デジタル大辞泉 「西遊記」の意味・読み・例文・類語
さいゆうき〔サイイウキ〕【西遊記】
中国、宋末から元初の紀行文。2巻。元の
江戸後期の紀行・随筆。正編・続編各5巻。
邱永漢によるの現代日本語訳版。「中央公論」誌に昭和33年(1958)から昭和38年(1963)まで連載。単行本は昭和34年(1959)から昭和38年(1963)にかけて、全8巻を刊行。
中国、明(みん)代に完成した長編の口語体章回小説。『三国志演義』『水滸伝(すいこでん)』『金瓶梅(きんぺいばい)』とともに、いわゆる「四大奇書」の一つ。
[佐藤 保]
唐の太宗のとき、玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)が国禁を犯して出国、困難を克服してインドに取経旅行した史実は、唐代に早くも伝説化された。南宋(なんそう)に至ると、講談の台本とみられる、短く素朴なストーリー性をもつ『大唐三蔵取経詩話』が現れ、孫悟空(そんごくう)が猴行者(こうぎょうじゃ)、沙悟浄(さごじょう)が深沙神(しんしゃしん)として登場する。そのほか、壁画、詩、戯曲などに伝承された断片的な説話が、元末になってほぼ骨格の整った『西遊記』となる。朝鮮に伝わる『朴通事諺解(ぼくつうじげんかい)』、明(みん)の百科全書『永楽大典(えいらくたいてん)』は、そのころの物語の断片を存する。これが現行の形に大きく近づくのは、明の中葉に成った『西遊釈尼(しゃくに)(厄(やく))伝』によってである。従来の物語を集大成し、大幅に肉づけしたとされる『釈尼伝』自体は現存せず、編者も不明であるが、概要は、1592年(万暦20)に金陵(きんりょう)の世徳堂が刊行した『西遊記』(世本)などに伝わり、ここで『西遊記』はいちおうの完成をみる。その後、清(しん)代康煕(こうき)年間(1662~1722)には、陳士斌(ちんしひん)評の『西遊真詮(しんせん)』(1696)も刊行された。
著者は明の文人呉承恩(ごしょうおん)という通説があるのは、『淮安府志(わいなんふし)』の記述などに拠(よ)るものだが、成立の過程をみてもわかるように、1人の人間がある時期に書き上げたものではなく、長い間に多くの人の手を経て成った書である。呉承恩がなんらかの形でかかわった可能性はあるが、著者とはいえない。
[佐藤 保]
大きく分けて四つの部分から構成される。(1)孫悟空の生い立ち(第1~8回) 花果山(かかざん)の仙石から生まれた悟空は、変化(へんげ)の術を身につけ、觔斗雲(きんとうん)(一つとんぼ返りをやると10万8000里飛ぶ)に乗り、如意棒(にょいぼう)(伸縮自在、一打ちで相手を倒すことができる)を得物に天地を騒がす。いったんは天帝に取り込まれそうになるが、蟠桃(ばんとう)をむさぼり食ってふたたび天宮を騒がせ、天帝側の神々と戦いを繰り広げる。最後は如来(にょらい)の5本の指の下に取り押さえられる。(2)玄奘の生い立ち(第9回)。(3)唐太宗の地獄巡り(第10~12回)。(4)インド取経の旅(第13~99回) 玄奘は五行山下の悟空を救い出して旅に出る。途中で白馬となった竜を乗り物にして進み、人間の家に婿入りしていた豚の化け物、猪八戒(ちょはっかい)を従者に加える。次に、流沙(りゅうさ)河で河に潜む沙悟浄も従者とする。こうして一行は、九九八十一難(くくはちじゅういちなん)に遭い、さまざまの妖怪(ようかい)と戦う。金角・銀角を瓢(ふくべ)の中に吸い込み、羅刹女(らせつにょ)・牛魔王から芭蕉扇(ばしょうせん)をだまし取って火焔山(かえんざん)の炎を鎮め、無事西方の楽土にたどり着く。そして経文を携えて都に帰った一行はみごとに成仏する(第100回)。
[佐藤 保]
『西遊記』の魅力の一つは、三蔵法師と3従者の取り合わせの妙にある。天衣無縫で乱暴者の孫悟空、鈍重で食物と女に目のない猪八戒、むっつり屋の沙悟浄、お題目だけで無能な三蔵法師と、それぞれの性格の鮮やかな描き分けは、精彩ある描写とともにこの長い物語を平板でないものにしている。ユーモアと風刺を交えながら妖怪にまで人間性を加味した『西遊記』は、明代以降の他の神魔小説の追随を許さない。とりわけ、天宮に反抗し妖魔と戦う孫悟空の活躍は、人々の心をとらえ、京劇でも人気を博している。さらに本書は、中国民間説話の宝庫ともいわれ、その意味でも貴重な存在である。
中国では『西遊記』の続作として、明末の『西遊補』、清初の『後西遊記』などが編まれた。なかでも『西遊補』は、夢境に迷い込んだ悟空を通して明末の世相を風刺する秀作である。日本に『西遊記』が入ったのは江戸初期であるが、中期に至って邦訳『通俗西遊記』『絵本西遊記』が刊行され、広く読まれるようになった。
[佐藤 保]
『太田辰夫・鳥居久靖訳『中国古典文学大系13・14 西遊記 上下』(1962・平凡社)』▽『小野忍訳『西遊記』(岩波文庫)』
