イエスのいわゆる〈十二弟子〉の一人で“イエスを裏切った”人物(《マルコによる福音書》3:19)。〈イスカリオテ〉の正確な語義は不詳であるが,〈カリオテ(《ヨシュア記》15:25のケリオテ・ヘズロン)出身の男〉の意味と思われる。《ヨハネによる福音書》は父親の名はシモン(6:71ほか)で,ユダ自身はイエスの弟子グループの会計係であったと伝えている(12:6)。《マタイ》《マルコ》《ルカ》のいわゆる〈共観福音書〉の叙述では,金銭と交換にイエスをひき渡すことをあらかじめ祭司長たちに約束し,〈最後の晩餐〉の後イエスほか一同がゲッセマネの園に来たところで“接吻をもって”裏切っている。この叙述の細部はともかくとして,裏切りの事実性は疑われえない。そこから原始キリスト教団は,この裏切りを救済史的な必然であったとする合理化を余儀なくされ,イエスはこの〈サタン〉の業(わざ)を事前に予知していたと説明した(《マルコによる福音書》14:17~21,《ヨハネによる福音書》13など)。
ユダの行動の実際の動機は確定が困難で,いくつかの仮説が提出されている。比較的好意的な見方では,イエスに誤ったメシア願望を寄せていたユダが,この願望を遂に満たしえなかったイエスに絶望した結果であるとされる。ユダのその後の運命については,後悔して縊死(《マタイによる福音書》27:3~10),不義の金で買った土地で転落死(《使徒行伝》1:18),〈肉体がみにくくふくれあがり,体液とうじ虫が流出した〉(《パピアスの断片》3:2~3)とする伝承のほか,さまざまな想像がなされた。
執筆者:大貫 隆
〈裏切り者〉ユダは,黒い髪と黒いひげをのばした壮年の男か,悪しきユダヤ人の典型として,この民族に特有の容貌をもつ赤毛の男として表現される。しばしば〈裏切り〉を示す黄色い衣を着け,他の十二弟子と区別するために光輪を欠くか,黒い光輪を付せられている。受難伝中の〈最後の晩餐〉〈イエス・キリストの逮捕(ユダの接吻)〉などに,アンチキリストの役割をになって登場する。前者において,ユダの立場は一人だけ食卓の反対側に着くなどの形できわめて明快に示されている。しかしレオナルド・ダ・ビンチは,内面の心理描写によって他の弟子からユダを区別する斬新な方法をとっている(ミラノ,サンタ・マリア・デレ・グラーツィエ修道院)。キリストを売り,〈祭司長から銀30枚を受けとるユダ〉,おのれの行いを悔い,〈銀貨を返すユダ〉,〈首を吊って自殺するユダ〉などの諸場面もしばしば表現される。ユダのそばには悪魔がついてそそのかしていたり,首吊りの紐を引く役を果たしていたりする。また,首を吊るユダの腹が裂け,はらわたが飛び出していることもある。
執筆者:荒木 成子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
師イエスを裏切った弟子。『新約聖書』によれば、「イスカリオテ」は彼もしくは彼の父シモンのあだ名であった(「マルコ伝福音(ふくいん)書」3章19節、14章10節、「ヨハネ伝福音書」6章71節、12章4節、13章2、26節)。そして「イスカリオテ」の意味については、「カリオテの人」の意でこのユダがガリラヤ出身でないことの銘記であるとか、ギリシア語のsikários(刺客)に由来するとか、諸説あり、その意味はかならずしも明らかでない。ユダは、奴隷1人の値段銀30枚でイエスを売り(「マタイ伝福音書」26章15節)、信頼の証(あかし)ともいうべき接吻(せっぷん)をもってイエスを裏切り(「マタイ伝福音書」26章49節、「マルコ伝福音書」14章45節、「ルカ伝福音書」22章48節)、そのあげくに自ら首を吊(つ)って果てた(「マタイ伝福音書」27章5節)。
[定形日佐雄]
イエスの十二使徒の1人。『新約聖書』では、ヤコブの子ユダと叙述され、イスカリオテのユダと区別される(「ルカ伝福音(ふくいん)書」6章16節、「使徒行伝(ぎょうでん)」1章13節)。古くは彼をイエスの兄弟とみなすこともあったが、歴史的に無理である。彼は、イエスが自身を弟子だけに示し、世に伏せる理由をイエスに問うた(「ヨハネ伝福音書」14章22節)。
[定形日佐雄]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
イエスの12弟子の一人。「イスカリオテのユダ」と呼ばれ,もう一人のユダ(Judah)と区別される。イエスの一団の財務をつかさどったが,イエスを裏切って祭司長に引き渡し,のち後悔して自殺した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…〈主の晩餐〉とも言う。《マルコによる福音書》14章17節以下の記事によると,この晩餐の席上で,イエスは自分を裏切ろうとしている者(イスカリオテのユダ)がいることを指摘するとともに,パンとブドウ酒をとって,それらが自分の体であり,多くの人のために流す契約の血であると言った。同様の記事は《マタイによる福音書》《ルカによる福音書》にもあり,これらの共観福音書では,〈最後の晩餐〉が過越(すぎこし)の食事(過越の祭)と結びつけられている。…
…ユダヤ教・キリスト教で,人間を神の道からそらせようとする力が擬人化されたもの。〈敵対するもの〉という意味のヘブライ語śāṭānに由来する。…
…旧約聖書,ミシュナ(後述)に次ぐユダヤ教の聖典。ヘブライ語の原意は〈学習〉。…
※「ユダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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