モクレン(その他表記)magnolia

翻訳|magnolia

改訂新版 世界大百科事典 「モクレン」の意味・わかりやすい解説

モクレン (木蓮/木蘭)
magnolia

世界的に有名な花木であるシモクレンMagnolia quinquepeta(Buchoz)Dandy(=M.liliflora Desr.)(漢名は辛夷(しんい))やハクモクレンM.heptapeta(Buchoz)Dandy(=M.denudata Desr.)(漢名は玉蘭)などの総称。単にシモクレンのみを指すこともある。属名はフランスの植物学者マグノルPierre Magnol(1638-1715)にちなむ。共にモクレン科の落葉木本。シモクレンは1~5mの低木で,葉は互生し,倒卵形,先端は少し突出する。葉の展開前から1ヵ月ほどの間,赤紫色の大きい花を枝端に次々つける。萼片は3枚,花弁長の1/2ほど,花弁は赤紫色で通常6枚。染色体数76本で,四倍体。ハクモクレンは高さ20mにも達する高木で,葉は前者に似るが少し厚い。葉の展開前に乳白色のより大きな花をつけ,壮観である。萼片は3枚,花弁と区別しにくい。花弁は6~9枚でいずれも乳白色。染色体数114本で,六倍体。どちらも中国中部原産といわれているが,非常に古くから栽培されていたため詳しい野生地は不詳である。

 中国では両種とも高貴な花木として宮城寺院に栽植され,日本には古く入ってきた。欧米には18世紀後半に導入され,現在では世界で最もポピュラーな花木の一つで,アメリカ合衆国のルイジアナ,ミシシッピ両州の州花となっている。特に欧米では盛んに品種改良交配が行われ,シモクレンは70以上,ハクモクレンは40以上の園芸品種が育成されている。日本ではシモクレン系のトウモクレンカラスモクレンが,古くより栽培されている。両種の雑種M.×soulangiana Soul.は欧米では最も美しいモクレンとされ,100を超える品種が作られているが,日本ではサラサレンゲ,ニシキモクレンがときに植えられている。この類は種子がほとんどできないので,接木で増やす。ハクモクレンに近いM.campbellii Hook.f.et Thoms.は白~淡紅色の花をつけ,シモクレンに近いM.acuminata L.はモクレン属としては特異な黄緑色の花が咲き,最近,日本でも植えられるようになってきた。シモクレン,ハクモクレンのつぼみは辛夷の名で,頭痛,鼻炎等の漢方薬として利用が多い。

15属230種に分類される木本性双子葉植物の1科。花は互いによく似ているが,おもに果実の裂開様式で属の分類がされている。染色体の基本数は19。鑑賞用,薬用,材等の利用がある。代表的なものにモクレン属(85種),オガタマノキ属(40種),ユリノキ属(2種)がある。アジア,アメリカの東西両大陸の温帯,熱帯に隔離分布し,第三紀周北極要素の残存分布様式を示している。原始的な植物群とされるモクレン目の中でも,花の構成が特に原始的である。

 常緑または落葉の高木か低木。他のモクレン目同様,全植物体に精油を含み,芳香がある。葉は互生し単葉で,ユリノキ属を除き全縁。顕著な托葉があり帽子状になって茎頂を覆い,次の幼葉や蕾を保護する。幼葉は中肋を軸に内側に畳まれ,原始的な1心皮よりなるめしべの形態に通じる。花は大型で全器官が離生している。1個の花は2~3日咲き,その間,開閉運動する。通常両性花で,萼,花弁は3~4数性的に配列する。萼は3~4枚で輪生し,花弁によく似る。花弁は6~15枚が,らせん配列から輪生する。おしべは多数で,らせん配列し,幅広い花糸の中に葯が埋もれている。葯は内向するが,ユリノキ属のみ外向する。胚珠は2~20個で通常ほとんどが種子になる。果実は集合果で属により裂開するものとしないものがあり,またユリノキ属では翼果となる。種子は赤く,厚い肉質の外種皮と黒く硬い内種皮に覆われ,果実が裂開する属では軸より白い糸でぶら下がる。外種皮はよく仮種皮とか種衣とかいわれているが,まったくの誤り。長い花軸(花托)に多数の花被片,おしべ,めしべがらせん配列してつくのが原始的な花の形態と考えられているが,モクレン科は現生のものの中ではその仮説に最もよく合う。特に近縁な科はないが,バンレイシ科に近い。

