近世剣術の主要流派の一つで、伊藤一刀斎景久(いとういっとうさいかげひさ)を流祖とする。一刀斎は生涯一兵法者として諸国を歴遊し、その終焉(しゅうえん)の地もさだかではないが、その門弟では古藤田勘解由左衛門俊直(ことうだかげゆざえもんとしなお)(古藤田派の祖)と神子上典膳吉明(みこがみてんぜんよしあき)(小野派の祖)の両名が傑出している。なかでも典膳は一刀斎の嫡伝を受け、1600年(慶長5)関ヶ原の戦いのとき、200石をもって徳川家康に召し出され、のちに2代将軍秀忠(ひでただ)の剣術師範を勤め、小野次郎右衛門忠明(おのじろうえもんただあき)(1547―1624)と改名、600石を拝領して流名をあげた。忠明の長子忠方は早逝したが、二男忠也(一説に忠明の弟)は一刀斎の跡目を継いで伊藤典膳(忠也派の祖)を称し、三男助九郎(一説に嫡子)は小野家2代となって次郎右衛門忠常(1608―1665)と称し、3代将軍家光(いえみつ)につかえ、御書院番を勤め、200石を加増されて、800石を知行した。また忠方の子(一説に忠明の姉の子)孫兵衛忠一(1604―1672)は1626年(寛永3)23歳で忠明より免許を得、水戸家に仕えて水戸派の祖となった。
さらに忠明の門には、甲州流兵学の小幡勘兵衛景憲(おばたかんべえかげのり)(神子上派の祖)、忠也の門には亀井平右衛門忠雄(のち忠也の養子、井藤姓に改める)、忠雄の弟根来八九郎重明(ねごろはちくろうしげあき)(天心独名流(てんしんどくみょうりゅう)の祖)、間宮五郎兵衛久也(ひさなり)(間宮派の祖)、溝口新五左衛門正勝(半左衛門重長、溝口派の祖)、ついで忠常の門からは梶新右衛門正直(かじしんえもんまさなお)(梶派の祖)など、数多くの俊才を輩出し、やがて一大流派を形成する基盤をつくった。忠常の子3代忠於(ただお)(1640―1712)は技術の精妙をうたわれ、一刀斎以来の組太刀(くみたち)を大成し、津軽越中守(えっちゅうのかみ)をはじめ諸侯の間にも勢力を広めた。しかし、この忠於には男子がなく、御書院番岡部忠豊の次男内記(ないき)を婿養子に迎えたが、この4代忠一(ただかず)(1659―1738)は御小姓組(おこしょうぐみ)から御先手(おさきて)鉄炮頭(てっぽうがしら)、持弓頭(もちゆみがしら)へと進み、このために家職の剣術は二の次になったといわれる。
忠一の高弟、中西忠太子定(たねさだ)(中西派の祖)は1748年(寛延1)指南免許を受けて江戸・下谷練塀小路(したやねりべいこうじ)に町道場を開き、一刀流の鼓吹に努めたが、その子忠蔵子武(たねたけ)は宝暦(ほうれき)年間(1751~1764)に至り、面、籠手(こて)、竹胴などの防具をくふう整備し、竹刀(しない)打込み稽古(げいこ)を始めた。この竹刀打ちはたちまち人々の人気を集め、入門者が相次いだ。
これに対し、1787年(天明7)小野宗家(そうけ)は、竹刀打ちはあくまで組太刀修業の補助であり、竹刀打ち一色にすることは流儀に反することを警告し、その後もしばしば中止するように求めたが、当時の門人たちは昔のような切組(きりぐみ)を1本1本積み重ねていくという修練方式に耐えられず、1796年(寛政8)宗家の6代忠喜(ただよし)も、やむなく表切組大太刀(おもてきりぐみおおだち)50本を25本に半減し、かわって小(こ)しない7本、刀棒術7本を加えて指南するというありさまであった。
この中西派からは、浅利又七郎(あさりまたしちろう)、寺田宗有(てらだむねあり)、白井亨(しらいとおる)、高柳又四郎(たかやなぎまたしろう)、高野苗正(たかのみつまさ)(高野佐三郎の祖父)や、北辰一刀流(ほくしんいっとうりゅう)を創始した千葉周作、のちに9代小野業雄(なりお)から正統の秘奥を授与されて一刀正伝無刀流を標榜(ひょうぼう)した山岡鉄舟など、幕末・維新期に活躍した名剣士を多数輩出した。
なお一刀流(小野派)の伝書は、『一刀流兵法十二ヶ条(初伝)』『一刀流兵法仮字書(中伝)』『一刀流兵法目録(本目録)』『一刀流割目録』の4巻で、これらをすべて授与されたのち数年ないし10年、剣術の通根を見了して、初めて指南免許状が渡されたのである。
[渡邉一郎]
『『日本武道全集 第2巻』(1966・人物往来社)』▽『笹森順造著『一刀流極意』(1965・同書刊行会)』▽『『日本武道大系 第2巻』(1982・同朋舎出版)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに剣術は諸武芸のうちで最も重視され普及した(武芸十八般)。なかでも隆盛したのは,徳川将軍家指南となった新陰流(新影流とも書く)と一刀流であり,近世の中心的流派といえる。ほかに宮本武蔵の二天一流,薩摩の示現流,新陰流から分かれたタイ捨流,馬庭念流など,特色ある著名な流派が続出した。…
※「一刀流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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