またぎ(読み)マタギ

デジタル大辞泉 「またぎ」の意味・読み・例文・類語

またぎ

東北・北越、特に秋田地方の山間に住む猟師の一団。狩猟中は山言葉使い、頭目の指揮下に古来の伝統を守って生活する。まとぎ。やまだち。

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共同通信ニュース用語解説 「またぎ」の解説

マタギ

東北地方中部地方で、クマカモシカ、山鳥などの動物の狩猟で生計を立ててきた人たち。起源は定かではないが、古くは16世紀末の古文書言及がある。山の神を信仰することが特徴。集団でクマを追い立てる「巻き狩り」、単独の「忍び猟」、猟犬の活用など、地域や時代により猟の仕方はさまざま。現在では銃やわなを使うため狩猟免許の取得が必須で、ほとんどが各地の猟友会に所属する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「またぎ」の意味・わかりやすい解説

またぎ

クマ、カモシカなど大形山獣の集団猟を業としてきた東北山村の狩人(かりゅうど)の称。おおむね山奥に独自の集落生活を営み、農耕、山稼ぎにも従事したが、冬から春にかけては深山に分け入り、仮泊の生活を続けながら狩猟に専念してきた。スカリとよぶ頭目(指揮者)のもとに数名の猟仲間(マタギ組)がつくられていて、各自伝統の手法で集団猟に従事するが、「巻き山」(巻き狩り)と「穴捕り」(クマ)が主で、前者は谷を巡って山獣を追い出し、尾根筋でしとめる猟法、後者は春先「穴ごもり」のクマを目ざす特異な猟法である。マタギへの鉄砲の導入は古く、古式の銃丸の製法なども踏襲されてきたが、一方、古風な手槍(てやり)(ヤリ、タテ)なども併用された。しかし弓矢猟の古い形はほとんど残っていない。深雪の山間行動に耐えるため、マタギの狩り支度には特異なくふうが加えられ、毛衣や足ごしらえ、あるいは「長柄」という雪中徒渉の雪べらなど、注目すべきものが多い。マタギ猟には山の神信仰に根ざす禁忌伝承が多く、「山入り」には厳しい「浄(きよ)め」の作法があり、山中生活では「山ことば」という特異の忌みことば(水=ワッカ米飯=クサノミなど)を用いた。獲物の解体処理にも「毛祭り、毛ボガイ」など特異な儀礼があり、また獲物の配分方式にもいろいろな「得分(とくぶん)」の決まりがあった(致命弾の射手の特殊配分などについてである)。「マタギ組」には「山立根本巻(やまだちこんぽんのまき)」という伝書が多く伝えられていて、「スカリ」はそれを保存し、古くは山中生活にも携えて行く例であった。その内容はマタギ猟の由来を示し、その職祖が山の神の恩寵(おんちょう)により深山における狩猟かせぎの特権を得たというもの。日光派、高野(こうや)派の2種があるが、いずれも山の神のつかさどる深山幽谷に自在の狩猟を行い、殺生を事とすることを山の神から特免されたという「職の由緒」を示すところで、それがのちに修験(しゅげん)の徒の関与で修飾された態のものである。「無主の地」における自在の狩猟を保証するには、山の神信仰にちなむこうした職祖伝承で久しく事足りたのである。

[竹内利美]

『後藤俊夫著『マタギ』(1982・秋田書房)』『太田雄治著『マタギ――消えゆく山人の記録』(1979・翠楊社〈パンセ〉)』

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改訂新版 世界大百科事典 「またぎ」の意味・わかりやすい解説

またぎ

青森,岩手,秋田,宮城,新潟などの山中で,古い猟法を守って狩りを行う人々を指して呼ぶ語。,又鬼などの文字をあてることもあり,アイヌ語で狩猟者をマタンギというので,これから転じた語という説もあるが,名称の伝播は逆に日本語から移ったものらしい。東北地方では特定の業に従う人であるが,アイヌでは狩猟は一般人の生業であったからである。語源が不明なため上記のほかにいくつかの説がある。山をまたいで歩くからとか,山中を他領に越境して猟をするので,他地住民にとがめられた場合にマダ(繊維を生ずる樹皮)をはぎにきたといつわったので,〈マダハギ〉からマダギとなったとするもの,また,四国南部で狩することを意味するマトギからきたとするものなどである。奥羽ではマダギと濁音で呼ぶからこれが正しいとの主張もあり,定説はないが,狩猟専門の職でない近代的ハンターまでを含めて称するのは誤解といってよい。
狩猟 →猟師
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「またぎ」の意味・わかりやすい解説

またぎ

マトギ,マトウノモノ,ヤマダチ (山立) などともいう。東北地方の山間部に居住し,集団でくま,しかなど大型動物の狩りをする人々。スカリなどと呼ばれる頭目のもとに,マタギ組をつくり古式に従って狩りを行う。捕獲物の配分や解体の儀礼にも古いしきたりを残しており,また山中では彼らの間にのみ伝えられる山言葉が使われる。マタギを大きく区分すれば,日光系と高野系に分けられ,相伝の『山立由来記』によれば彼らの祖先が山の神を助けた功により山中の狩猟を許されたという (→磐次磐三郎 ) 。近世以後のマタギは,年の半分は農業に従事して定着し,狩猟は副業化する傾向をみせた。