 花が華麗で大きいため愛好され,世界中で花木としてよく植えられている。温・暖帯ではモクレン属Magnoliaのシモクレン,ハクモクレン,コブシ,シデコブシ,タイサンボク等とユリノキが,暖~熱帯ではオガタマノキ属のトウオガタマ,キンコウボク等が栽植される花木として代表的である。また街路樹,公園樹としてもタイサンボク,ユリノキ等がよく使われる。欧米ではモクレン属のかけ合せや品種改良が盛んで,日本にも導入されだした。モクレン科の種子は一般に発芽率がよく,2年間で90%ほどは発芽するため実生での増殖は容易で,接木,挿木ででも増やす。種間雑種も容易にできる。材は柔らかくて軽く狂いが少ない優良材で,細工もし易い。建築,家具調度品等に幅広く使われる。また含有する精油成分を利用してさまざまな薬も作られる。シモクレン等の花芽である辛夷や,ホオノキに近縁な厚朴の樹皮等が漢方薬にされる。さらに花の芳香を香水,香料等にも使う。葉も香りがよく,葉を砕いて直接,間接に食べたり,大型の葉で食物をくるんだりして利用されることがある。
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百科事典マイペディア 「モクレン」の意味・わかりやすい解説

モクレン

シモクレン(紫木蓮)とも。モクレン科の落葉低木。中国原産で古く日本に渡来。葉は広倒卵形。4〜5月,小枝の先に暗紫色の6弁花を1個ずつつける。花は葉に先だって開き,葉が伸びだしても次々と咲き続け,長さ約10cm,ふつう平開しない。おしべ,めしべとも多数。果実は長楕円形,褐色で,多数の袋果からなり,秋に成熟し,子房は縦に裂けて,赤色の種子が白い糸状の柄でぶら下がる。近縁のハクモクレンも中国原産。葉は倒卵形で先がとがり,3〜4月,葉に先だって小枝の先に大きな乳白色の花を開く。花を観賞するため広く植えられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モクレン」の意味・わかりやすい解説

モクレン(木蓮)
モクレン
Magnolia liliflora; lily magnolia

モクレン科の落葉低木。モクレンゲ,シモクレンともいう。中国の原産で,古くから輸入され観賞用として庭園に植えられる。幹は高さ2~4mで直立し,根もとから分枝し叢生する。葉は広くて大きく,互生し,短い柄があり広倒卵形で全縁,下面の脈に沿って細かい毛がある。3~4月に,葉に先立って大型の花を開く。萼は3枚,緑色で小さい。花弁は6枚,外面は暗紫色,内面は白っぽい赤紫色で美しい。おしべ,めしべともに多数ある。果実は多数の袋果から成り,白い糸状の柄のある赤い種子を生じる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モクレン」の意味・わかりやすい解説

モクレン
もくれん / 木蘭
[学] Magnolia

モクレン科(APG分類:モクレン科)モクレン属の総称。また、普通はシモクレンを単にモクレンと称している。

[編集部 2018年8月21日]

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世界大百科事典(旧版)内のモクレンの言及

【双子葉植物】より

単子葉植物と並ぶ被子植物の二大区分の一つで,分類階級はふつう綱のランクで取り扱われ,モクレン綱Magnoliopsidaともよばれる。子葉は2枚,まれに1枚または3枚以上。…

※「モクレン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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