狩猟民の元祖とされる神の名で、万次万三郎(まんじまんざぶろう)ともよばれ、東北から北関東にかけて分布している。岩手県遠野(とおの)市の『山立由来記』によれば、万三郎という弓の名人が、日光の権現(ごんげん)に味方して、赤城(あかぎ)明神の化身である大ムカデを射た。この手柄によって山々を知行(ちぎょう)する特権を与えられたとある。山形市立石寺(りっしゃくじ)の『山立根元之巻』では、磐司と磐三郎は猿王と山姫の間に生まれた兄弟である。父の猿王は日光の神を助けて赤城の神を攻めた功によって狩りの特権を得た。清和(せいわ)天皇の貞観(じょうがん)年中(859~877)に慈覚大師がこの地を訪れて山寺を開いたとき、兄弟はその教化を受けて仏法に帰依(きえ)し、狩りをやめた。それから毎年7月7日の山寺の祭りには華やかな鹿子舞(ししまい)が行われ、まず磐司の祠(ほこら)の前で踊ったあと大師堂に奉納するという。兄弟の名は、地方によっては、大汝小汝(おおなんじこなんじ)とか大満小満とよばれ、どちらか1人が山の神のお産を助けてその恩恵を得る話になっている。本来、磐次の名は磐神(ばんじん)から出たといわれ、磐司岩や万事岩と称する岩が示すように、山中の巨石や珍しい岩に山の神を祀(まつ)る信仰にその源を発している。磐次の口拍子から磐三郎の名が生まれ、兄弟譚(たん)になったとの説もある。これらの伝説は、マタギとよばれ狩りを生業とする人々の間で管理されていたもので、『日光山縁起』や「俵藤太(たわらとうた)」伝説とも類似している。
[野村純一]
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