商品市場とは,商品の〈売り〉と〈買い〉とが集まって値段が決まる場をいう。商品は一般に生産者から問屋(卸業者)を経て小売店に至り,需要家の手に入る。この流れの中で売手と買手とが互いに自由に相手を選択していくのが,市場主義をたてまえとする経済社会の原則である。商品の流通,商取引の各段階で,それぞれの自由な選択が値段によって調整されていく。その折合いを付ける場が商品市場であり,その折り合った値段が商品価格である。商品市場は自由な商品価格が形成される場ともいえる。
商品市場を場という視点からみると抽象的な市場と具体的な市場に分けられる。〈鋼材は国際市場での競争力が落ちてきた〉という場合の市場は,取引の場所が具体的にどこと決まっているわけではない。それぞれ別の場所で個々に進められる商取引を市場ととらえたものである。数多くの取引がばらばらに進められるが,情報を通じて競争原理が働き,それらの取引は互いに影響し合って値段が決まる。これを抽象的な商品市場あるいは非組織商品市場という。一定の場所に商品の売手と買手が集まって取引する商品市場は,これに対して具体的な商品市場あるいは組織商品市場と分類できる。特定の日に開かれる木材,家畜などの市(いち),干しシイタケ,鰹節,干しのり,荒茶などの入札会,野菜,果実,魚介,生花を中心とする卸売市場,原糸,大豆,ゴム,砂糖などを取引する商品取引所などがそれである。具体的な市場は,法律に基づいて特定の場所(施設)で一定のルールに従って継続して取引する商品取引所や卸売市場(中央,地方)のように高度に組織化された市場と,入札会,せり市,席上(せきじよう)取引,荷受市場など組織化の度合が比較的低い市場に分けられる。商品取引所,卸売市場は,それぞれ商品取引所法,卸売市場法という法律に基づいて運営されるから,法定組織市場ともいう。入札会,せり市,席上取引などは,それとの対比で非法定組織市場と区別できる。
商品は生産者から需要家まで川が上流から下流に流れるように縦経路を通るのが普通である。生産者が市場を独占しているか,流通の下流までの動向を完全につかんで計画生産しているか,さらに腐敗しやすいなど流通の滞りが商品価値自体を大きく下げる商品などでは,この縦経路を通るほかない。だが,複数の生産者が競争関係にあれば市場支配力に差が生じてくる。天候異変,国際紛争など予想しにくい事件によって生産計画が狂ってくることもある。そうなれば,ある生産者の手元に荷がたまり,他の生産者の経路では荷が不足する例が出てくる。また,問屋が小売店から急ぎの注文を受けて取引先の生産者に在庫がない例や,逆に別の問屋は急に注文を断られて大量の荷を抱えたまま売先が見つからないといった事態はよく生じる。こうした場合,同業者どうしの取引の場があれば,そこで緊急に荷を仕入れたり,処分したりすることが可能になり,流通経路全般を混乱させないで済む。自然に発生した横の取引,言い換えれば同業者どうしが荷を融通し合う場が仲間(なかま)市場である。商品を仕入れて販売する卸を業務とする問屋を中核にした縦取引市場を一般卸市場というが,この一般卸と仲間が商品市場の二つの基本型である。
この二つの基本型に沿って市場の組織化の段階を追ってみる。最初の形は取引する商品を実際に市場に持ち込む現物取引であろう。品質が一定した商品が多く生産されるようになると,見本だけで取引する見本取引が可能になる。さらに見本さえ持ち込まず,銘柄を指定するだけで済む銘柄取引が出てくる。銘柄とは,ある商品を他の商品と区別する名称で,工業製品ではメーカーが名前を付ける。農産物では,その生産地のほか,検査制度に基づいて等級,規格などが銘柄に取り入れられる。この銘柄取引の段階になると,取引する時点で商品を用意しなくとも,たとえば〈〇月×日に受渡しする〉という約束に基づく先物取引ができる。この段階になると仲間市場では取引を仲介する専門業者である仲買人(ブローカー)が出現し,取引条件などのルール化が進む。また業者仲間が定期的に一堂に会し,親睦や情報交換を兼ねる席上取引も出てくる。銘柄取引が進むと,それぞれの銘柄についての市場での評価,言い換えると銘柄間の価格差が固まる。そうなると,ある特定の銘柄を標準品と決めておけば,その標準品である銘柄の市場評価(価格)が定まると自動的に他の銘柄の価格も決まってくる。こうした取引を標準品取引または格付け取引という。この標準品取引に基づく先物取引,いわゆる標準品先物取引の場が商品取引所である。標準品先物取引では,決められた決済の時点で商品と代金を受け渡す形での決済のほか,差金のやりとりでもいいことになっている。標準品先物取引は,決済期日が決まっているところから定期取引,また差金決済が可能なところから清算取引ともいう。
