バチルス科の1属の細菌で、ボツリヌス菌食中毒をおこす。グラム陽性、両端鈍円の桿菌(かんきん)で、大きさは4~6×0.9~1.2マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)。細胞の末端部に卵円形の胞子を形成する。偏性嫌気性で、周鞭毛(べんもう)をもち、活発な運動を行う。生育温度は20~37℃、水素イオン濃度指数(pH)は6~8である。胞子は耐熱性で、嫌気的条件で菌体外毒素を生産する。この毒素によって食中毒が引き起こされる。培養は、普通寒天(一般細菌用培養基)で生育するが、十分な嫌気的条件が必要である。毒素は熱に比較的弱く、80℃、30分で失活する。
ボツリヌス菌の自然界での分布は地域によって差異がみられる。また、菌型と分布に関しても、まだ不明の点が多いが、通常は、生産する毒素の抗原性によって、A~Gの型に分類される。(1)A型菌 野菜、果物、肉類に分布。(2)B型菌 肉類、飼料などに分布。(3)Cα型菌 湖水のプランクトンに分布。(4)Cβ型菌 まぐさ、動物の死体、鯨肉に分布。(5)D型菌 動物の死体に分布。(6)E型菌 魚貝類や海生哺乳(ほにゅう)類に分布。(7)F型菌 肉類に分布。(8)G型菌 土壌に分布。
日本にはウシやウマに中毒をおこすCβ型菌とヒトに中毒をおこすE型菌の分布が多くみられる。とくにE型菌は北海道、東北地方の海岸地帯の土や河川、湖水の泥土からみいだされている。
[曽根田正己]
『総合食品安全事典編集委員会編『食中毒性微生物』(1997・産業調査会、産調出版発売)』
腸詰菌ともいう。芽胞をつくるグラム陽性の嫌気性杆菌。長さ4~6μm,幅0.8~1.2μm。周毛性鞭毛をもち,運動性があり,土壌中に分布している。強力な菌体外毒素(ボツリヌス毒素)を産生し,この毒素によって重篤な食中毒(ボツリヌス中毒)がひき起こされる。本菌は,毒素に対する血清型別によってA~G型に分類される。菌自体には病原性はなく,感染を起こすことはない。毒素は,タンパク質性末梢神経毒素で,あらかじめ産生された毒素が食物などとともに経口的に摂取されると神経筋接続部を侵し,摂取数時間から数日後に悪心,嘔吐,瞳孔散大などの症状を呈し,最後には呼吸麻痺によって死亡する。本菌の毒素は,今日知られる限り最も強力な生物毒素である。理論的には,この毒素1gで1000万の人間を殺すことができる。発症した場合の治療は困難で,対症療法以外にはない。ボツリヌス菌の芽胞は熱に対する抵抗性が強く,100℃で十数時間の加熱に耐え,肉類や野菜などの保存食品,缶詰類による中毒事故の原因となる。
執筆者:川口 啓明
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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