西遊記(読み)さいゆうき

精選版 日本国語大辞典 「西遊記」の意味・読み・例文・類語

さいゆうき サイイウキ【西遊記】

中国の通俗小説。一〇〇回。明の呉承恩作。四大奇書の一つ。元の呉昌齢の戯曲「唐三蔵西天取経」(一名「西遊記」)や、明の楊志和の戯曲「西遊記」などをもとに唐僧玄奘三蔵が孫悟空(猿)、猪八戒(豚)、沙悟浄(河童)、白馬(龍)を従え八八難所を妖怪と戦いながら天竺(インド)に至り、如来を拝し経を得て帰る話を小説化したもの。

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デジタル大辞泉 「西遊記」の意味・読み・例文・類語

さいゆうき〔サイイウキ〕【西遊記】

中国、明代の長編小説四大奇書の一。100回。呉承恩ごしょうおんの作といわれる。唐の玄奘げんじょう三蔵が、孫悟空猪八戒ちょはっかい沙悟浄さごじょうを供に、さまざまの苦難にあいながら天竺てんじく(インド)へ行って、仏典を得て帰る話。
中国、宋末から元初の紀行文。2巻。元の李志常りしじょう撰。チンギス=ハンに招かれ、師の長春真人と西遊したときの記録。長春真人西遊記。
江戸後期の紀行・随筆。正編・続編各5巻。橘南谿たちばななんけい著。寛政7~10年(1795~1798)刊。「東遊記」の姉妹編。天明2年(1782)から山陽西海南海の諸道を旅行して得た奇談を収める。
邱永漢によるの現代日本語訳版。「中央公論」誌に昭和33年(1958)から昭和38年(1963)まで連載。単行本は昭和34年(1959)から昭和38年(1963)にかけて、全8巻を刊行。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西遊記」の意味・わかりやすい解説

西遊記
さいゆうき

中国、明(みん)代に完成した長編の口語体章回小説。『三国志演義』『水滸伝(すいこでん)』『金瓶梅(きんぺいばい)』とともに、いわゆる「四大奇書」の一つ。

[佐藤 保]

成立

唐の太宗のとき、玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)が国禁を犯して出国、困難を克服してインドに取経旅行した史実は、唐代に早くも伝説化された。南宋(なんそう)に至ると、講談の台本とみられる、短く素朴なストーリー性をもつ『大唐三蔵取経詩話』が現れ、孫悟空(そんごくう)が猴行者(こうぎょうじゃ)、沙悟浄(さごじょう)が深沙神(しんしゃしん)として登場する。そのほか、壁画、詩、戯曲などに伝承された断片的な説話が、元末になってほぼ骨格の整った『西遊記』となる。朝鮮に伝わる『朴通事諺解(ぼくつうじげんかい)』、明(みん)の百科全書『永楽大典(えいらくたいてん)』は、そのころの物語の断片を存する。これが現行の形に大きく近づくのは、明の中葉に成った『西遊釈尼(しゃくに)(厄(やく))伝』によってである。従来の物語を集大成し、大幅に肉づけしたとされる『釈尼伝』自体は現存せず、編者も不明であるが、概要は、1592年(万暦20)に金陵(きんりょう)の世徳堂が刊行した『西遊記』(世本)などに伝わり、ここで『西遊記』はいちおうの完成をみる。その後、清(しん)代康煕(こうき)年間(1662~1722)には、陳士斌(ちんしひん)評の『西遊真詮(しんせん)』(1696)も刊行された。

 著者は明の文人呉承恩(ごしょうおん)という通説があるのは、『淮安府志(わいなんふし)』の記述などに拠(よ)るものだが、成立の過程をみてもわかるように、1人の人間がある時期に書き上げたものではなく、長い間に多くの人の手を経て成った書である。呉承恩がなんらかの形でかかわった可能性はあるが、著者とはいえない。

[佐藤 保]

