日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホオノキ」の意味・わかりやすい解説
ホオノキ
ほおのき / 朴木
[学] Magnolia obovata Thunb.
Magnolia hypoleuca Sieb. et Zucc.
モクレン科(APG分類:モクレン科)の落葉高木。枝はまばらにつく。葉は枝先に偽輪生状につき、倒卵形または長楕円(ちょうだえん)形で大きなものは長さ80センチメートル、日本産木本種中最大の葉の一つである。裏面は白色を帯びる。5~7月、枝先に径20センチメートルに達する大きな淡黄白色花を開き、強い芳香を放つ。日本の固有種で、山野に普通に生え、南千島、北海道から九州の温帯~暖帯上部に分布する。材は高級有用材で、柔らかくて狂いが少ないため、家具調度品などに用いられ、朴歯(ほおば)の下駄(げた)は有名である。公園、庭園樹としても植栽される。
薬用
幹の皮を和厚朴(わこうぼく)といい、中国産厚朴の代用とする。漢方では鎮痛、鎮咳(ちんがい)、利尿、健胃剤として腹痛、腹満、胸満、慢性気管支炎、喘息(ぜんそく)などの治療に用いる。おもな成分はアルカロイドのマグノクラリン、精油のマチロールなどである。中国産厚朴はコウボク(マグノリア・オフィキナーリス)M. officinalis Rehder et Wilsonとその変種の幹の皮で、品質はきわめてよく、値段も甚だしく高価である。
[長沢元夫 2018年8月21日]
文化史
本種の中国語である厚朴に、平安時代の『本草和名(ほんぞうわみょう)』は保々加之波乃岐(ほほかしはのき)、『和名抄(わみょうしょう)』は保々乃加波(ほほのかは)をあてている。古くは飯を盛る器に使われ、『万葉集』には大伴家持(おおとものやかもち)が「皇神祖(すめろき)の遠代御代(とおみよみよ)は い布(し)き折り酒(き)飲みきといふそ このほほかしは」(4205)と、天皇や天皇の祖先がホオの葉を筒状に折って酒を飲んだと詠み、祭儀のおりなどにホオの葉の酒器が存在していたことが知られる。平安時代の『栄花(えいが)物語』では、樹皮がかぜ薬に使われた記述がある。また、木曽義仲(きそよしなか)は、餅(もち)をホオの葉に包んだホーッパ餅を兵に持たせ、攻め上ったという。ホーッパ餅は現在も木曽地方で6月5日の月遅れの節句につくられている。ホオの葉はいけ花にも早くから用いられ、『立花大全(りっかだいぜん)』(1683)には、大葉に用いる類のなかに、朴葉(ほおば)が名を連ねている。
[湯浅浩史 2018年8月21日]