リンゴ(読み)りんご(英語表記)apple

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リンゴ」の意味・わかりやすい解説

リンゴ
りんご / 林檎
apple
[学] Malus pumila Mill. var. domestica Schneid.

バラ科(APG分類:バラ科)リンゴ属の落葉高木または低木。葉は広楕円(こうだえん)あるいは卵円形で、鈍鋸歯(どんきょし)または鋭鋸歯をもち、早落性の細い托葉(たくよう)がある。若葉、新梢(しんしょう)、花柄には灰白色の密毛がある。つぼみは紅色で、出葉と同時にまたはすこし遅れて、白色あるいは薄桃色の5弁花を頂生する。雄しべは多数、花柱は3~5本で、基部は癒着して1個となり、白毛がある。子房は下位で、花托の内部に包蔵される。果実は球、円錐(えんすい)、扁球(へんきゅう)形などを示し、花托の発達した食用部と、子房の発達した5子室をもつ果心部からなる。原生地は西部アジアから南東部ヨーロッパで、マルス・ピュミラM. pumila Mill.を基本とするが、マルス・シルベストリスM. sylvestris Mill.、シベリアリンゴ(エゾノコリンゴM. baccata Bork.、カイドウズミM. floribunda Sieb.、ハナカイドウM. halliana Kohene.、イヌリンゴM. prunifolia Bork.などのほか多数の種が改良にあずかった。近縁種のズミM. toringo (Sieb.) Sieb. ex de Vriese〔M. sieboldii (Regel) Rehd.〕、ワリンゴM. asiatica Nakai、エゾリンゴM. cerasifera Spachなどは日本や中国に原生する。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

栽培史

リンゴの栽培はヨーロッパでは4000年以前のスイスの湖上民族時代から始まり、多くの神話伝説のなかで取り上げられ、リンゴの呼び名は果実類を代表する名とされた。これは、日本でモモが果実の代表的呼び名であったことと似ている。スイスのド・カンドルによれば、出土品から考え、当時は大果品(縦径2.9~3.2センチメートル、横径3.6センチメートル内外)と、小果品(縦径1.5~2.4センチメートル、横径3.0センチメートル内外)の2種類があるとし、いずれも現在、ヨーロッパに半野生状態で生えるクラブアップルcrab apple程度のものであったと考えられる。ギリシア時代になると、テオフラストスは野生品と栽培品を区別し、接木(つぎき)繁殖法と栽培法を記している。ローマ時代には、リンゴはもちろん、柑橘(かんきつ)、モモ、アンズ、ナツメ、ザクロなどの果樹がマルスまたはマルムの名で記されていた。この傾向はその後16~17世紀までみられた。

 リンゴの花の雌しべ・雄しべの機能を知って本格的な交雑育種を始めたのはトーマス・アンドリュー・ナイトThomas Andrew Knight(1759―1835)で、このころからイギリスをはじめヨーロッパの諸地方で、偶発実生(みしょう)も加え、よい品種が現れてきた。アメリカには移民とともに伝わったが、とくに1680年ごろ、ヨーロッパから多数の品種と種子が輸入され、初めはりんご酒の原料として栽培が広まった。19世紀の後半から品種育成が進み、また栽培法も進歩し、良品質のリンゴが生産されるようになり、生食用としての栽培が急速に伸びた。20世紀になると、オレゴン州ワシントン州に栽培が普及した。アメリカでは今日、多数の品種をもち、質量ともに世界の大産地となった。

 中国におけるリンゴあるいは関連果樹の栽培は相当に古いと推定され、「柰(ない)」「頻婆(ぴんば)」「蘋果(ひんか)」などがこれにあたるといわれる。「柰」は『唐本草(とうほんぞう)』(659)には薬用として記されているが、『広群芳譜(こうぐんぽうふ)』(1870)によると、これは「頻婆」「蘋果」の同類と推定され、中央アジアから渡来したリンゴM. pumila Mill. var. domestica Schneid.の1変種に属すものと考えられている。『新修本草』(659)に現れる「林檎」は今日のワリンゴをさすものと考えられ、『本草綱目』(1578)でも、「林檎」は「柰」の果実より小さくて丸いものとしている。なお現代中国では、古来のリンゴを「中国蘋果」、西ヨーロッパから導入したものを「洋蘋果」とよび、文字簡易化に伴い、「蘋果」を「華果」、さらに「苹果」としたという。

