細密で品質のよい上等の麻布をいい,平織の夏着尺地を指す。〈上布〉の語は,献上,上納された布の意との説もあるが,江戸時代には上布,中布,下布などの呼称があり,糸の細いものを上布と呼んだ。日本に自生,もしくは植栽する苧麻(ちよま)(カラムシ,ラミー)や大麻から採った苧(お)を,細かく精良に手績(てうみ)した糸を経緯に使い織り上げたもので,越後上布,宮古上布,八重山上布,能登上布等が歴史も古く有名である。上布は総じて細い糸を使うため軽くて通気性に富み,汗をかいても肌にべとつかず,夏季衣料の最高のものとされる。原料である苧麻は風を避けて倒れないように真っ直ぐに育て,茎を水に浸し表皮をしごいて落とした内側の繊維を採って使う。繊維は細く裂いて苧績(おうみ)をし,撚りをかけて糸にする。越後上布は福島県昭和村産の原料を経緯に使ったりラミー紡績糸と交織したりして,新潟県塩沢,小千谷(おぢや)地方で少量生産されており,また一部,昭和村からも織り出される。沖縄県の宮古上布,八重山上布は薩摩藩が支配して取り扱ったことから,別名薩摩上布ともいわれる。なかでも宮古島産の宮古上布は細密で,藍染絣(かすり)が主流の高級品で織締めと括り(くくり)の絣技法が特徴である。八重山上布は赤縞上布とも呼び石垣島中心につくられ,現地産のヤマノイモ科のクール(紅露(こうろ))染や藍染の縞,絣が多い。技法は摺込み絣法が使われる。いずれも高機(たかばた)で織られ砧打(きぬたうち)仕上げを行う。長い伝統に培われた精緻な優れた感覚表現のデザインで大成している。能登上布は苧麻と大麻の手績糸を使用するが,近年はラミー糸や亜麻糸を混織したものも上布と呼んでいる。慶長年間(1596-1615)から生産が定着して昭和初期には20万反を超える生産量があり,したがって原料が不足のため群馬県から苧を購入して手績し,使用していた。1976年の生産は5000反程度である。無地,縞,絣とあり,絣は板締技法による。その他,奈良上布(晒(さらし))も大麻手績糸や亜麻紡績糸を用いる。近江上布は彦根藩に保護され良品とされたが,ラミー紡績糸に変わり,現在の近江麻織物の基となっている。上布は絣技法と同じくそれぞれの地域で開発された漂白法が用いられ,雪ざらし,灰汁(あく)ざらし,海水ざらし等がある。
→麻織物
執筆者:宮坂 博文
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薄地の良質な麻織物の着尺地を上布という。現在では、このような麻織物に似せてつくった絹、綿、化合繊の織物にも上布の名を使うことがある。上布の意味は、上等の布というのではなく、上納のための布ということで、江戸時代には武士の正装が麻織物であったため、運上などによりこれを上納させたので、これが一般的名称として使用されるようになった。
新潟県小千谷(おぢや)地方で織られる越後(えちご)上布、石川県能登(のと)半島の能登上布、滋賀県の近江(おうみ)上布、鹿児島県の薩摩(さつま)上布などがよく知られている。ただ薩摩上布は藩から上納するときの名称で、これには宮古(みやこ)上布、八重山(やえやま)上布が含まれる。もと晒(さら)したものであったが、無地染め、縞(しま)物、絣(かすり)物などができ、材料も麻から絹、レーヨン、綿などの交織で同様な風合いを出したものがつくられた。薄くてしゃりっとした感触が好まれ、夏季用の着尺地として広く使われる。
[角山幸洋]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…日本へは,ラミーは中国,ブラジル,フィリピンから約3000t(1995)輸入された。チョマ(カラムシ)で織った夏の和服地を上布といい,越後上布,薩摩上布などがあり,また一部タイマを混織した能登上布がある。(3)タイマ 旧ソ連,ヨーロッパ,アジア(インド,中国など),南アメリカ,アメリカ合衆国で栽培される。…
…ラミーramie,マオ(真苧)ともいい,茎から靱皮繊維をとる(イラスト)。その繊維で織った布を上布(じようふ)と呼び,越後上布,小千谷縮(ちぢみ),宮古上布などが有名で,産地によって特色がある。イラクサ科の多年草で,茎は直立し,高さ1~2m。…
※「上布」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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