改訂新版 世界大百科事典 「マダラチョウ」の意味・わかりやすい解説
マダラチョウ (斑蝶)
鱗翅目マダラチョウ科Danaidaeの昆虫の総称。熱帯,亜熱帯に広く分布するチョウであるが,インドから大洋州にかけてもっとも種類数が多い。日本では本土定着種としてアサギマダラ,南西諸島定着種としてリュウキュウアサギマダラ,カバマダラ,オオゴマダラ,スジグロカバマダラの5種が主要なものであるが,このほかに十数種が迷チョウとして記録されている。
マダラチョウ科の特徴には際だったものが多い。まず幼虫はガガイモ科など,他の生物にとっては有毒成分を含む植物を食べ,その成分を成虫になっても体内に蓄えている。幼虫の体は無毛で鞭状突起を備え,体色は黄色,赤色,黒色などの顕著な警告色を示す。さなぎは垂蛹(すいよう)で丸く短い。緑色~黄色で,金色の斑紋や斑点(名の由来)をもち,ルリマダラ属のものでは金属箔のように体表が輝く。短い円錐状のさなぎの胴部から,長さが2倍以上の細い成虫の胴体が生ずる。成虫は翅も体もじょうぶで生命力が強く,長距離の移動に耐える。ゆるやかに飛ぶ。雄の後翅あるいは前翅に発香鱗または香囊(後翅)があるほか,雄は尾端背側に1対の発香器官(hair pencils,scent brushes)を内蔵しており,飛翔(ひしよう)中の雌に求愛するときに露出させる。成虫はその他に集団で睡眠したり越冬したりする傾向がある。新大陸のオオカバマダラの集団越冬とその前後の移動は有名であるが,日本でもアサギマダラの長距離移動や,奄美大島におけるリュウキュウアサギマダラの集団越冬などが最近判明している。成虫は他科のチョウに対して擬態のモデルとなっている場合が多い。なお,学者によってはマダラチョウ類をタテハチョウ科の亜科に入れたり,また,マダラチョウ科にトンボマダラ類(おもに南アメリカ産),ドクチョウ類(アフリカ,南アメリカ)を含める場合もある。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報