 日本においては、ズミやエゾノコリンゴなどが原生するが、「林檎」「華果」、および近縁種の原生はみられない。『本草和名(わみょう)』(918)に「㮈(ない)」と「林檎」を記し、『和名抄(わみょうしょう)』には「㮈子」に「ない」または「からなし」を、「林檎」には「りうこう」の読みをあてている。鎌倉時代になると、菓子として「林檎」が記されているが、栽培が普及したのは江戸時代に入ってからである。『大和(やまと)本草』(1709)には、「柰」に「りんきん」、『本草綱目啓蒙(けいもう)』(1803)には「林檎」に「りうこう」「りんご」「あをりんご」、「柰」に「ない」「りんきん」「あかりんご」「べにりんご」「べにここ」「りんき」の和名をあてている。

 西ヨーロッパのリンゴは、文久(ぶんきゅう)年間(1861~1864)、福井藩主松平春嶽(しゅんがく)の江戸巣鴨(すがも)別邸に、初めてアメリカ種がみられたといわれる。本格的な導入は明治初期で、開拓使や勧業寮によって行われた。その後、導入品種の適応性が判明し、北海道、青森県や長野県など、適地において栽培が進んできた。なお当時、西ヨーロッパ系リンゴには「華果(おおりんご)」、在来系リンゴには「地林檎」をあてて区別した。しかし、後者の衰退につれ、前者を単にリンゴとよぶようになった。明治中期から後期にかけては、さらに多くの外国品種が導入された。これらの品種は地方によって呼び名が異なり、混乱したため、1900年(明治33)に協定名で統一された。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

栽培

適地は、年平均気温7~12℃、夏季18~24℃の所で、北限は零下10.5℃付近といわれるが、零下30℃でも耐えられる。降水量は年600ミリメートル前後が最適といわれるが、日本では1400ミリメートルぐらいの所まで栽培されている。今日、温帯に広く栽培され、とくにアメリカ、ドイツ、イタリアなどに多い。繁殖は接木による。台木は主として共台(ともだい)またはマルバカイドウM. prunifolia Bork. var. ringo Asamiやミツバカイドウ(ズミ)M. toringo Sieb.が用いられていたが、近年は栽培管理が行いやすいように小さく育つ矮性(わいせい)台木が多い。矮性台木にはイギリスで育成されたM9、M26などがよく知られている。10アール当りマルバカイドウ台で12~18本、矮化(わいか)台で60~80本がよい。整枝・剪定(せんてい)を行い、樹形を整えていくと、3~4年で結実を始める。クローバーオーチャードグラスなどによる草生栽培が多い。施肥は10アール当り窒素12キログラム、リン酸5キログラム、カリ11キログラムとされる。リンゴは自家結実性が低いので、ミツバチを500メートルごとに4~5群おいて交配させるか、人工授粉を行う。後者では集めた花粉量の4倍の石松子(せきしょうし)を混合したものを用いている。摘果は、満開後30日ごろまでに1回目を、60日ごろまでに2回目を行い、30~50葉当り1果を残すようにする。

 摘果後、袋かけを行う。これはモモシンクイ防除と銹果(さびか)防止や、収穫果の色づけ調整などのために行われるが、労力がかかり、また果実の糖度を下げるなどの欠点もあり、薬剤防除によってモモシンクイが防げる今日では、無袋栽培が奨励されている。除袋は収穫前約20~30日ごろに行い、着色を促す。デリシャスなど収穫前に落果の多い品種には落果防止剤の効果がある。エスレルによる着色・熟期促進も可能である。収穫は機械化が望まれているが、今日のところ手によって1個ずつ行われている。

