改訂新版 世界大百科事典 「水呑」の意味・わかりやすい解説
水呑 (みずのみ)
無高ともいう。日本の近世期,農村に居住し,田畑を所持せず,小作地を耕作して独立の生計を立てていた農民。高請地(たかうけち)を所持した高持,本百姓に対して,水呑,無高と呼ばれた。独立の生計を営む点で隷属的農民とも奉公人とも区別される。その成因には二つあり,(1)近世初期の隷属的小農民が自立するにあたり,高請地を所持しない状態で主家から分立し,身柄だけの自立を獲得したもの,(2)中期以降,高持,本百姓が高請地を質流しで手放して無高となったものである。高請地を所持しない水呑は,領主に対する年貢負担義務を負わず,また石高所持を基準にして構成される小農村落の構成員たる資格に欠け,村入用の負担義務からも免れている。したがって村の寄合にも参加しえず,原則として用水・林野の共同利用,共同管理にも参加しえない。こうして水呑は,用水の利用から排除されているが,生存のために不可欠な上水(じようすい)の利用については,飲用水としての利用だけが許されていることから,水呑という呼称が生じたのであろう。中期以後の商品経済の農村への浸透は本百姓の分解をもたらし,水呑が広範に出現した。新たに成立した水呑は,小作農となって地主・小作関係の展開の一翼を担い,作間稼(さくまかせぎ)に従事して農間余業の広範な成立の一因となった。さらに一部は離村して都市に流入し,浮民化して社会問題ともなった。水呑はしばしば水呑百姓とも呼ばれているが,高請地を所持しないことから百姓としての権利・義務を持たず,厳密な意味では百姓ではない。
執筆者:葉山 禎作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報