改訂新版 世界大百科事典 「ロンドン金属取引所」の意味・わかりやすい解説
ロンドン金属取引所 (ロンドンきんぞくとりひきしょ)
London Metal Exchange
1877年にロンドンに設立された非鉄金属の代表的な商品取引所。世界の非鉄金属業者に〈LME〉の略称でなじんでおり,LME相場は非鉄金属相場の指標となっている。イギリスは19世紀以前には銅,鉛,スズなど非鉄金属の輸出国で,その輸出や国内取引は主としてロンドンの金属商が中心となっていた。19世紀に産業革命の進展で工業生産が飛躍的に伸びるとともに基礎資材である非鉄金属の国内消費量が拡大し,一転して輸入国となった。1869年スエズ運河が開通するとロンドンは金融,海運,保険など商取引に関連する業務を完備した市場であるという強みも加わり,非鉄金属の国際的集散市場として一段と成長した。集散市場ロンドンでの金属商の取引を組織化したのがLMEである。
第2次大戦による中断をへて1949年にスズ,52年に鉛,53年に銅,亜鉛の取引を再開し,さらに68年に銀,78年にアルミニウム,80年にはニッケルを新規に上場,戦前からの商品に戦後派商品を加え,代表的な非鉄金属の総合取引所の位置を占めるに至った。LMEは金属商どうしの自由な取引を基礎に設立された歴史を背景に,需給に見合った相場が形成され,かつ広く国際取引の指標とされてきたが,世界の生産者はたびたびLMEの価格支配から脱し,生産者のコストを軸にした価格体系を築こうと試みてきた。たとえば銅では1926年の国際銅カルテル,61年から66年にかけてのチリ,ザンビアなどによる生産者価格設定制度などは,価格支配力奪回の動きである。しかしいずれも長続きせず,自由市場価格であるLME相場の影響下に戻っている。アルミ,ニッケルなど従来強固な生産者主導型だった商品は,生産者の強い反対のなかで新規に上場されたが,LME相場は取引開始後2~3年で,逆に生産者の出荷価格自体に強い影響を与えるものになっている。
LMEは他の商品先物取引所に比べ,価格変動差益をねらう投機取引の比率が比較的小さく,非鉄金属業者間の荷の受渡しを伴う実取引の占める比率が高いのが特徴の一つである。現物取引(翌日渡し)のほか,3ヵ月先物取引(ただし銀は現物取引と3ヵ月,6ヵ月,12ヵ月先物の4本建て)に限られているのは,農産物のように季節性がないのだから実取引の便としては3ヵ月先物で十分という理由からである。LMEの指定倉庫はロンドン,バーミンガムなどイギリスに11,アントワープ,フランクフルトなどヨーロッパ大陸に11あり,この指定倉庫の在庫の増減が国際的な非鉄金属需給の有力な指標となっているのも,実物主体のLMEの証明となっている。さらに英米の商品取引所のなかでは例外的に,LMEは別組織の売買契約の清算機関によらず,メンバーがそれぞれ個々に契約履行の義務を負っている点にも,実取引主体の行き方がうかがえる。
70年代以降は外国資本の進出が目ざましく,純粋なイギリス資本系メンバーは少数派となってきた結果,アメリカ市場との連動性がますます高まってきた点,LME独自の取引方法に転機が訪れている。
→商品市場
執筆者:米良 周
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報