 リンゴは品種によっては貯蔵力が強く、とくに呼吸作用を抑えると、新鮮状態が長期に保たれる。このため0℃に近い低温貯蔵のほか、CA貯蔵といって、酸素と炭酸ガスの比率を変え、しかも3~4℃下で呼吸作用を抑えて貯蔵する方法が行われる。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

病害虫

病気ではモニリア病がもっとも害をなし、初春の消石灰の土壌散布、発芽前の石灰硫黄(いおう)合剤、発芽時の「ベンレート」水和剤散布や罹病(りびょう)部摘除などにより防除が行われている。その他、うどんこ病、赤星(あかほし)病、黒点病、黒星(くろほし)病などがあるが、水和硫黄剤、「ポリオキシンO」水和剤、「ダイカモン」水和剤などが使われる。害虫にはアブラムシ類、ハダニ類、カイガラムシ類、モモシンクイ、ハマキガなどがあり、「スミチオン」水和剤、「キルバール」液剤、「プリクトラン」水和剤、「サリチオン」水和剤などが用いられる。押し傷は果肉を褐変させるので注意が必要である。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

品種・生産

かつてはスターキング、ゴールデンデリシャス、祝(いわい)などがよく知られていた。近年ではジョナゴールドなどが知られる。また、国および県などでの育種が進み、ふじ、つがる、陸奥(むつ)、世界一、北斗(ほくと)、王林(おうりん)など、よい品種が育成され普及してきた。クラブアップルは花と小さな果実を多数つける雑種性の高いリンゴ近縁の種類で、庭木や盆栽によい。小さな食用リンゴのアルプス乙女は紅玉(こうぎょく)とふじの混植園でみいだされた。なお葉節間の詰まったスパータイプの品種はいずれも果実の味が劣る。

 日本ではミカン類に次ぎ3万6500ヘクタール(2017)栽培され、2017年(平成29)の収穫量は73万5200トンである。青森県(54%)、長野県(20%)が多く、岩手、山形、秋田、福島などの各県が続く。品種別では、ふじ、つがる、王林、ジョナゴールド、シナノスイートの順に収穫量が多い。なお、祝のような早生(わせ)種は、青リンゴと俗称され、酸味は強いが新鮮な味覚が賞味されている。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

利用

リンゴは水分85~90%、ペクチンと繊維0.5%、糖質13.1%、リンゴ酸0.5%内外を含むほか、灰分、タンパク質などを少量、ビタミンを果肉100グラム中にA1マイクログラム(β(ベータ)カロチンとして)、B1・B2を各0.01ミリグラム、ナイアシン0.1ミリグラム、C3ミリグラム内外を含む。主として生食用とされるが、ジャム、ジュース、アップルサイダー、乾燥りんご、焼きりんご、りんご酒、パイなどに用いられる。

[飯塚宗夫 2020年1月21日]

文化史

旧約聖書』の「創世記」に記述されるアダムとイブが実(禁断の木の実)を食べた「知識の木」tappuahはリンゴと訳されているが、聖書の舞台となった紀元前のパレスチナの地に「食べるによく、目には美しい」と「創世記」で表現されたようなリンゴは栽培されていなかったとみられ、「箴言(しんげん)」に出る金のtappuahとの関連から、黄色く熟するアンズ説が有力である。中国の『西京雑記(せいけいざっき)』(4世紀編)は漢の上林苑(えん)に紫柰(だい)、素柰、朱柰があったと書かれている。『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(6世紀)は柰(だい)と林檎は取木で殖えると述べる。宋(そう)の張翊(ちょうしょう)は、林檎を『花経』の花の評価で、4番目のグループとして、四品六命の一つにあげた。

[湯浅浩史 2020年1月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「リンゴ」の意味・わかりやすい解説

