ボエティウス(その他表記)Anicius Manlius Severinus Boethius

デジタル大辞泉 「ボエティウス」の意味・読み・例文・類語

ボエティウス(Anicius Manlius Severinus Boethius)

[480ころ~524ころ]古代ローマ末期の哲学者アテネに遊学し、プラトンアリストテレスなどのギリシャ哲学ラテン語訳して中世に伝えた。また、キリスト教神学者・音楽理論家としても活躍。東ゴート王テオドリクスに信任されたが、のち、陰謀嫌疑で殺害された。著「哲学の慰め」「音楽論」など。

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精選版 日本国語大辞典 「ボエティウス」の意味・読み・例文・類語

ボエティウス

  1. ( Anicius Manlius Severinus Boethius アニキウス=マンリウス=セウェリヌス━ ) 古代ローマ末期の哲学者、政治家。東ゴート王テオドリックの下で執政官宰相をつとめ、プラトン、アリストテレスなどギリシア哲学をラテン語に翻訳し中世に伝えた。著「哲学の慰め」で知られる。(四八〇頃‐五二四

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改訂新版 世界大百科事典 「ボエティウス」の意味・わかりやすい解説

ボエティウス
Anicius Manlius Severinus Boethius
生没年:475ころか480ころ-524ころか525ころ

古代末期の哲学者,政治家。前2世紀以来の有数のローマ貴族の出自であり,5世紀当時イタリアを支配していた東ゴート族テオドリック王朝下において宰相の地位にまで昇ったが,コンスタンティノープルとローマ教会の首位権をめぐる抗争や東ローマ帝国と東ゴート王国との対立にまきこまれ失脚,投獄されパビアにおいて処刑された。獄中で書いた《哲学の慰め》は哲学入門書として広く読みつがれた。彼はその家系から〈最後のローマ人〉,また著作の及ぼした影響から〈最初のスコラ哲学者〉と称される。彼は,養父であり義父でもあるシンマクスと並ぶ有数の文人政治家であるが,プラトンの《国家》第5巻にみられる〈哲人王〉を終生の理想とし,同じく《国家》第7巻にそれとの関連から提示されている教育課程,すなわち哲学研究の予備教養として数学・幾何・天文・音楽の研鑽をつむべきだとする教育課程を踏襲,それぞれゲラサのニコマコスエウクレイデスユークリッド),プトレマイオスの著書の翻案に基づくこれら4学科の入門書を著した。これらは,後に確立する〈七つの自由学芸〉(自由七科)のうち〈クアドリウィウム〉と称される自然科学を主体とする4教科の基礎となる。また彼は,当時の新プラトン主義の風潮に沿って,プラトンとアリストテレスの思想が本質的に一致していることを示し,あわせてギリシア語を解さない同胞ローマ人に両者の思想を知らせるため,この二人の全著作の翻訳と注解を企図した。しかし獄死のため《範疇論(カテゴリアエ)》《命題論》《分析論後書》《トピカ》等〈オルガノン(思考の道具)〉と称されるアリストテレスの論理学関係の著書について実現をみただけであった。さらに彼はポルフュリオスの《アリストテレス論理学入門》の翻訳と注解を著したが,これは,〈類〉〈種〉といった普遍の存在論的位置づけをめぐり,ことに11世紀以降激しい論争が展開される〈唯名論〉と〈実念論〉との対立が生じてくる端緒となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボエティウス」の意味・わかりやすい解説

ボエティウス
ぼえてぃうす
Anicius Manlius Severinus Boethius
(480ころ―524ころ)

古代ローマ末期の哲学者。ローマのキリスト教徒名門の出で、東ゴート王テオドリックの下で執政官、元老院議長、宰相などの要職についたが、ビザンティン帝国と通じて王に陰謀を企てたとして投獄、処刑された。獄中で書かれた『哲学の慰め』De consolatione philosophiaeは詩と散文よりなり、哲学に導かれて神と摂理の善性を認識することによる運命の肯定を主題とし、広く一般に読まれている。神学論文として三位(さんみ)一体論とキリストの両性に関するものが有名であり、アリストテレスの諸範疇(はんちゅう)を用いて神学の問題を解明する。論理学書(アリストテレス、ポルフィリオスらの翻訳、註解(ちゅうかい))はもっともよく保存されており、彼の意図したといわれるプラトン、アリストテレスの全著作の翻訳は残っていないが、古代哲学を中世に伝え、中世前期の思索に基本的道具を与えた人である。四学科(幾何、算術、天文学、音楽)に関する著作のうち『算術教程』と『音楽教程』が残っている。

