日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
メタフィジカル・ポエット
めたふぃじかるぽえっと
metaphysical poets
形而上派(けいじじょうは)詩人。17世紀イギリスのジョン・ダンを始祖とする一群の詩人たちの総称。この名称はS・ジョンソンの造語(『イギリス詩人伝』)だが、J・ドライデンが「ダンは風刺詩ばかりか……恋愛詩のなかでも形而上学を好んで利用した」(『風刺詩論』)と評したことに由来する。
16世紀末に流行したペトラルカ風の叙情詩を批判する形で、ダンは恋愛詩と宗教詩のなかに散文のリズムと唐突な比喩(ひゆ)を駆使する。ジョージ・ハーバート、ヘンリー・ボーン、アンドルー・マーベル、リチャード・クラショーその他の詩人たちがダンに続いた。彼らは多く宗教詩や瞑想(めいそう)詩の領域で、愛、死、罪、神を主題にして、アイロニーとパラドックスに満ちた、知的詩作を展開した。
第一次世界大戦後、文芸評論家H・J・C・グリアソンHerbert John Clifford Grierson(1866―1960)やT・S・エリオットがその「現代性」に注目し、ロマン派やビクトリア朝詩人の単調な調べとは対照的な、彼らの「統一された感受性」、つまり「あらゆる種類の経験を吸収する能力」を高く評価した。その背景には、17世紀前半と20世紀初頭に共通する、社会的分裂、政治的混沌(こんとん)、科学の相対性の認識があった。形而上詩にはイタリアのマリーノ、スペインのゴンゴラに相通じるものがあり、近年、汎(はん)ヨーロッパ的視野による研究が盛んである。
[早乙女忠]