リンゴ (林檎)
apple
Malus pumila Miller

バラ科リンゴ属Malusの中・高木性落葉果樹で,園芸上は仁果類に属す。ブドウとともに温帯果樹として最も重要なものである。

葉は広楕円形または卵円形で葉縁に鋸歯がある。花は1花序に数個着生し,中心花から開花して順次外がわに及ぶ。子房下位花で,花柱は5本,その基部は癒着し,細毛を着生している。果実は偽果で,花床の発達した食用部分と子房の発達した果芯部分とからなる。果形は球形から扁球形まで品種によって異なる。

アジア西部からヨーロッパ南東部の原産。世界各地の温帯域に広く栽培されている。ヨーロッパのリンゴは4000年以上の栽培歴をもつ最も古い果樹で,スイスの杭上住居の遺跡からは炭化したリンゴが発掘されている。ギリシア時代にはリンゴの栽培種と野生種が区別され,テオフラストスは接木による繁殖法と栽培法を述べている。ローマ時代の大プリニウスはマルスまたはマルムの名で,リンゴのほかにかんきつ類,モモ,アンズ,ナツメ,ザクロなどを記載し,リンゴを果実類の代表名とした。この呼称は16~17世紀まで使用された。その後,リンゴはヨーロッパ各地に伝わり,とくにイギリスは,19世紀末まで世界一の生産国であった。アメリカへは約350年前にリンゴ酒の原料として導入されたが,19世紀の後半からは育種および栽培法の改善によって,生食用の品質のよい果実が生産されるようになり,現在では質・量ともに世界一の大産地になっている。

 一方,中国ではリンゴおよびその近縁種の栽培は古い。最近の考古学の発掘によれば,湖北省の江陵戦国墓よりリンゴの果核が出土したという。文献的には,《神農本草》(1~3世紀),《広志》(3世紀)に〈柰(だい)〉の字があらわれ,さらに6世紀の《斉民要術》に至って栽培方法についての詳細な記述が残る。それらによれば柰のほかにも,頻婆,蘋果あるいは林檎の呼称があった。柰,頻婆および蘋果は同一のもので,西域から古い時代に渡来した現在の栽培種リンゴ(セイヨウリンゴ)と同種と考えられている。しかし中国原産で日本でも古くから栽培されていたジリンゴ(ワリンゴ)M.asiatica Nakaiも花紅(果)や沙果の名で食用に栽培されていた。もともと林檎の名はこれに対するものであった。

日本に原生するリンゴ属植物はズミとエゾノコリンゴM.baccata Bork.の2種のみであり,ジリンゴやセイヨウリンゴの原生はみられない。日常の菓子として〈林檎〉が文献に現れたのは鎌倉時代の半ばごろであり,平安時代にはまだ中国から渡来していなかったか,渡来していても栽培はまれであったようである。江戸時代になるとリンゴの栽培が普及するようになるが,明治以前に栽培されたのは,中国から渡来した花紅であり,ワリンゴまたはジリンゴと呼ばれ,柰または林檎と記された。明治以後に導入されたリンゴとは種を異にするもので,現在はその栽培がみられない。現在日本で栽培されているリンゴはセイヨウリンゴで,文久年間(1861-64)に欧米諸国から初めて導入されたといわれるが,本格的な導入は明治初期の開拓使によって行われた。それらの苗木は勧業寮が中心となって各地に配布され,東北地方,北海道,長野県などの適地で栽培が進展した。当初,それらを従来から栽培されていたジリンゴと区別するためにオオリンゴと呼んだが,果実が大きく,品質のよいオオリンゴがジリンゴの栽培を圧倒し,それとともにオオリンゴは単にリンゴと呼ばれるようになって現在に至った。

明治初年から現在まで日本に導入された品種は600以上にのぼるが,経済栽培されている品種は,導入品種と日本で育成された品種を合わせても10余品種にすぎない。おもなものを表にあげたが,このほかにも試験研究機関や栽培家によって新品種の育成が行われており,あかね,はつあき,北の幸,東光,世界一,千秋,あかぎ,王林,アルプス乙女,陽光などは近年発表された新品種である。

