ヨーマンという言葉は,イギリスにおいて現在に至るまで,さまざまな意味を有している。(1)王や大貴族の家中に勤務し,騎士(ナイト),準騎士(エスクワイア)に次ぐ地位にある人々。(2)国王親衛隊員Yeoman of the Guard。1485年ヘンリー7世の戴冠式に際し創設され,50名から成った。1520年ヘンリー8世期に600人に増員。1669年以来,定員100人であったが,近年さらに縮減された。議会爆破と国王暗殺をねらった火薬陰謀事件(1605)以来,国王の議会出席に際し慣行として議会丸天井の捜索を行っている。最後の実戦参加は1743年,オーストリア継承戦争の際である。(3)16世紀に創設されたロンドン塔守衛。(2)とともに現役軍人から選抜される。(4)中世末期から近代前半にかけての自由な独立自営農民。
中世イギリスの農民層は大別すると,領主に対し貨幣または現物の地代のみを負担し,国王の裁判のみに服する自由農民と,これらのほかに農業労働その他の作業労役(賦役)を負担し,領主の意志に服する農奴から成っていた。本来ヨーマンとは,自由農民のうちとくに年に土地からの収入40シリング以上を得ているもの,すなわち議会に出席する州代表の選挙権,陪審参加資格を有するものを指した。社会的には郷士または準騎士の下に位置する階層である。ところが14世紀半ばから15世紀初めにかけて人口の減少,農民の逃散,労働力の不足などが生じ,領主層はこれらに対処して耕作者を確保する必要から農奴の負担を軽減,そのため賦役の貨幣納への変換(金納化)が進んだ。農奴は今や彼の属する荘園の慣習には服するが,その他の点では自由農民と大差がなくなり,さらに荘園裁判所に土地の保有を登録し,その謄本を証明として所持するだけの謄本保有農(コピーホールダー)となった。ヨーマンはこうして含意が広がり,これら慣習保有農,謄本保有農を含む中規模のあらゆる農民をさす語となった。後にこの階層は,成功した大借地農と没落しつつある小農,農業労働者に分解し,産業革命と雁行して進んだ第2次農業革命の過程で解体,消滅した。(5)1794年以来の志願騎兵の呼称。州警察組織の完成まで治安警察隊として機能した。1922年以降は,機甲,砲兵部隊となっている。
執筆者:城戸 毅
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通常、「独立自営農民」と訳される、イギリスの中産農民。語源は、「若者」young manが縮まったものといわれる。14~15世紀には年収40シリング以上を有する自由土地保有農(フリーホルダー)をさした。彼らは州における議員選出権を与えられ、陪審員として地方行政に携わり、また百年戦争におけるイギリス軍の精鋭とたたえられた。この階層に、当時進行中であった封建制経済の解体に伴って上昇した謄本土地保有農(コピーホルダー)と一部の定期借地農(リースホルダー)が加わり、ヨーマンはジェントリと零細農の中間を占める広範な農民層をさすようになり、15世紀中葉にはイングランド、ウェールズの土地の約5分の1を保有した。チューダー朝以降の絶対主義時代には、農業経営や毛織物マニュファクチュア経営で頭角を現す者が出る一方、エンクロージャー(囲い込み)の進展により土地を奪われて離村を余儀なくされる者も多く、ヨーマン階層には両極分解がみられた。ことにヨーマンの中核であった自由土地保有農の没落は、18世紀における大地主の寡頭支配の強化とともにいっそう促進され、19世紀の資本制農業の確立によってヨーマンは実質的に消滅した。
[今井 宏]
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中世から近世初頭にかけて,ジェントリの下に位置して,イングランド社会の中核となった中流の社会層。その大半はさまざまな形態で土地を保有する自営農民であったが,16世紀以降エンクロージャーの進展とともに両極分解して,大半は賃金労働者に転落したが,一部は上昇してジェントリ,資本家となるものが生じた。18世紀の農業革命によって農村のヨーマンは姿を消した。
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…しかし,parzellierenといえば土地を〈分割する〉ないし〈分譲する〉を意味することからもわかるように,〈分割地所有〉は,通常は封建的土地所有の解体から生じる農民的土地所有を指す言葉として使われる。たとえば,イギリスのヨーマン(独立自営農)の土地所有やフランスの〈農民的土地所有propriété paysanne〉,西ドイツやスウェーデンなどの解放された農民(農民解放)の土地所有などがそれである。しかし,それらのほかに,古代ローマの自営農民たちの自由な分割地所有もあれば,日本のように高度に資本主義の発展した国の農民的小土地所有や,東欧諸国のような社会主義体制のもとでの農民的所有もある。…
※「ヨーマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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