民法上,債権者は,自己の債権を保全するためにその債務者に属する権利を行使することができるものとされている(民法423条)。債権者のこの権限を債権者代位権という。元来,債権は,債務者に対し一定の給付を請求しうる権利であって,債務者の財産(それを構成する諸権利)を直接に支配する権利ではない。だから,債務者がその財産についてどのような態度をとろうともそれは財産主体としての債務者の自由であって,財産主体ではない債権者がこれに干渉することは許されないのを原則とする。しかしながら,債権の満足(弁済)は究極的には債務者の財産によって実現されねばならないのであるから,債務者の財産の状況は債権者にとって重大関心事たらざるをえない。そこで債務者の財産が債務者の恣意によって減少し,債権者の債権の満足が得られなくなるようなおそれのある場合に,法は,債権者に債務者財産への干渉を認め,もって債務者財産の維持保全をはかりうるものとした。その手段の一つが債権者代位権である。たとえば,債務者が第三者(第三債務者という)に対して有する金銭債権を取り立てようとしないために,その債権が時効で消滅するおそれがある場合に,債権者が債務者に代わって第三債務者に対して訴えを提起して時効を中断し,かつ債権を取り立てるなどがその例である。このようにみれば,債権者代位権の要件としての〈自己の債権の保全〉とは,債務者財産の保全をとおしての自己の債権の保全を意味するのであり,債務者財産さえ十分であれば,債権者代位権は認められないということになる(判例・通説)。これを無資力要件という。
ところが,判例や学説は,特定の場合につき,債務者の資力にかかわりなく(したがって債務者財産の保全のためではなく)債権者代位権の利用を認めている(いわゆる〈債権者代位権の転用〉)。一つは,A→B→Cと不動産が譲渡されたが登記名義がなおAにある場合に,CはBに対して有する登記請求権に基づき,BのAに対する登記請求権を代位行使しうるというものである。他は,不動産賃借権の保護のためであって,第三者が不法に賃借権行使を妨害する場合に,賃借人は,賃貸人たる所有者が第三者(妨害者)に対して有する妨害排除請求権を代位行使しうるとするものである。学説では,一般的に無資力要件の撤廃を主張するものもあり,債権者代位権制度と強制執行制度との整合性の問題とともに,なお今後の課題とされる。
→債権者取消権
執筆者:奥田 昌道
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債権者が、自己の債権を保全するため、自己の債務者に属する権利を行使しうる権利(民法423条)。間接訴権ともいう。フランス民法に倣った制度である。債権者代位権を行使しうる要件の第一は、債権保存の必要があることである。債務者の資力が不十分であれば、この要件は満たされる(たとえば、丙は乙に金銭債権を有しているが、乙が無資力の場合には、乙の甲に対する金銭債権を代位行使しうる)。他方、特定債権保全の必要で足りるかどうかについては争いがあったが、現在の判例・通説はこれを肯定している(たとえば、甲→乙→丙と不動産が譲渡され甲に登記があるとき、丙は乙の甲に対する登記請求権を代位行使しうる。また、丙が乙から建物を賃借し、甲がこの建物の占有を妨害しているとき、丙は乙の甲に対する妨害排除請求権を代位行使しうる)。第二は、原則として債権者の債権が履行期にあることである(例外は裁判上の代位および保存行為の場合で、これは履行期前でもよい。同法423条2項)。第三は、債務者が自らその権利を行使しないことである。債権者代位権行使の効果は直接債務者に帰属するが、引渡しは債権者へするよう請求できる。
[淡路剛久]
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…乙は甲に対して,〈建物を使用させろ〉という債権(賃借権)を有するにすぎないのであるから,丙に対しては,乙の債権の実現が妨害されているにしても,債権そのものに基づいてその排除を求めることはできない――もっとも乙が建物を占有して(住んで)おれば,丙に対して占有訴権(民法197条以下)を行使できるが――とするのが,原則である。乙は,甲に対して,甲がその所有権に基づく物権的請求権を行使して丙を排除するよう,請求しうるにとどまり,甲がこれに応じないときは,民法423条により,乙はその賃借権を保全するため,甲の丙に対する物権的(妨害排除)請求権を,甲に代わって行使することとなる(債権者代位権)。しかし,これはいささか迂遠の嫌いがある。…
※「債権者代位権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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