年平均気温7~12℃,夏季の気温18~24℃,年降水量600mmくらいの地域が適地といわれる。日本では東北地方,北海道および長野県が主産地。排水がよく土層の深い肥沃な土壌が適す。繁殖はマルバカイドウ,ミツバカイドウまたはリンゴの台木に切接ぎや芽接ぎによって行う。近年はイギリスで育成されたM系やMM系などの矮性(わいせい)台木を利用して樹体を小型に仕立て,栽培管理や収穫の能率化をはかるための矮化栽培が普及しつつある。リンゴは自家結実性が低いので,結実確保のために親和性をもつ他品種の花粉を受粉しなければならない。そのため,ミツバチやハナアブなど受粉媒介昆虫の利用や人工受粉を行う。果実は幼果期に30~50葉当り1果の割合で残すよう摘果する。近年は化学物質を利用した薬剤摘果(花)も行われる。摘果後は病害虫防除と果実の外観や着色を調節するため袋掛けを行う。袋掛けは労力がかかり,果実の品質も低下するので,無袋栽培が奨励されている。袋掛けされた果実は収穫の1~2ヵ月前に袋を除いて着色を促す。病害にはモニリア病,斑点落葉病,うどんこ病,赤星病,黒星病,腐爛(ふらん)病,白紋羽病,ウイルス病などがある。ウイルス病を除いて他の病気は薬剤散布によって防除する。害虫にはカイガラムシ類,アブラムシ類,モモシンクイガ,ナシヒメシンクイガ(ハリトオシ)などがあり,それらも適期の薬剤散布によって防除する。収穫は手労働で1個ずつ行う。リンゴは一般に貯蔵性がよく,とくに呼吸作用を低下させると長期間保つことができる。そのため,0℃に近い低温の貯蔵や,酸素と炭酸ガスの組成割合を変えて3~4℃下で貯蔵するCA貯蔵によって,現在ではほぼ周年にわたってリンゴが食べられるようになった。

日本では生産量の約95%が生食用だが,欧米では40%以上がリンゴ酒,リンゴソース,ジュース,ブランデー,ビネガー,ジャム,ゼリー,プレザーブ,シロップ漬,アップルパイ,焼きリンゴなどの加工原料に利用される。なおラテン系民族の飲物として重要なものはブドウ酒であるが,アングロ・サクソン民族ではリンゴ酒がそれにあたる。

北半球に分布するリンゴ属植物は約25種。それらはリンゴやカイドウ類,ズミ類,クロロメレス類の3グループに分けられる。

 (1)リンゴ類 リンゴのほかにヨーロッパ中部から西部原産のM.sylvestris Miller,アジア西部からシベリア南西部原産のM.astracanica Dum.,中国原産のワリンゴ,イヌリンゴM.prunifolia Bork.,カイドウ,エゾノコリンゴ,ナンキンカイドウM.halliana Koehne,ペキンカイドウM.spectabilis Bork.が含まれる。日本にはそれらのうちエゾノコリンゴのみが自生する。(2)ズミ類 このグループには中国の華中および西部地域に原生するものが多く,日本で台木に利用するズミ(別名サナシ,ミツバカイドウ,コリンゴ)は本州中部から北海道にかけて分布している。この種には変種が多い。(3)クロロメレス類 このグループには6種ほどが含まれるが,いずれも北アメリカの原産で果樹としては栽培されていない。
執筆者:

リンゴは古くから知恵,不死,豊饒(ほうじよう),美,愛などのシンボルとして知られ,そのことは神話や伝説の多くに反映している。旧約聖書ではエデンの園のアダムとイブが食べたとされる知恵の木の実としてのリンゴが有名であるし(ただし聖書にはリンゴと特定できる記述はない),ケルト人は天国を〈リンゴの国〉と表現している。ギリシア神話で女神ガイアはゼウスとヘラの結婚式の贈物に黄金の実をつけるリンゴの木を贈っている。このリンゴの木は,のちヘスペリデスの園に植えられ,英雄ヘラクレスが取りに赴いた。また争いの女神エリスが〈いちばん美しい女神へ〉といって投げこんだ黄金のリンゴは,三女神(ヘラ,アテナ,アフロディテ)の美の競演をひき起こし,トロイア戦争の遠因となった。駿足の女狩人アタランテとの競走に,黄金のリンゴを投げて時を稼ぐことでこれに勝ち,求婚に成功したメラニオンあるいはヒッポメネスの話もよく知られている。ゲルマン神話には女神イズンの〈若返りのリンゴ〉の話がある。詩の神ブラギの妻イズンは〈若返りのリンゴ〉をトネリコの箱にしまっており,神々は年をとるとそれを食べる。すると若返って世界の終末まで年をとらないでいられる。ところが,巨人シャチにこのイズンがリンゴもろとも奪われたことがあった。このため神々はどんどん年をとり始め,おおいに困った。この話では若さの秘密がリンゴに託されている。またオーディンがリンゴをとどけて孫レリルの妃を妊娠させる話には女性の多産との関係がうかがわれる。リンゴは豊饒の女神フレイヤに捧げられているのである。ドイツでもリンゴは結婚式の贈物によく用いられた。スイスの多くの州でも,リンゴが結婚式の食事の皮切りになるし,新郎新婦はリンゴの花で飾られた。

 またリンゴは神聖な木と考えられ,占いによく使われた。クリスマスの夜や大晦日の夜には若い娘がリンゴの皮をむいて肩ごしに後ろに投げ,皮のつくるOとかTという文字から未来の夫の名を読みとろうとした。聖トマスの日(12月21日)の夜にはリンゴを二つに切って芯を調べ,もし種が偶数で一組になっているとまもなく結婚でき,奇数だとだめだという。庭のリンゴの木が秋に2度目の白い花を咲かすと所有者は死ぬともいう。このように人の幸・不幸とリンゴが深くかかわっていることから,ドイツのいくつかの地方では男の子が生まれると,リンゴの木を誕生樹として植え,だいじに育てる習慣があった。リンゴの予言力と関係あるものに〈占い棒dowsing rod〉がある。リンゴの若枝からふたまたのところを切りとり,それを手にとって水脈や鉱脈のありかを探る。現代でも金属の棒で占い棒がつくられ,水道の漏れなどを調べるのに使われている。

 最後に聖人の持物としてのリンゴにふれよう。よく絵画や彫刻に,聖母マリアやマリアに抱かれた幼児イエスが手にリンゴをもち,これに十字架のついていることがある。これは十字架による世界の統治を意味するとも,ラテン語のmalum(リンゴ)とmalus(悪)との類似から,悪の征服を象徴しているともいわれる。カール大帝も右手に剣,左手にこのようなリンゴをもって絵に描かれている。
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食の医学館 「リンゴ」の解説