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百科事典マイペディア 「またぎ」の意味・わかりやすい解説

またぎ

東北地方などで狩猟を生業とする人をいう。世襲をたてまえとする頭目の下に15〜20名の男子で集団猟を行う。山の神への儀礼,狩猟期のきびしい禁忌,獲物の分配法等に特異な古俗を残し,祖先が山の神を助けたことにより,国内どこでも狩をすることを許されたという伝承を保持していた。
→関連項目山言葉猟師

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デジタル大辞泉プラス 「またぎ」の解説

マタギ〔漫画〕

矢口高雄による漫画作品。山に生きるマタギたちの短・中編を集めたシリーズ連作。『週刊漫画アクション』1975年~1976年に連載。双葉社アクションコミックスデラックス全2巻。第5回(1976年度)日本漫画家協会賞 大賞受賞。

マタギ〔映画〕

1982年公開の日本映画。監督・原作・脚本:後藤俊夫、脚本:大和屋竺。出演:西村晃、安保吉人、林優枝、山田吾一、伴淳三郎、伊沢一郎、稲葉義男ほか。第37回毎日映画コンクール男優演技賞(西村晃)受賞。

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世界大百科事典(旧版)内のまたぎの言及

【阿仁】より

…その行動範囲は秋田県内から新潟県,長野県などに及び,明治時代には岐阜県,奈良県にも行ったことがある。阿仁マタギは奥羽山地のまたぎの一派で,いわゆる〈狩の巻物〉および特有の狩猟に関する儀礼・信仰・服装および言語(山言葉という。忌言葉の一種)を伝承し,また組織的狩猟法をもつ。…

【熊祭】より

…熊の生息する北方ユーラシア,北アメリカ北部の森林地帯の狩猟民が熊を殺すときには,(1)熊の殺害,(2)肉の消費,(3)霊の送り(=甦り(よみがえり))という3場面で構成され,各場面が各種の呪言・禁忌を伴う一連の儀礼よりなる祭事を行っていた。所によってはいずれかの場面がとくに強調されることもあるが,このような〈熊の殺害をめぐる儀礼複合〉を総称して〈熊祭〉と呼ぶ(祭り的色彩の強いアイヌ,ニブヒ,ツングース,オビ・ウゴル,ラップの事例を熊祭と呼び,そのほかは熊崇拝=儀礼として区別する立場もある)。…

【磐司磐三郎】より

…狩猟伝承にみられる狩人の名。この名をもつ2人,または磐司が姓という1人の狩人がまたぎの祖先であるという。磐次磐三郎とも書き万治(次)万三郎ともいう。…

【富士の巻狩】より

…頼朝の喜悦を,頼朝の親ばかと見るか,それともその深い政治的配慮のあらわれと見るかは別にして,武家政権を確立した頼朝が,その政権の行末について2代目頼家に対し,心配となにがしかの憂慮を抱いていたことは確かであろうし,その意味でこの巻狩は頼朝がなしうる最後の仕上げの行事にほかならなかった。なお〈またぎ〉などの狩猟民が自分の特権を示す証拠として保持する書類の中には,この富士の巻狩への参加が書き加えられていることが少なくないという。頼朝自身の意図にはなかったことではあるが,結果的には狩猟民にとってもこの巻狩は重要な意味をもったのであった。…

【三面】より

…主要な生業は狩猟,河川漁業,山菜採取などだが,水田も比較的多くそれに山畑を耕して自給生活を営んできたようである。狩猟は主としてアオ(カモシカ),熊を対象とし,狩人はまたぎの名で呼ばれ,秋田・新潟の狩人たちはその地をマタギの先進地として尊敬の念をもって考えていたようである。アオとりの際には長期の山小屋生活を営み,山中生活では山言葉を用いるほか種々の禁忌があって,スカリと呼ぶ厳しい指揮者の統制下に行動した。…

【由緒書】より

…また被差別部落には,〈河原巻物〉ともいわれ,その職能・特権,差別の由来を語るさまざまな由緒書が伝わっているが,そこにしばしば現れる〈延喜御門〉(醍醐天皇)は,16世紀に塩売りとして活動した坂の者(非人)の正当な文書(〈北風文書〉〈八坂神社文書〉)にも現れるので,この由緒書も単に江戸時代に捏造(ねつぞう)されたものではなく,戦国時代のなんらかの事実・伝統を背景にしているのである。このほか,近江保内(ほない)商人の後白河天皇の偽綸旨(りんじ)とつながる由緒書をはじめ,職人の伝える偽文書には由緒書が結びついていたものと思われるが,これらのうち,またぎの〈山立根元巻〉が源頼朝にその特権の起源を結びつけているように,東国の職人には頼朝や徳川家康にみずからをつなげているものが多い。そして職人の由緒書は偽文書とともに,中世後期以降,江戸時代の社会ではそれとして認められ,実効をもったことも見逃してはなるまい。…

【猟師】より

…その理由は主として女性の生理から説明され,山の神・海の神が女性とされているため,神が女性を嫉妬し忌むのだとされるが,正確にはまだ十分解明されていない。狩猟またぎ【千葉 徳爾】。…

※「またぎ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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