内容

大きく分けて四つの部分から構成される。(1)孫悟空の生い立ち(第1~8回) 花果山(かかざん)の仙石から生まれた悟空は、変化(へんげ)の術を身につけ、觔斗雲(きんとうん)(一つとんぼ返りをやると10万8000里飛ぶ)に乗り、如意棒(にょいぼう)(伸縮自在、一打ちで相手を倒すことができる)を得物に天地を騒がす。いったんは天帝に取り込まれそうになるが、蟠桃(ばんとう)をむさぼり食ってふたたび天宮を騒がせ、天帝側の神々と戦いを繰り広げる。最後は如来(にょらい)の5本の指の下に取り押さえられる。(2)玄奘の生い立ち(第9回)。(3)唐太宗の地獄巡り(第10~12回)。(4)インド取経の旅(第13~99回) 玄奘は五行山下の悟空を救い出して旅に出る。途中で白馬となった竜を乗り物にして進み、人間の家に婿入りしていた豚の化け物、猪八戒(ちょはっかい)を従者に加える。次に、流沙(りゅうさ)河で河に潜む沙悟浄も従者とする。こうして一行は、九九八十一難(くくはちじゅういちなん)に遭い、さまざまの妖怪(ようかい)と戦う。金角・銀角を瓢(ふくべ)の中に吸い込み、羅刹女(らせつにょ)・牛魔王から芭蕉扇(ばしょうせん)をだまし取って火焔山(かえんざん)の炎を鎮め、無事西方の楽土にたどり着く。そして経文を携えて都に帰った一行はみごとに成仏する(第100回)。

[佐藤 保]

評価・影響

『西遊記』の魅力の一つは、三蔵法師と3従者の取り合わせの妙にある。天衣無縫で乱暴者の孫悟空、鈍重で食物と女に目のない猪八戒、むっつり屋の沙悟浄、お題目だけで無能な三蔵法師と、それぞれの性格の鮮やかな描き分けは、精彩ある描写とともにこの長い物語を平板でないものにしている。ユーモアと風刺を交えながら妖怪にまで人間性を加味した『西遊記』は、明代以降の他の神魔小説の追随を許さない。とりわけ、天宮に反抗し妖魔と戦う孫悟空の活躍は、人々の心をとらえ、京劇でも人気を博している。さらに本書は、中国民間説話の宝庫ともいわれ、その意味でも貴重な存在である。

 中国では『西遊記』の続作として、明末の『西遊補』、清初の『後西遊記』などが編まれた。なかでも『西遊補』は、夢境に迷い込んだ悟空を通して明末の世相を風刺する秀作である。日本に『西遊記』が入ったのは江戸初期であるが、中期に至って邦訳『通俗西遊記』『絵本西遊記』が刊行され、広く読まれるようになった。

[佐藤 保]

『太田辰夫・鳥居久靖訳『中国古典文学大系13・14 西遊記 上下』(1962・平凡社)』『小野忍訳『西遊記』(岩波文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「西遊記」の意味・わかりやすい解説

西遊記 (さいゆうき)
Xī yóu jì

中国,明代の白話長編小説で四大奇書の一つ。作者は呉承恩(?-1582?)といわれるが,明刊本の系統が明らかにならない限り断定できない。現存する最古の明刊本は1592年(万暦20)刊の世徳堂本であるが,それ以前にも数種類は存在していたらしい。唐初の三蔵法師玄奘(げんじよう)(602-664)の西天取経の旅(629-645)を骨子として,しだいに虚構化され,荒唐無稽な娯楽的要素が付加されて物語が形成されていった。13世紀南宋のころ,説話(講談)の人気演し物(だしもの)として語られていたらしいこの物語のテキストが,《大唐三蔵取経詩話》と題してほぼ完全なかたちで現存している。物語はいたって単純で,随行する動物の弟子も猴行者(こうぎようじや)と呼ばれる猿だけである。つづく元代に刊行された《西遊記》では,明刊本と大差ないほど物語が成熟したらしいこと,その梗概を記してある15~16世紀の朝鮮資料《朴通事諺解(ぼくつうじげんかい)》から推定できる。また,同じ主題による戯曲も金・元代に作られていたが,現存するのは明初の楊景賢(楊景言とも伝えられる)の《西遊記雑劇》のみである。

