マトゥーテ(その他表記)Matute, Ana María

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マトゥーテ」の意味・わかりやすい解説

マトゥーテ
Matute, Ana María

[生]1925.7.26. バルセロナ
[没]2014.6.25. バルセロナ
スペインの作家。幼少時に病弱だったことや,1936~39年のスペイン内乱などのため,満足な教育を受けたとはいえない。10代で短編小説集を出版し,プロの音楽家になった。作家として,神話おとぎ話,超自然現象,ファンタジーなどの要素を織り込みながら,人生の通過儀礼,若者特有の裏切りや孤立感を追求した。また,聖書を暗示させる引用を多用し,スペイン内乱による家族分裂の象徴として,しばしばカインアベルの物語を流用した。第一作の "Los Abel"(1948)に続いて,『小劇場』Pequeño teatro(1954,プラネタ賞)などを執筆。1958年に発表した『死んだ子供たち』Los hijos muertosが国民文学賞を受賞。その後,スペイン内乱によって大人の世界に追い立てられていく子供たちを描いた "Primera memoria"(1959),戦争小説 "Los soldados lloran de noche"(1964),"La trampa"(1969)からなる三部作を発表した。1996年に出版された "Olvidado Rey Gudú"は,架空の中世王国舞台に,4世代にわたって繰り広げられる壮大な寓話からなる民話的叙事詩。短編集や児童向け作品も発表した。1959年ナダル賞,2010年セルバンテス賞を受賞。(→スペイン文学

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マトゥーテ」の意味・わかりやすい解説

マトゥーテ
まとぅーて
Ana María Matute
(1926―2014)

スペインの小説家。少女時代から文学に親しみ、22歳の若さで、大家族の7人兄弟の葛藤(かっとう)と離散の物語『アベル家の人々』(1948)を出版し文壇に登場した。現実と幻想的な世界が混然とした独自の小説世界を構築し、疎外感やコンプレックスに悩む人間像、愛と憎しみの激しい人間関係などをテーマにした作品を数多く発表。カフェ・ヒホン賞、プラネタ賞、国民文学賞、ナダル文学賞など、スペインの名だたる文学賞を次々に獲得する活躍を示した。この時期の代表作は、アルタミラという架空の村を舞台に近親の愛と憎しみの感情を濃厚に描き上げた『北西の祭』(1953)や、彼女自身の少女期の内戦体験に基づいた『幼き日の思い出』(1960)で始まる三部作『商人たち』があり、そのほか『いけない子どもたち』(1956)などの優れた短編集もある。その後、『見張りの塔』(1971)では、騎士道小説風の雰囲気のなか、舞台を一転して中世に求め主人公が自伝形式で幼年時代を回想する形式をとり、それまでの作品にみられる激しい感情表現を抑えた、詩的で淡い色合いの小説世界の創造を試みている。同じく中世に想を得たのが、長い沈黙を経て発表された『忘れられた王グドゥ』(1996)で、中央ヨーロッパの架空の王国、オラール国の絶え間ない争いを4代にわたる王を通して描いた長編である。童話作家としても優れた作品を発表し、『片足だけ裸足(はだし)』(1984)で国民児童文学賞を獲得した。スペイン王立アカデミー会員。

[東谷穎人]

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百科事典マイペディア 「マトゥーテ」の意味・わかりやすい解説

マトゥーテ

スペインの女性作家。家族の確執を描いた《アベルの家族》(1948年)で文壇に登場。後,《北西の祭り》(1953年),《死んだ息子たち》(1958年)や代表的三部作《商人》(1960年―1969年)などを発表。内戦やその後の社会に対する批判を主題としているが,宗教的モチーフや独特の色彩,隠喩表現を多用することによって,詩情豊かな文学世界を構築するに至っている。また,数々の児童文学も発表し,虚構と現実の相半ばした独自の世界を作り出している。

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