅力や美しい衣装などを授けられた彼女をパンドラ(〈すべての贈物を与えられた女〉の意)と名づけて地上に下し,プロメテウスの弟のエピメテウスに与えた。このとき彼女は神々からのみやげとして1個の壺(いわゆる〈パンドラの箱〉)を持参していたが,好奇心にかられた彼女がそのふたを開けると,中からあらゆる災いが飛び出して四方に散った。…
…マッチの前身は火種から容易に炎を得るために,木の薄片の先端に硫黄を塗ったつけ木であった。【清水 昭俊】
[神話]
ゼウスが隠した火を,プロメテウスが天上から盗んできて人間に与えたおかげで,火の利用が可能になったというのは,ギリシア神話の有名な話だが,このように最初の火が,窃盗によって人間の手に入ったという話は,世界中の多くの神話に共通して見いだされる。 ブラジルのジェ族の神話では,かつては火の持主はジャガーだったが,あるとき一人の少年が,高い岩壁(または木)の上に置きざりにされ,餓死しそうになったところをジャガーに助けられ,その養子になって家に連れて行かれ,そこで生まれてはじめて焼いた肉を食べたり暖を取るなどして,火の便利さを教えられた。…
…ギリシア神話では,アキレウスが冥府の川ステュクスの水に浸されて不死となるはずであったが,母テティスがつかんでいたその踵(かかと)だけが水にふれず,のちパリスの矢に倒されることになる。プロメテウスは,毒矢を射られたケンタウロスのケイロンから不死の命を譲り受けたといい,エンデュミオンはゼウス(一説には恋人である月神セレネ)に不老不死を願って許される。またグラウコスは薬草を食べて不死となる。…
…農耕や医薬,占い,法などを発明した神農(しんのう)や,書契の法を考案し婚姻の礼を定め,漁猟や祭器を教えた伏羲(ふくぎ)なども,中国神話における文化英雄である。ギリシア神話のプロメテウスも,文化英雄の典型である。彼は,神に反抗し,神を欺いて人類のもとに火や穀物をもたらした。…
…園の近くに蒼穹を肩で支えている巨人神アトラスがいたので,ヘラクレスは彼にかわって蒼穹を背負い,その間にアトラスがリンゴを取ってきた。ヘラクレスがプロメテウスの肝臓をついばんでいた鷲を射殺して彼を解放してやったのは,この旅の途上でのできごと。(12)冥府の番犬ケルベロスの生捕り。…
※「プロメテウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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