ワシントン・ナショナル・ギャラリー(読み)わしんとんなしょなるぎゃらりー(英語表記)National Gallery of Art, Washington

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ワシントン・ナショナル・ギャラリー
わしんとんなしょなるぎゃらりー
National Gallery of Art, Washington

ワシントン市にある世界有数の美術館。アメリカ合衆国唯一の独立エージェンシーであるスミソニアン・インスティチューションに属する。この美術館の特色は、日常的なコストについては連邦政府の予算に頼るものの、建物、コレクション、そして基金といった美術館活動の根幹にかかわるものについては、個人による国への寄付、寄贈で成立している点にある。いわば国民による国民のための国立美術館という姿勢を徹底しているのであり、それは、クリスマスと正月を除いて一年中開館し、なおかつ入館料は無料とする方針によく表れている。

 その姿勢の基幹となっているのは、ピッツバーグ出身の大実業家で、のちに財務長官、駐英大使を務めたアンドリュー・メロンの意思である。1920年代からコレクションを形成しはじめ、33年には旧ソ連政府が外貨獲得のために放出したエルミタージュ美術館の旧ロシア皇帝のコレクションを購入したメロンは、36年国立美術館を首都に建設することを条件に、自身のコレクションと美術館建設資金を合衆国に寄贈することを提案、翌37年議会は美術館建設の法案を承認した。そして41年にジョン・ラッセル・ポープJohn Russell Pope(1874―1937)設計による新古典様式の本館(現、西館)の落成をもって開館した。これに続いて、サミュエル・クレスSamuel Henry Kress(1863―1955)、ラッシュ・クレスRush Harrison Kress(1877―1963)、ヨゼフ・ワイドナーJoseph Early Widener(1872―1943)、レッシング・ローゼンウォルド(ローゼンバルト)Lessing Julius Rosenwald(1891―1979)、チェスター・デールChester Dale(1883―1962)、エルサ・メロン・ブルースAilsa Mellon Bruce (1901―69)、ウィリアム・ハリマンらによりその良質のコレクションが寄贈され、世界有数の美術館が育てられることとなった。

 11世紀から20世紀までをカバーするコレクションのうち、19世紀までのヨーロッパ絵画、彫刻とアメリカ絵画は、西館の100を超える展示室に、時代別・国別に、ゆったりと並べられている。ジョットの『聖母子』、ボッティチェッリの『東方三博士の礼拝』、ヤン・ファン・アイクの『聖告』、リヒテンシュタイン公から購入したレオナルド・ダ・ビンチの『ジネブラ・デ・ベンチの肖像』、さらにラファエッロの『アルバの聖母』、ティツィアーノの『鏡を見るビーナス』、エル・グレコの『ラオコーン』、レンブラントの『自画像』、フェルメールの『天秤(てんびん)を持つ女』『手紙を書く女性』、ターナーの『月光下の石炭つみ』、マネの『サン・ラザール駅』、ゴーギャンの『自画像』など、まさに世界最大級の美術館である。地階には版画、素描、ヨーロッパ工芸、中国陶磁、アメリカ素朴派の絵画も展示されている。また1978年にはメロンの子息たちの寄贈によりイオ・ミン・ペイ設計による東館が完成した。こちらは主として20世紀美術のためのもので、コルダーの巨大なモビール、ミロの大タペストリー、ピカソの『サルタンバンクの家族』などが常設展示されており、その空間は美術館建築としても名高い。また同館には企画展示のためのスペース以外に、世界有数の規模を誇る美術図書館や視覚芸術高等研究センターがある。1999年には西館に隣接して野外彫刻庭園が開設された。

[保坂健二朗]

『ロバート・フランク撮影、ワシントン・ナショナル・ギャラリー編・刊『ロバート・フランク ムーヴィング・アウト』(1995)』『読売新聞社文化事業部・東京都美術館・京都市美術館編『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』(1999・読売新聞社)』『『週刊世界の美術館17 ワシントン・ナショナルギャラリー1』(2000・講談社)』『『週刊世界の美術館54 ワシントン・ナショナルギャラリー2』(2001・講談社)』

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