 こうして,明刊本《西遊記》へと集大成されていったが,物語発展の過程で,実質的な主人公は,玄奘から孫悟空へと移し変えられていった。現存する明刊本の構成は,(1)孫悟空の生い立ちと〈大閙天宮(だいどうてんぐう)(大いに天宮をさわがす)〉故事(第1~7回),(2)観音による取経者さがし(第8回),(3)玄奘の生い立ち(第9回),(4)唐太宗の地獄めぐり(第10~12回),(5)西天取経の旅(第13~100回)となっている。それぞれに独立した異質な要素が集大成されたものであることがわかろうが,しかし,中心となるのは(1)と(5)であり,ともに無類の神通力を誇る孫悟空の活躍ぶりが,この小説の最大の見どころといえよう。また,この小説に登場する仏教的あるいは道教的な神々や妖怪たちも,主人公たちともども未解決の謎に満ちており,そのことも,この小説の大きな魅力の一端をなしているといえよう。日本での《西遊記》の紹介は,江戸時代,1758年(宝暦8)に刊行がはじまった《通俗西遊記》(口木山人など)を嚆矢(こうし)とする。明治以降も数多くの紹介がなされたが,完訳は戦後のことである。四大奇書の他の3編と比較して《西遊記》は児童読物として紹介され,多くの読者をもったことが,日本における受容の特徴の一つでもあった。
沙悟浄(さごじょう) →孫悟空 →猪八戒
執筆者:

人形浄瑠璃・歌舞伎の一系統。《西遊記》を脚色したもの。その最初は人形の1816年(文化13)7月大坂の御霊境内芝居初演の佐川藤太ら作《五天竺(ごてんじく)》で,5段から成る。怪石が裂けて孫悟空が生まれ,天上で乱暴するところから,三蔵法師の供をして天竺へ経巻を尋ねに行き,猪八戒,沙悟浄を供に加え,魔王と戦い,危難を突破して,天竺に到着,目的を達して釈迦に対面するまで。人形遣いの宙乗りなどケレン味を加え,近松門左衛門の《釈迦如来誕生会(しやかによらいたんじようえ)》を採り入れた。今も時折上演される。歌舞伎には1878年9月東京市村座初演の3世河竹新七作《通俗西遊記》がある。これは1幕3場の舞踊劇で,悟空の宙乗りなどが受けた。ほかに1926年8月東京歌舞伎座の岡鬼太郎作《猪八戒》や,1929年正月東京歌舞伎座の川尻清潭作《通俗西遊記》などがある。
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百科事典マイペディア 「西遊記」の意味・わかりやすい解説

西遊記【さいゆうき】

中国,明代の白話(口語)長編小説。1570年ごろの成立で,作者は呉承恩とされるが異説がある。100回。中心は唐の三蔵法師玄奘(げんじょう)がインドに仏典を取りに行く途中,孫悟空猪八戒(ちょはっかい),沙悟浄(さごじょう)の3怪物が従い,81の妖怪・怪物などを退治する物語。3従者や各怪物退治の話は,元代までに民間説話としてあったものが多く,それらが次第に一つの物語に集大成されていった。四大奇書の一つ。〈神魔小説〉の先駆として広く読まれ,日本でも江戸時代に《通俗西遊記》が出て以後,童話的な,ユーモアに富む物語として流布。完訳本は1960年太田辰夫,鳥居久靖によって初めて完成した。
→関連項目三国演義水滸伝

