ある人の一身に専属し,他人が取得または行使することのできない権利。一般に権利とは,〈ある利益を享受するために法がある人に認めた力〉であるとするならば,本来,権利者だけが権利内容の実現,すなわち権利の行使をなしうるものであって,その権利者を離れて権利の存在を考えることができないということができよう。だから,権利というものは元来,権利者の一身に専属するものであって,権利者以外の者がこれを行使することができない(行使上の一身専属)のはもとより,権利者が権利を他人に譲渡したり,または相続によって他人がこれを承継することのできないもの(帰属上の一身専属)であるということになろう。公法上の権利,ことに公益的立場から認められる場合は一身専属的なものが多くみられる。たとえば,公職選挙法上の選挙権に基づく投票権は,帰属上・行使上の一身専属権である(公職選挙法44条,なお48条参照)。
ところが,私法上の権利,ことに財産的利益の獲得を目的とする権利(財産権)にあっては,原則として譲渡や相続が認められており(民法176条,466条1項本文,896条本文),一身専属権は例外とみられている(466条1項但書,896条但書)。また権利者に代わって他人が権利を行使することも認められている(423条1項)。そこで,一身専属権か否かが法律学上問題とされるのは,主として民法上,かつ財産的内容をもつ権利についてである。慰謝料請求権や扶養請求権,財産分与請求権などは一身専属権だが,ひとたび,一定額の金銭の支払いを内容とする金銭債権として具体的に発生したときはこの限りでないと解されている。公法上の権利では,恩給を受ける権利,生活保護を受ける権利は,財産的内容のものだが,いずれも譲渡・差押えが禁じられている(恩給法11条,生活保護法58,59条)。
執筆者:奥田 昌道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
とくにその人自身に帰属させなければ意味のない権利、あるいはその人自身でなければ行使できないような権利をいう。前者は帰属上の一身専属権、後者は行使上の一身専属権とよばれる。このような権利は、その権利をもっていた人が死亡した場合にその相続人に承継されない(民法896条但書)し、かわって行使することができない(同法423条1項但書)。一身専属権の例としてあげられるのは、親権や扶養請求権、夫婦間の契約取消権など身分法上の権利が多い。また、財産上の権利のなかでも、たとえば、信用を基礎とする代理権や、雇用契約に基づく労働義務、委任契約に基づく事務処理などは、一身専属の権利・義務とされる。
[高橋康之]
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