リンゴ

《栄養と働き》


 アダムとイブが食べた禁断の実、リンゴは、実際の栽培起源も古く、約4000年前に溯(さかのぼ)るといわれています。
 日本での本格的栽培は明治時代以降ですが、現在は世界第17位の生産量を誇っています。
○栄養成分としての働き
 リンゴには食物繊維のペクチンが豊富に含まれています。ペクチンは水に溶けるとゼリー状にかたまるため、便秘(べんぴ)のときは、水分のなくなった便をやわらかくして排便をうながし、下痢(げり)のときは、ゼリー状の膜になって腸壁をまもります。
 また、乳酸菌などの腸内の善玉菌を増殖させます。乳酸菌は悪玉菌を殺すほか、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)をうながすので、下痢や便秘を治し、発がん物質の発生も抑えます。
 ペクチンはコレステロール値の上昇を抑え、動脈硬化の予防にも役立ちます。
 リンゴにはカリウムも多く、余分なナトリウムを排出するので、高血圧症の改善に効きます。高血圧症の人が多い東北地方で、リンゴ生産地だけは例外となっていることからも、実証されています。
 リンゴの真っ赤な皮に含まれる色素はアントシアニンで、フラボノイドの一種です。
 生活習慣病や老化のもとといわれる活性酸素に対する抗酸化作用があります。
〈血糖値を安定させ、糖尿病にもダイエットにも有効〉
 食後の血糖値の上昇にかかる時間をはかったグリセミック指数では、リンゴは豆とならんで最低に位置します。
 つまり、リンゴは食べても血糖値が急上昇せず、ゆっくりと高くなり長時間持続するのです。
 この働きによりインスリンがセーブされながら放出されるので、糖尿病に有効です。また、安定した血糖値が長時間続くので空腹感を覚えず、リンゴ自体もかみごたえがあるのでダイエットに最適です。
 よくかむことで歯につまったカスが取り除け、むし歯の予防にもなります。
 リンゴの糖分は果糖とブドウ糖が主で、エネルギーに変換されやすく、また、乳酸の生成を抑えるクエン酸やリンゴ酸、酒石酸(しゅせきさん)などの有機酸を0.5%も含んでいるので、疲労回復に効果があります。
○漢方的な働き
 整腸作用以外に、体内の水分の流れをよくしてかわきをいやし、熱をとって胸のあたりの不快感を改善する働きがあるとされています。
 このほか、肺を潤してせきを止める、酒の酔いを冷ますなどの効用が知られています。西洋の民間療法では、花と葉は眼病、芽は頭痛や消化不良、木の皮は強壮に効くとして用いられます。

《調理のポイント》


 リンゴは比較的日持ちのよい果実で、冷蔵すると2~3か月はもつ種類が多くあります。選ぶときは重量感があり、指ではじいて澄んだ音のするほうが美味です。
 リンゴはそのまま食べたり、またはすりおろして病人食や離乳食にしたりします。
 このほかジャム、ジュースの加工品にと広く利用されています。なお、ペクチンは実より皮の部分に多いので、なるべく皮ごと利用したいものです。

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デジタル大辞泉プラス 「リンゴ」の解説

リンゴ

NHKの子供向けテレビ番組『すすめ!キッチン戦隊クックルン』(2013年放映開始)に登場するキャラクター。「キッチン戦隊クックルン」のリーダー。弟のセージ、妹のクミンと共に、悪の軍団ダークイーターズと戦う。演者は田口乙葉。

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栄養・生化学辞典 「リンゴ」の解説

リンゴ

 [Malus pumila],[M. domestica].バラ目バラ科リンゴ属の落葉高木で,果実が広く食用にされている.

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世界大百科事典(旧版)内のリンゴの言及

【カイドウ(海棠)】より

…カイドウ類はバラ科リンゴ属Malusのなかでは,とくに美しい花をつけ,観賞用に花木として栽植される。江戸時代に〈カイドウ〉と呼ばれていたものは,以下に述べるミカイドウであったが,現在ではハナカイドウに対して〈カイドウ〉の名が誤用されていることが多い。…

【高接病】より

…リンゴの品種更新の際,既存のリンゴ樹に新品種の穂木を高接ぎした場合に発生するウイルス病。高接病は,台木にマルバカイドウやミツバカイドウを用いる日本特有の病気で,デリシャス系などの穂木に潜在感染していたウイルスが,中間台を経て台木に感染すると,台木の木部や皮部に壊疽(えそ)や溝が生じ,数年で地上部の生育不良,枯死という症状を招く。…

【津軽平野】より

…このため県内では稲の生育条件に恵まれた地域で,近世までは日本の稲作の北限地であった。傾斜地や自然堤防上ではリンゴ栽培が盛んで,この地域で全国のリンゴ栽培面積の4割近くを占めている。また,この地域には津軽地方の産業・文化の中心である弘前市がある。…

※「リンゴ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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