日本大百科全書(ニッポニカ) 「マーベル」の意味・わかりやすい解説
マーベル
まーべる
Andrew Marvell
(1621―1678)
イギリスの詩人、政治家。ヨークシャーの牧師の家に生まれ、ケンブリッジ大学卒業後、大陸を旅行。ピューリタン革命収拾のめどのついたころに帰国したが、まだ王党派的心情を残していた。1650年『ホラティウス風オード』でクロムウェルをたたえ、犠牲者チャールズ1世をも同時に哀惜している。1650~1652年、隠退した元議会派軍総司令官フェアファックス卿(きょう)の娘の家庭教師として、ヨークシャーのアップルトンに滞在。優れた叙情詩の大半はこの時期に書かれたと推測される。詩風は学殖と典雅な機知に富み、形而上(けいじじょう)派詩の伝統の最後を飾るが、ダンよりも穏やかである。『庭』と題する作品にみられるように、自然美への傾倒が著しい点もダンと異なる。1653年、はっきりとクロムウェル陣営に参加。1657年ミルトンの助手に任ぜられ、王政復古後にはこの大詩人の命を助けたといわれる。王政復古期の国会政治に、愛国的な清教徒議員として野党の立場を貫いた。作風は激越な政治風刺詩へと変わり、形而上詩の伝統の終焉(しゅうえん)を告げている。
[川崎寿彦]
『星野徹編訳『アンドルー・マーヴェル詩集』(1989・思潮社)』▽『川崎寿彦著『マーヴェルの庭』(1974・研究社出版)』