ホスホン酸(読み)ホスホンサン

デジタル大辞泉 「ホスホン酸」の意味・読み・例文・類語

ホスホン‐さん【ホスホン酸】

phosphonic acid三塩化燐さんえんかりんまたは三酸化二燐を加水分解し、濃縮すると得られる無色結晶。強い還元性がある。化学式H2[PHO3] かつて、H3PO3と表され、誤って亜燐酸とよばれた。

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化学辞典 第2版 「ホスホン酸」の解説

ホスホン酸(塩)
ホスホンサンエン
phosphonic acid(phosphonates)

酸:H2PHO3(82.00)の伝統名.IUPAC酸命名法による正しい名称はヒドリドトリオキソリン酸(2-)[CAS 13598-36-2]. 亜リン酸H3PO3の構造はP(OH)3[CAS 10294-56-1]で別の化合物.工業的には,高温でPCl3水蒸気の反応で得られる.

PCl3 + 3H2O → H2PHO3 + 3HCl

分子はHP(=O)(OH)2で,P原子に2個のOH,1個のO原子,1個のH原子が四面体型に結合しており,OHのH原子は自,他分子のO原子と水素結合している.P-OH1.54 Å,P=O1.47 Å.密度1.65 g cm-3(21 ℃).融点74 ℃.潮解性がある.水に易溶,エタノールに可溶.室温でも空気中では徐々に分解するが,加熱すると不均化反応でリン酸とホスフィンに分解する.二塩基酸で,pK1 1.29,pK2 6.74.還元性が強い.各種 P化合物製造原料.ホスホン酸のイソポリ酸であるジホスホン酸H4P2O5(145.98)[CAS 36465-90-4]は,ホスホン酸とPCl3との反応で得られる.水溶液中で加水分解するとホスホン酸になる.
塩:アルカリ金属,NH4アルカリ土類金属,Al,Pb,3d遷移金属塩が得られている.アルカリ金属とNH4以外の金属塩は水に難溶.塩はイオン結晶で四面体型の [PHO3]2- を含む.Na2[PHO3][CAS 16926-95-7]は,ホスホン酸に計算量のNaOHを加えた水溶液から五水和物が得られる.水に易溶,エタノールに不溶.還元性が強い.Na塩は医薬品に,NH4塩は可塑剤,還元剤,腐食防止剤などに,Ca塩は触媒肥料に用いられる.エステル:各種のH[HPO2(OR)],[HPO(OR)2],RPO(OR)2が得られているが,これらは溶液中では,

    [HPO(OR)2] [(HO)P(OR)2]

    RPO(OH)2 P(OR)3

など,亜リン酸エステルとの間の平衡がある.RPO(OR)2[CAS 756-79-6:R=CH3][CAS 78-38-6:R=C2H5].ホスホン酸アルキルエステルは除草剤,ボイラー水あか・腐食防止剤に使用される.[CAS 15477-76-6:[PHO3]2-]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホスホン酸」の意味・わかりやすい解説

ホスホン酸
ほすほんさん
phosphonic acid

酸化数Ⅲのリンのオキシ酸で、(HO)2PH(=O)の式で表され、P-H結合とホスホリル基P=Oをもつ無機リン化合物である。亜リン酸とは互変異性体の関係にある(図A)。

 三塩化リンの加水分解により得られる。P-H結合が存在することは、いろいろな物理測定や、一置換塩と二置換塩だけが生成し三置換塩は得られないという事実からわかる(OH基は塩をつくるがPH基は塩をつくらない)。

 化学式PH3O3、式量82.0。無色の潮解性結晶で、200℃に熱するとホスフィン(リン化水素)とリン酸を生ずる。重要な誘導体としてアルキルホスホン酸ジアルキルエステルがある。ホスホン酸は還元作用があり、硝酸銀、硫酸銅の水溶液からそれぞれの金属を析出させるので、無電解めっきの還元剤としても用いられる。ホスフィン酸やホスフィンと異なり毒性がある。

 ホスホン酸の有機誘導体としてはP原子上のHをアルキル基R(Rはアリール基など、ほかの有機基でもよい)により置換したアルキルホスホン酸と、OH基のHをアルキル基で置換したアルキルエステル(ホスホン酸アルキル)がある。さらにアルキルエステルには、OH基のH原子のうち1個だけをアルキル基で置換したモノエステルと、OH基のH原子2個を両方ともアルキル基で置換したジエステルがある(図B)。有機ホスホン酸とよばれるのは、P原子上のHをアルキル基で置換した誘導体であり、メチルホスホン酸CH3P(O)(OH)2やフェニルホスホン酸C6H5P(O)(OH)2がその代表である。亜リン酸トリアルキルエステルは、自発的にO原子からP原子にアルキル基が移動する異性化反応をおこして、アルキルホスホン酸ジアルキルエステルを与える。この反応をミカエリス‐アルブーゾフ反応(Michaelis-Arbuzov Reaction)という。この反応により得られるアルキルホスホン酸ジアルキルエステルは重要な合成中間体である。

[廣田 穰 2016年2月17日]

『F・A・コットン、G・ウィルキンソン著、中原勝儼訳『無機化学』(1972・培風館)』『古賀元・古賀ノブ子・安藤亘著『有機化学用語事典』(1990・朝倉書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホスホン酸」の意味・わかりやすい解説

ホスホン酸
ホスホンさん
phosphonic acid

化学式 H2PHO3 。四面体形の [PHO3]2- を含む二塩基酸。 H3PO3 と書いて,亜リン酸と称していたことがあったが,これは誤称。 PCl3 または P3O6 と冷水との反応で生成するが,熱するとリン酸とホスフィンとに不均化反応する。

P4O6+6H2O→4H3PO3→PH3+3H3PO4

無色,潮解性結晶,比重 1.65 。還元性が強く,貴金属塩から金属を遊離する。アルカリ塩およびカルシウム塩のほかは水に難溶。なお,ホスホン酸とオルトリン酸とが脱水縮合して生成する酸に相当するものとして次リン酸などが知られている。

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栄養・生化学辞典 「ホスホン酸」の解説

ホスホン酸

 有機化合物の炭素とリン酸のリンが直接結合した化合物.

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世界大百科事典(旧版)内のホスホン酸の言及

【亜リン酸(亜燐酸)】より

…エステルとして亜リン酸エステルP(OR)3などが知られている。古く亜リン酸と呼ばれていたものは実際にはホスホン酸phosphonic acid H2PHO3であることがわかっている。ホスホン酸は,三塩化リンを加水分解させて得られる。…

※「ホスホン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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