商品は品質が比較的安定したものばかりではない。生鮮食料品や木材などは,それこそ一商品ごとに品質がばらついていて,その商品を実際に目で確かめないと評価が下せないものも少なくない。これらの商品は横の取引にはなじまず,具体的市場に実際に商品を持ち込む現物取引(実物取引ともいう)の形態の中で組織化を進めた。最初は売手と買手が1対1で価格や数量を話し合って決める相対(あいたい)方式だったろう。それが生産量の拡大,流通の広域化などにしたがって,一定の場所ですばやく,大量に取引を処理する方法が出てきた。
干しするめ,荒茶,干しのりなどの入札会での入札は大量取引方法の一つで,産地問屋などが主催者となり一定の日,一定の場所に多数の業者が集まり札(ふだ)に値段などを書き入れて意思を表示し,主催者に最も有利な値を提示した業者が商品を入手する方式である。入札に参加して希望値を投票することを応札といい,主催者にとって最も有利な条件で応札し,契約を結ぶことを落札という。せり売は,売手1人に2人以上の買手がせり合い,最も高い値段を付けた買手に売る方法で,木材市や卸売市場などで行われている。商品の入札会もせり売の一種といえる。せりには買手が値をせり上げていく〈せり上げ〉と売手が唱え値を下げていく〈せり下げ〉があるが,実際にはせり上げがほとんどである。野菜,果実,魚介,食肉など生鮮食品は腐敗しやすく,保存しにくいため,生産者から消費者まで一直線の縦取引商品の典型であるが,その縦流通のかなめにある卸売市場の取引は法律でせりか入札を原則とするとされている。せり売は競争形態を生かしながら大量かつ集中的に取引する方法としてふさわしいといえよう。
横の取引での取引方法も相対から出発して,多くの売手と買手が互いに値段をせり合って決める競売買(きようばいばい)に進んでいった。競売買には複数約定値段方式と単一約定値段方式とがある。複数約定値段方式はザラバ取引とか歩(あゆみ)売買とも呼ばれ,多数の買手の中で最高値を唱えた者と多数の売手の中から最安値を唱えた者が取引で優先的地位を占め,値段と数量が一致した順に片端から売買が成立していくやり方である。1対1で取引が成立する相対をベースにしているが,多数の売手と買手が一堂に会して進める組織的・継続的な売買で,競売買の一種に数えられる。欧米の商品取引所ではこの方法を採用している。単一約定値段方式は,いろいろの売買注文を一つの値段にまとめ,その値で取引を結ぶ方法で,板寄せ法と板寄せザラバ折衷法とに分かれる。日本の商品取引所で独自に開発された売買仕法で,板寄せ法は取引所の係員がその時点の市場の情勢から考えて適当と思われる値を唱えて売り買いの注文を出させ,その売り買いの数量が一致するまで唱えを上下させ,一致したところを売買の決定価格とする。決定価格以前の売り買いはすべてご破算とする。板寄せザラバ折衷法は板寄せ方式にザラバ方式を織りまぜた方式である。市場の係員の唱えの上下にしたがって売買の一致したところから順次仮契約し,売買が出尽くしたところを最終的な値段として,それまでの仮契約はすべて最終値段に引き直して売買を成立させる。
執筆者:米良 周
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[機能]
商品取引所は商品市場のなかで最も高度に組織化され,取引の中心を標準品先物取引に置く市場である。先物取引とは,売買を約束した時点で商品を用意していなくとも,いついつまでに受渡しするという条件で売買できる取引である。…
※「商品市場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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