中国,明代の白話長編小説で四大奇書の一つ。作者は呉承恩(?-1582?)といわれるが,明刊本の系統が明らかにならない限り断定できない。現存する最古の明刊本は1592年(万暦20)刊の世徳堂本であるが,それ以前にも数種類は存在していたらしい。唐初の三蔵法師玄奘(げんじよう)(602-664)の西天取経の旅(629-645)を骨子として,しだいに虚構化され,荒唐無稽な娯楽的要素が付加されて物語が形成されていった。13世紀南宋のころ,説話(講談)の人気演し物(だしもの)として語られていたらしいこの物語のテキストが,《大唐三蔵取経詩話》と題してほぼ完全なかたちで現存している。物語はいたって単純で,随行する動物の弟子も猴行者(こうぎようじや)と呼ばれる猿だけである。つづく元代に刊行された《西遊記》では,明刊本と大差ないほど物語が成熟したらしいこと,その梗概を記してある15~16世紀の朝鮮資料《朴通事諺解(ぼくつうじげんかい)》から推定できる。また,同じ主題による戯曲も金・元代に作られていたが,現存するのは明初の楊景賢(楊景言とも伝えられる)の《西遊記雑劇》のみである。
こうして,明刊本《西遊記》へと集大成されていったが,物語発展の過程で,実質的な主人公は,玄奘から孫悟空へと移し変えられていった。現存する明刊本の構成は,(1)孫悟空の生い立ちと〈大閙天宮(だいどうてんぐう)(大いに天宮をさわがす)〉故事(第1~7回),(2)観音による取経者さがし(第8回),(3)玄奘の生い立ち(第9回),(4)唐太宗の地獄めぐり(第10~12回),(5)西天取経の旅(第13~100回)となっている。それぞれに独立した異質な要素が集大成されたものであることがわかろうが,しかし,中心となるのは(1)と(5)であり,ともに無類の神通力を誇る孫悟空の活躍ぶりが,この小説の最大の見どころといえよう。また,この小説に登場する仏教的あるいは道教的な神々や妖怪たちも,主人公たちともども未解決の謎に満ちており,そのことも,この小説の大きな魅力の一端をなしているといえよう。日本での《西遊記》の紹介は,江戸時代,1758年(宝暦8)に刊行がはじまった《通俗西遊記》(口木山人など)を嚆矢(こうし)とする。明治以降も数多くの紹介がなされたが,完訳は戦後のことである。四大奇書の他の3編と比較して《西遊記》は児童読物として紹介され,多くの読者をもったことが,日本における受容の特徴の一つでもあった。
→沙悟浄(さごじょう) →孫悟空 →猪八戒
執筆者:中野 美代子
人形浄瑠璃・歌舞伎の一系統。《西遊記》を脚色したもの。その最初は人形の1816年(文化13)7月大坂の御霊境内芝居初演の佐川藤太ら作《五天竺(ごてんじく)》で,5段から成る。怪石が裂けて孫悟空が生まれ,天上で乱暴するところから,三蔵法師の供をして天竺へ経巻を尋ねに行き,猪八戒,沙悟浄を供に加え,魔王と戦い,危難を突破して,天竺に到着,目的を達して釈迦に対面するまで。人形遣いの宙乗りなどケレン味を加え,近松門左衛門の《釈迦如来誕生会(しやかによらいたんじようえ)》を採り入れた。今も時折上演される。歌舞伎には1878年9月東京市村座初演の3世河竹新七作《通俗西遊記》がある。これは1幕3場の舞踊劇で,悟空の宙乗りなどが受けた。ほかに1926年8月東京歌舞伎座の岡鬼太郎作《猪八戒》や,1929年正月東京歌舞伎座の川尻清潭作《通俗西遊記》などがある。
執筆者:井草 利夫
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明代の長編小説。呉承恩(ごしょうおん)の作。全100回。16世紀後半に完成。唐の玄奘(げんじょう)が仏教の経典をインドに求めにいった事跡にまつわる説話をもとにした,空想ゆたかな妖怪変化の物語。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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…そしてこの強大な政治権力者を背景にして教団の発展に成功した。彼の旅行記として,同行した弟子李志常が記録した《西遊記》があり,13世紀中央アジアに関する中国側史料として第一等の価値をもつ。たとえばサマルカンドについて,モンゴル侵入までの戸数10万余が,戦乱により4分の1に減ったことが記されている。…
…門下の窺基,円測,普光らにより新訳経論に依拠した法相宗,俱舎宗が興った。弟子の弁機に編述させた旅行記《大唐西域記》12巻は,彼の伝記である《大唐大慈恩寺三蔵法師伝》10巻ともども,正確無比な記述によって,7世紀の西域,インドを知る貴重な文献であるとともに,小説《西遊記》の素材となったことでも有名である。西安南郊の興教寺に墓所がある。…
※「西遊記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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