日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミナンカバウ」の意味・わかりやすい解説
ミナンカバウ
みなんかばう
Minangkabau
インドネシア、スマトラ島西部を本拠地とするマレー系の民族。マレー語の一変形ともされるミナンカバウ語を母語とし、西スマトラの内陸高地部を発祥の地とする伝承をもつ。人口は約500万(1990推計)で、山間盆地での水田耕作を中心に畑作も行うが、商人や知識人として他地域の都市部に移住しているものも多い。出自が母系制をとることで知られており、村はいくつかの母系氏族で構成される。その下部単位である小血族集団は農地などの共同世襲財産をもち、1人の男性の長に率いられる。それら小血族集団の成員は、スイギュウの角(つの)を模した屋根をもつ高床の大家屋にすむ。共同財産の使用権は母親から娘に受け継がれるが、委譲分割されることはなく、一族の男性、つまり娘の兄弟に管理される。結婚は村内族外婚を基本とし、妻方居住をとるが、以前は夜だけ夫が妻の家を訪れ朝には帰る妻問い婚の形が一般で、子供にとっては父よりも母の兄弟との関係のほうが重要だった。しかし、人口増加や賃金労働の普及などに伴って、男性が村外に出て生活の糧(かて)を求めることが重要になり、妻子が夫について移住することも増え、生計の単位として核家族の果たす役割が大きくなっている。17世紀ころにイスラム教が入り、19世紀初めには改革派が植民地抵抗運動でもあるパドゥリ戦争を引き起こした。またイスラム教の学習塾の伝統を下地にして近代教育が浸透し、20世紀前半には多くの民族運動家や小説作家を生み出した。独立期のハッタ副大統領やシャフリル首相、70年代のアダム・マリク副大統領など有力政治家も多数輩出している。
[鏡味治也]
『クラチャラニングラット編、加藤剛・土屋健治・白石隆訳『インドネシアの諸民族と文化』(1980・めこん)』