マンデル酸(読み)まんでるさん(その他表記)mandelic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンデル酸」の意味・わかりやすい解説

マンデル酸
まんでるさん
mandelic acid

ヒドロキシカルボン酸の一つ。α(アルファ)-ヒドロキシフェニル酢酸、フェニルグリコール酸ともいう。苦扁桃(くへんとう)(ハタンキョウの一種)などに含まれている。

 ベンズアルデヒドシアン化水素を付加させたのち、加水分解すると得られる。無色の板状結晶で、水、エタノールエチルアルコール)、エーテルに溶ける。遊離酸またはカルシウム塩の形で尿路防腐剤(医薬)として用いる。マンデル酸は不斉(ふせい)炭素原子をもつので、光学異性体をもつ。普通はラセミ体DL体)として知られているが、ブルシンを用いて光学分割するとL体、l-メントールを用いて光学分割すればD体が得られる。ブルシン(アルカロイドの一種)やl-メントールは対称性のない(キラルな)分子であり、一対の光学異性体の一方(一つのエナンチオ異性体)だけと強く結合するので、これを利用して光学異性体の一方を分け取ることができる。なお、光学分割とは、両方の光学異性体の混合物であるラセミ体から、それぞれの光学異性体(たとえば、D-マンデル酸とL-マンデル酸)を別々に取り出すことをいう。マンデル酸は尿路感染症の抗菌薬剤やフェイスピール(顔の皮膚表面の古い角質の除去剤)などのスキンケア治療に使用されている。

[廣田 穰 2016年2月17日]


マンデル酸(データノート)
まんでるさんでーたのーと

マンデル酸

 分子式  C8H8O3
 分子量  152.1

ラセミ体
 融点   120~121℃
 沸点   (分解
 解離定数 4.3×10-4(25℃)

D(-)体
 融点   133℃
 比旋光度 [α]23/D-153°

L(-)体
 融点   133℃
 比旋光度 [α]20/D+154°

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「マンデル酸」の解説

マンデル酸
マンデルサン
mandelic acid

2-hydroxy-2-phenylacetic acid.C8H8O3(152.14).ベンズアルデヒドにシアン化水素を付加して得られるマンデロニトリルを,加水分解するとDL-マンデル酸が得られる.普通,マンデル酸といえばDL-マンデル酸をさす.結晶.融点118~119 ℃.エタノール,エーテルなどに可溶Ka 4.17×10-4(25 ℃).遊離酸またはカルシウム塩の形で医薬品(尿路防腐剤)として用いられる.DL-マンデル酸をブルシンを用いてラセミ分割すると(R)-マンデル酸が得られる.融点133 ℃.-158°(水).また,アミグダリンを加水分解するか,DL-マンデル酸をl-メントールで分割すると(S)-マンデル酸が得られる.融点133.8 ℃.+156.5°(水).[CAS 90-64-2][CAS 17199-29-0:(S)-マンデル酸]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「マンデル酸」の意味・わかりやすい解説

マンデル酸 (マンデルさん)
mandelic acid


芳香族ヒドロキシ酸の一つ。α-オキシフェニル酢酸ともいう。名称はmandel(ヘントウ)に由来し,アーモンドと同語源。光学異性体がある。その中のラセミ体(dl-マンデル酸)は,融点119℃(水から再結晶)の無色の板状結晶。マンデロニトリルの加水分解によって得られ,マンデロニトリルはベンズアルデヒドにシアン化水素を付加させれば得られる。

天然アミグダリン(クヘントウなどに含まれる配糖体)の加水分解によって得られるl-マンデル酸は,S-型絶対配置を有する融点133.8℃の板状結晶で,比旋光度=-159.73(C2H5OH)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マンデル酸」の意味・わかりやすい解説

マンデル酸
マンデルさん
mandelic acid

α-ヒドロキシフェニル酢酸の別名。一般にそのラセミ体をさす。化学式 C6H5CH(OH)COOH 。無色板状晶,融点 119℃。水,アルコール,エーテルに可溶。水溶液は酸性を示す。アセトフェノン,ベンズアルデヒドなどから合成され,尿路殺菌剤として内服されることもある。

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