改訂新版 世界大百科事典 「ペナイン山脈」の意味・わかりやすい解説
ペナイン[山脈]
Pennines
Pennine Chain
イギリス,イングランド北部を南北に走る脊梁山脈で北海側とアイリッシュ海側の分水界をなす。地名はケルト語のpen(〈高い〉の意)に由来すると考えられる。スコットランドとの境界に近いタイン川低地からミッドランズ北部のピーク・ディストリクトまで全長約220kmにおよび,高度300~500mの丘陵性山地である。地質は古生代石炭紀の石灰岩,ケイ質砂岩,石炭層などからなり,ヘルシニア造山運動の結果,背斜構造をなしている。山脈とはいえ,横谷によって多くの山塊に分断されており,通常次の3地域に区分される。タイン川とティーズ川の間の北部山地は最も急峻で,最高峰のクロス・フェル山(893m)を有し,西側のイーデン川河谷に対しては断層崖で望む傾動山地である。これにつづく中部山地はエア川までを含み,幅は広くなるが,浸食が進んで石灰岩層が露出し,砂岩がウェーンサイド山(736m)のような孤立丘陵を形成する。南部山地はトレント川河谷に至るダービーシャー,スタッフォードシャーのピーク・ディストリクトを中心とし,キンダー・スカウト山(636m)や鍾乳洞を有する。全体が高原状で,ヒースや泥炭におおわれた地域が広く,粗放的な牧羊や酪農,石材採掘,観光が主産業で人口密度は低い。しかし石炭層が露出する南部山地山麓のヨークシャー,ランカシャーには炭田が立地し,シェフィールド,マンチェスターを核に工業地帯を形成している。先史時代のストーン・サークルなど遺跡も多く,ローマ時代には北端のタイン川低地を横切るヘードリアンズ・ウォール(ハドリアヌスの防壁)も建設された。ダービーシャーの山地では古来,鉛の採掘が行われていたが,産業革命以後は炭田開発が中心となり,また山中の貯水池は工業地帯の水源となっている。中部のヨークシャー河谷と南部のピーク・ディストリクトが国立公園に指定されている。
執筆者:長谷川 孝治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報