改訂新版 世界大百科事典 「モデュロール」の意味・わかりやすい解説
モデュロール
modulor
ル・コルビュジエによって提案された建築モデュールの一つ。男性が手をあげた姿勢の指先,頭,みぞおち,つま先の間の三つの寸法が黄金比になっていることに着目し,これらをもとにフィボナッチの数列に展開したものである。〈黄金のモデュール〉という命名もこの特質に由来する。寸法は赤,青の2系列に展開されており,一方は立位の頭の高さから,もう一方はあげた片腕の高さから導かれている。古典以来伝統的にもっとも美しい調和を示すとされている黄金比を,機能的な人体寸法に関連させたところに近代建築家ル・コルビュジエの理念がよくあらわれている。彼はモデュロールを第2次世界大戦中に完成させ1947年にはパテントを取得しており,このシステムが建築構成材や工業製品の寸法を決める際のユニバーサルな標準となることを望んでいたが,その寸法の導き方に明らかなように,高さ方向の寸法体系としてはともかく平面方向のモデュールとしては実用上のメリットは少なく,結局現在では垂直方向の寸法の比例を生み出すシステムと受けとられるのがふつうであろう。しかし量産建築構成材の組立てという即物的,実際的な関心の中で発展してきたモデュール理論に,比例,美の概念を持ち込んだ功績は大きく,その後の研究にも多大の影響を及ぼしている。また,垂直方向の寸法比例を定めるシステムとしてのモデュロールはもっとも鮮やかな手法の一つであり,日本の建築家に与えた影響も大きい。ル・コルビュジエ自身が設計した建築にモデュロールを徹底的に適用した例としては,マルセイユのユニテ・ダビタシオンがよく知られている。
→建築モデュール
執筆者:安藤 正雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報