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西遊記」の意味・わかりやすい解説

西遊記
さいゆうき
Xi-you-ji

中国,明の口語章回小説。呉承恩の作と伝えられるが不明。 100回。初唐の高僧玄奘 (げんじょう。三蔵法師) が仏典を求めて天竺 (インド) へ旅した史実を題材としたもの。この史実は唐末に早くも伝説化しはじめ,宋代の講談や芝居のなかで成長し,南宋末にまず『大唐三蔵取経詩話』にまとめられた。そこにはすでに三蔵法師の従者となる孫悟空,沙悟浄 (しゃごじょう) の前身が猴行者 (こうぎょうじゃ) ,深沙神の名で姿をみせている。元代にも小説,戯曲に取上げられ,明の中期にほぼ筋立てが完成して,孫悟空を中心とする一大ロマンに集大成された。現存最古のテキストは明の万暦 20 (1592) 年の世徳堂刊本で,そのほか多くの刊本がある。石から生れた猿の孫悟空が,三蔵法師の旅の行く手に立ちふさがるさまざまな妖怪たちを相手に活躍,神通力を駆使して 81の大難を次々に克服する奇想天外,波乱万丈の物語が主要部分で,孫悟空の痛快な行動力が古くから多くの愛読者を生んできた。日本でも江戸時代から紹介され,今日まで広く愛読されている。中国四大奇書の一つ。

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旺文社世界史事典 三訂版 「西遊記」の解説

西遊記
さいゆうき

明代に成立した口語体の長編小説。『三国志演義』『水滸伝』『金瓶梅』とともにいわゆる「四大奇書」の1つ
唐僧玄奘 (げんじよう) が経典を求めてインドに旅行した史実は,唐末期から説話化し,語り物や小説となっていたが,明の呉承恩(1500 (ごろ) 〜82 (ごろ) )が現在の形に集大成したという。孫悟空が猪八戒 (ちよはつかい) や沙悟浄 (さごじよう) らとともに,玄奘を守って妖怪変化 (ようかいへんげ) や困難を克服して念願を果たす物語が,豊かな空想力とユーモアを交えて説かれている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「西遊記」の解説

『西遊記』(さいゆうき)

明代の長編小説。呉承恩(ごしょうおん)の作。全100回。16世紀後半に完成。唐の玄奘(げんじょう)が仏教の経典をインドに求めにいった事跡にまつわる説話をもとにした,空想ゆたかな妖怪変化の物語。

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デジタル大辞泉プラス 「西遊記」の解説

西遊記〔日本テレビ:1978年〕

日本のテレビドラマ。放映は日本テレビ系列(1978年10月~1979年4月)。全26回。脚本:布勢博一、ジェームス三木ほか。出演:堺正章、夏目雅子、西田敏行、岸部シローほか。美人女優の夏目雅子が本来男性である三蔵法師を演じ話題となった。

西遊記〔フジテレビ〕

日本のテレビドラマ。放映はフジテレビ系列(2006年1月~3月)。全11回。脚本:坂元裕二。出演:香取慎吾、深津絵里、内村光良、伊藤淳史ほか。映画化作品もある(2007年公開)。

西遊記〔日本テレビ:1994年〕

日本のテレビドラマ。放映は日本テレビ系列(1994年4月~9月)。全17回。脚本:柴英三郎。出演:唐沢寿明、牧瀬里穂、小倉久寛、柄本明ほか。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「西遊記」の解説

西遊記
(通称)
さいゆうき

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
通俗西遊記
初演
明治11.9(東京・市村座)

西遊記
さいゆうき

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
明治36.3(大阪・中座)

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世界大百科事典(旧版)内の西遊記の言及

【玄奘】より

…門下の窺基,円測,普光らにより新訳経論に依拠した法相宗,俱舎宗が興った。弟子の弁機に編述させた旅行記《大唐西域記》12巻は,彼の伝記である《大唐大慈恩寺三蔵法師伝》10巻ともども,正確無比な記述によって,7世紀の西域,インドを知る貴重な文献であるとともに,小説《西遊記》の素材となったことでも有名である。西安南郊の興教寺に墓所がある。…

※「西遊記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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