アケボノスギともいう。1943年に発見され,生きている化石植物と騒がれたスギ科の落葉高木で,庭園に植えられる。高さ35m,径2~3mに達し,幹は通直,樹皮は灰褐色で縦に薄くはげる。密に分枝して狭い円錐形の樹形をなし,小枝は対生する。葉も2列に対生し,線形で長さ15~20mm,葉と側生の小枝は秋にちりぢりに落ちる。雄花は楕円形で枝端に穂状に対生し,おしべも十字対生。雌球花も小枝に頂生し,22~26個の果鱗が十字対生しておのおのに5~9個の胚珠が直生する。秋に果鱗は楯形に肥大し広楕円形で長さ2~3cmの球果を形づくる。種子は扁平で翼に囲まれる。中国の四川・湖北両省の標高900~1300mの地に自生する。ながく日本の植物遺体の研究を続けた三木茂(1901-74)は,1941年にスバールバル諸島産の化石種Sequoia disticha O.Heerに近縁のものが日本にもあることを認め,それらが対生葉をもつ点に着目して葉が互生のセコイア属から分け,別属Metasequoiaを立てた。その後,1943年中国四川省の長江(揚子江)支流磨刀渓で,林務官王戦によって発見された針葉樹が,この属のものであることがわかって一躍世界の注目を浴びた。49年にアメリカで育てた苗が日本にも伝えられ,現在では広く庭園などに植えられる。強い剪定(せんてい)に耐え,挿木が容易で生長も早い。しかし,7~8年生以上の木からの挿木はほとんど活着しない。材は軽く軟らかい。白亜紀と第三紀の化石種は多く知られているが,現生はこのただ1種のみである。
同じスギ科のスイショウ(水松)Glyptostrobus pensilis (Staunt.) K.Kochも1属1種の落葉高木であるが,葉は互生し,球果は倒卵形で,果鱗が楯形にならず,その先が6~9裂する。水湿地に生え,幹の基部が太くなって空隙(くうげき)が多く,かつてコルクの代用に使われた。中国南部諸省に分布する。水松を日本でイチイと読むのは誤用である。ヌマスギ,別名ラクウショウ(落羽松)Taxodium disticha (L.) Rich.(英名bald cypress)も葉が互生する落葉高木で,球果は卵球形で楯形の果鱗をもつ。アメリカ合衆国南東部諸州の川沿いの低湿地に生え,根からときに高さ2m,直径30cmになる多数の呼吸根を直立して,湿生群落に特異な景観を現出する。高さ50mにもなり,心材は赤~黒色で耐朽性があり,土木,水槽用材とされる。ヌマスギ属はメキシコに半常緑性の別の1種がある。
執筆者:濱谷 稔夫
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スギ科(分子系統に基づく分類:ヒノキ科)の落葉高木。和名はアケボノスギという。また中国名は水杉。樹幹は直立し、大きいものは高さ35メートル、径2~3メートルに達する。樹冠は円錐(えんすい)形になり、樹皮は赤褐色で浅く縦裂する。枝は毛がない。葉は2列対生し、線形で、長さ0.8~3センチメートル、幅1~2センチメートル、秋に橙赤褐色(とうせきかっしょく)になる。小枝は葉とともに落ちる。雌雄同株。2~3月に開花し、雄花は褐色で腋生(えきせい)または頂生し、総状または円錐花序をなし、長く垂れ下がる。雌花は細長く、枝先に単生する。果実は角状球形で、径1.5~2.5センチメートル。果鱗(かりん)は十字形対生をなす。種子は倒卵形で翼に包まれ、10月ころ成熟する。やや湿気のある排水のよい肥沃(ひよく)地でよく育つ。材は白色で、建築、器具、薪炭などに利用し、また、庭園、公園などに植栽する。セコイアの名がついているが、セコイア属Sequoiaとは別属に分類されている。
中生代白亜紀以降、とくに新生代第三紀の時代には北半球各地に広く分布していた。日本でも第四紀前半まで生存していた。現生種は「生きている化石」(遺存種)の例として有名となった。
[林 弥栄 2018年6月19日]
発見はドラマチックである。1943年、森林資源調査に加わった中国の林務官王戦(ワンツァン)は、湖北省謀道の祠(ほこら)で神木とされていた未知の樹木と出会うが、同定できず、翌年、採集された花と果実が北京(ペキン)の胡先驌(フーシエンスー)(1894―1968)中国植物学会会長に送られた。胡はこれを、日本の植物学者三木茂(1901―1974)が化石で命名(1941)したメタセコイア属と同定し、1946年に発表した。1948年1月、種子がアメリカに届き、3月にはカリフォルニア大学のチェイニーR. W. Chaney(1890―1971)が自生地を訪れて採集したが、以降は国共内戦で門戸は閉ざされてしまう。日本への渡来は1948年(昭和23)、ハーバード大学の植物学者メリルE. D. Merrill(1876―1956)から送られた種子が1949年に発芽したものが初めてである。また、1949年チェイニーが金光(こんこう)教の福田美亮に託し、天皇に献上、皇居に植えられた。1950年にもチェイニーから100本の苗が届き、全国に配布され、挿木繁殖で広がった。
[湯浅浩史 2018年6月19日]
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…ふつう沖縄本島のヤンバルクイナや西表(いりおもて)島のイリオモテヤマネコのように,島に孤立化している地理的に分布の狭いものが例にあげられているが,いろいろなカテゴリーのものが含まれている。すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。これらのカテゴリーは互いに関連しあい,シーラカンスなどの場合はすべての意味での遺存種といえるが,ゾウのような場合は系統的遺存種とはいえないし,よく遺存種として扱われているオーストラリアの有袋類は,厳密にはそうはいえない面もある。…
…これは現生の属の中間的形質をもった種や属が絶滅したためと思われる。また分布も,タスマニアスギ属Athrotaxis(タスマニア),コウヨウザン属Cunninghamia(中国南部,台湾),スイショウ属Glyptostrobus(中国南東部),メタセコイア属Metasequoia(中国中部),セコイアSequoia(北アメリカ西部),セコイアオスギSequoiadendron(北アメリカ西部),タイワンスギ属Taiwania(中国南西部,台湾),スギ属Cryptomeria(日本と中国南東部),ヌマスギ属Taxodium(北アメリカ南東部,メキシコ)と,それぞれ隔離的に分布している(図)。タスマニアスギは包鱗上に多数の種鱗があり,タイワンスギでは種鱗が退化消失し,胚珠は包鱗上についている。…
※「メタセコイア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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