アラブ諸国,トルコ,イランの古典芸術音楽の用語。元来アラビア語であるが,イスラム帝国の発展とともにアラブ,ペルシア音楽の理論用語となった。その後この音楽文化をオスマン帝国が引き継いだため,トルコ音楽においても用いられる。ただし現代のイランでは,マカームの代りにダストガーdastgahというペルシア語が使われている。マカームにはいくつかの意味があり,〈音〉を意味する場合と,音列ないし音階とこれに基づく旋律法の規範を意味する場合とがある。ふつう後者の意味で〈旋法〉と訳される。またマカームは,この旋法に基づいて演奏されるある種の〈歌〉を指すこともある。
旋法としてのマカームは歴史的には,13世紀あるいは14世紀初頭に初めて用いられた。今日,アラブ,トルコのマカームおよびイランのダストガーには共通の名前をもつものが多くあるが,その中のいくつかは,13世紀の音楽理論家サフィー・アッディーンの《旋法の書》にみえている。しかし,アラブ諸国の中でも,東アラブ諸国とマグリブとでは,使われるマカームの数と種類にかなりの違いがある。
現在,一般にマカームは次の諸要素から成り立っている。(1)固有の音列ないし音階,(2)使われる音域,(3)旋律の開始音および終止音,(4)旋律の動きのうえでとくに重要な音あるいは音程関係。このようなマカームの特質はとりわけ,無拍の即興演奏(器楽のものをタクシームtaqsīm,声楽のものをラヤーリーlayālīと呼ぶ)において発揮される。即興でない楽曲の演奏は,旋律を規定するマカームと,リズムを規定するイーカーアとの組合せによって行われる。他方,中世以来マカームには,インド音楽のラーガと同じように,情緒論と宇宙論が結びつけられてきた。すなわち,個々のマカームは,満足や悲しみなどの特定の感情を聴き手のうちに引き起こすとされる。宇宙論との関係においては,各マカームは天体十二宮と時間に結びつけられ,そのためたとえば,〈ラーストRāst〉と呼ばれるマカームは日の出に演奏されるなど,それぞれのマカームの演奏されるべき時刻が決められていた。しかし,今日ではこのような習慣は失われている。
執筆者:粟倉 宏子
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アラブ諸国やトルコの古典音楽で用いられている旋法。原義は「場所」で、複数形はマカーマートmaqāmāt。マカームに関する理論化は、撥弦(はつげん)楽器ウードの指板を利用して早くも8世紀ごろから試みられてきた。今日では、個別名をもつ各マカームは、半音より狭い微分音や中立音程からなる音階と、それを構成するテトラコード(4度音程枠)やペンタコード(五度音程枠)の連結の仕方、音域、旋律型、そして主音といったさまざまの要素によって性格づけられており、とくに音程構造と主音がその分類基準とされることが多い。マカームの総数は100以上ともいわれるが、各地域でよく用いられるのはそのうち20~30種ほどである。また同じ名称のマカームでも、その性格や用いられ方は地域ごとに異なるのが普通である。アラブやトルコの古典音楽はしばしば多楽章からなる組曲形式をとるが、演奏に際して始めに選ばれたマカームは全楽章を通して変えられることはなく、一貫して特定の情緒的雰囲気を醸し出しつつ、即興演奏のための基盤を与える。
なお、イランではマカームとはよばず、一般にダストガーおよびアーバーズという。
[山田陽一]
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…糸巻きに沿って,ちょうつがいのついた小さな金属板が各組の弦の下に設けられており,この金属板を動かすことによって,4分の1音などの細かい音高の調節が可能になっている。これは曲中でマカームが変化するときに,あらかじめ演奏されるマカームに合わせて調弦されている音高を変えるために用いられる。演奏者はカーヌーンを膝または台の上にのせ,両手の人差指に,角製の爪をとりつけた指輪をはめて弦をはじいて奏する。…
※「マカーム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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