時間とともに変動する偶然量の数学的モデルとしての確率過程{Xt,t∈T}を考える。Tは時間の集合,Xtは時刻tごとに定まる確率変数(偶然量の値)である。Xtの値を指定すると,t以後の変量{Xs,s≧t}の確率法則が,t以前の変量{Xs,s≦t}のあり方に無関係に定まるとき,確率過程はマルコフ過程と呼ばれる。Xtの値がxであるという条件の下で,s時間後の変量Xt+sが集合Eに属する確率をマルコフ過程の推移確率という。とくにこの確率がtに依存しないとき,これをPs(x,E)と表し,マルコフ過程を時間的に一様であるという。そのようなマルコフ過程は推移確率と初期分布,すなわちt=0での変量X0の分布により定まる。
T={0,1,2,……}であり,Xtの取り得る値の集合(状態空間)が有限集合{1,2,……,N}の場合,マルコフ過程は有限マルコフ連鎖と呼ばれ,1906年にA.A.マルコフによって扱われた。どの成分も負でないN次正方行列Pで各行の成分の和が1に等しいものを推移行列という。時間的に一様な有限マルコフ連鎖の推移確率は推移行列Pを与えると定まり,実際行列Pのn乗Pnの(i,j)成分がPn(i,j)(Xm=iなる条件下でXm+n=jとなる確率)に等しい。T=[0,∞)で,状態空間が実数の集合Rの場合,時間的に一様なマルコフ過程の推移確率Ps(x,E)を定める量として,有限マルコフ連鎖の場合のP-I(Iは単位行列)に相当する量,
を考える。Lはマルコフ過程の生成作用素と呼ばれ,Lの型によってマルコフ過程Xtの挙動を知ることができる。多くの場合Lは次の微分作用素(1)か,積分作用素(2)か,もしくはそれらの結合となる。
Lが表示(1)をもつとき,マルコフ過程Xtはtの関数として確率1で連続にとれ,拡散過程と呼ばれている。a(x)/2,b(x)はおのおのxから出たXtの瞬間的変位の分散および平均を示す。(2)の場合Xtは確率1でtについて階段関数となり,n(x,dy)はxから出発したXtが飛躍してdyに移るようすを示す。とくにa=1,b=0なる拡散過程はブラウン運動,なる飛躍型マルコフ過程はポアソン過程にあたる。
Xtの分布がxについて密度関数vt(x)をもつとき,vは方程式∂vt(x)/∂t=L*vt(x)の解となる。これはA.N.コルモゴロフが1931年に導いたものであり,L*は生成作用素Lの共役作用素である。例えばLが(1)型のとき,
となるが,この式は拡散方程式として物理学者によってすでに研究され始めていたものである。このようにマルコフ過程は拡散現象などとのかかわり合いが深く,また以来生成作用素に関連して確率微分方程式論などの豊富な計算方法も開発されてきた確率過程である。
執筆者:福島 正俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…時刻0からtまでの間に起きるある種の交通事故の件数をXt(ω)とするとき,{Xt(ω)}がポアソン過程とみなされる場合がある。 確率過程のうち,ガウス過程,定常過程,加法過程,マルコフ過程,拡散過程,マルチンゲールなどはもっともよく研究されている。
[ガウス過程]
{Xt(ω)}を確率過程とする。…
※「マルコフ過程」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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