村落社会における正規の構成員としての資格,あるいはその資格を有する家を示す語。日本の伝統的社会の構成単位は個人ではなく,家にあったので,個人の一人前に対して,家の一軒前という言葉があったといってもよいであろう。一軒前は一戸前ともいうが,これらの言葉のみが単独で意味をもって使用されることはほとんどなく,半軒前,半戸,半役など,常に一軒前でない家の存在を示す語と対になっている。一軒前と半軒前の区別は,寄合の座順の上下,発言権の強弱,共有地利用の資格の有無,収益配分比率の差,神社祭祀への参加資格の相違あるいは諸経費賦課額の多少などに示される。これらの権利・義務の差は多く近世に制度化されたもので,その基本は近世初期の役家(やくや)制度での本役・半役の別であるが,本百姓の一般的成立後の本百姓・水呑の秩序によるものも少なくない。第2次大戦後は村落制度としては解消した所が多いが,意識としては存続している。
執筆者:福田 アジオ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…とくに,通過儀礼上のさまざまな祝いにおいて,兄弟間に差異を設けることが少なくない。またオジ・オバが結婚して家をかまえても,ムラの正式のメンバー,すなわち一軒前として認められず,したがって一軒前の家がもっているムラの諸権利も与えられずに,オジ・オバぐらしを強いられる地域もある。 なおかつて子どもの多かった時代にはおじ・おばとおい・めいの年齢が接近していたり,ときにはおじ・おばの方が年齢が低い場合もあり,法律的には禁止されていたにもかかわらず,東北地方を中心としておじ・めい間の結婚もしばしば行われた。…
… 近世初期には,検地帳に登載された名請人であっても所持石高が少量であり,屋敷地が登録されておらず,しかも検地帳と並ぶもう一つの基本台帳である名寄帳には名前が出てこないような農民もいた。彼らは法的には名請人であっても,実態としては一軒前の百姓として自立した農業経営を行うことが困難な零細農民であった。近世農村では,本百姓といって,田畑,屋敷地を持ち名寄帳にも名前が登載され,領主に対し直接課役を負担する高持百姓が一軒前の百姓として認められ,彼らによって村落が構成されていたから,上記のような零細な名請農民はこれらの本百姓になんらかの形で隷属していた。…
…農民は持高に応じて領主に対する年貢,諸役を負担させられたので,持高の多い者は村内における発言力も大きく,持高の多寡によって農民の社会的地位がほぼ決まった。また,5~10石程度の持高がないと一軒前の百姓として相当の家計を営むことが困難であることから,幕府,諸藩では持高10石未満の百姓が耕地を分割することに制限を加えた(分地制限令)。【松尾 寿】。…
※「一軒前」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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