[坂口ふみ 2015年2月17日]

『畠中尚志訳『哲学の慰め』(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「ボエティウス」の意味・わかりやすい解説

ボエティウス

ローマ末期の哲学者,政治家。イタリアの支配者,東ゴート王テオドリックの信任を得て,ラベンナの宮廷の宰相となったが,政争に巻きこまれ刑死。〈最後のローマ人にして最初のスコラ学者〉と称され,ギリシア哲学の継受に重要な役割を演じた(とりわけポルフュリオス《アリストテレス範疇論入門(エイサゴーゲー)》の翻訳・注解は普遍論争の端緒)ほか,《哲学の慰め》などの入門書は後世の学問観(自由七科)に絶大な影響を与えた。
→関連項目スコラ学テオドリック[大王]フクバルド

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ボエティウス」の解説

ボエティウス
Anicius Manlius Severinus Boethius

480?~524?

ローマのキリスト教哲学者。東ゴート王テオドリックコンスルとして仕え,古典学芸を代表したが,王の不興をかって処刑された。アリストテレスを中世に伝え,獄中で『哲学の慰め』を書いた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ボエティウス」の解説

ボエティウス
Anicius Manlius Torquatus Severinus Boethius

480〜524
ローマのキリスト教哲学者
著書『哲学の慰め』のほか,ギリシア哲学の紹介などで中世哲学に影響を与えた。東ゴート王テオドリックに仕えたが,反逆罪に問われて処刑された。

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世界大百科事典(旧版)内のボエティウスの言及

【キリスト教文学】より

…フランスのボルドーに生まれた,ノラのパウリヌスも彼につづくすぐれたキリスト教詩人であるが,さらに優しい心情で聖フェリクス誕生の祝歌や,キリスト者の婚礼歌などをつくっている。 これにつづく5~6世紀は,帝国西部がゲルマン民族に攻略され,不安と騒乱に陥った時代で文学もまったく衰えたが,信仰の情熱は対比的にはげしくなり,アウグスティヌスの弟子である護教家オロシウスや,《神の統治について》などの著者サルウィアヌス,最もキリスト的な詩人といわれるセドゥリウスSedulius(470年ころ活動),散文では《哲学の慰め》で知られるボエティウスや,《教会史》を著作目録に含むカッシオドルスがあり,布教活動の面では,5世紀の教皇レオ1世ののち,ベネディクト会をはじめたベネディクトゥスと教皇グレゴリウス1世が特筆に値する。この3人はいずれも教義の確立や修道会の規制のため,説教,論説,書簡など多量の著述をもったが,ことにベネディクトゥスの〈修道会会則(ベネディクトゥス会則)〉は後世に大きな影響を与えた。…

【スコラ学】より

…それは信仰と理性との統一・総合をめざす学問的企てであり,その成功と挫折の跡がスコラ学の歴史にほかならない。 古代学術を西欧ラテン世界へと移植する企てに最初に着手したのはボエティウスであり,彼は〈スコラ学の創始者〉に数えられる。また中世における古代学問・思想再生の最初の試みであるカロリング・ルネサンスの頂点に位するスコトゥス・エリウゲナのうちにスコラ学の端緒を認める説もある。…

【中世科学】より

…5世紀になると,それまで細々と伝わっていたギリシア・ローマの科学の伝統を集大成して,いわゆる〈四科quadrivium〉(幾何学,天文学,算術,音楽)の摘要書をつくろうという動きが生じてきた(自由七科)。そのようなものとして,マクロビウス,マルティアヌス・カペラ,カッシオドルス,ボエティウス,イシドルスらの著作が挙げられる。これらの内容は,まだそれほど水準の高いものではないが,中世前期において西欧知識人の基本的な科学的教養を培ったものとして重要である。…

【哲学の慰め】より

ボエティウスの最後の著作。彼は523年,東ローマ皇帝と誼(よしみ)を通じ当時イタリアを支配していた東ゴート王テオドリックに反逆を企てたかどで〈諸官僚の長magister officiorum〉を罷免,投獄されるが,525年(または526)処刑されるまで獄中でこの本を執筆。…

【ラテン文学】より

…このほか5世紀初頭には文献学者マクロビウスや,いわゆる自由七科についての百科全書的記述によって,中世教育制度の基礎を築いた修辞学者のマルティアヌス・カペラがいる。さらに6世紀には,中世に聖書に次いで愛読された《哲学の慰め》の著者ボエティウスが,最後の世俗ラテン作家となった。世俗詩人も6世紀中葉のコリップスCorippusあたりが最後であろう。…

※「ボエティウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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