営業写真師。長崎生まれ。鵜飼玉川(うかいぎょくせん)(1807―1887)、下岡蓮杖らと並び、もっとも早い時期に営業写真館を開いて職業的に写真を撮りだした、日本における写真術の開祖の一人。父俊之丞(としのじょう)(1790―1851)は長崎奉行所の御用時計師で、火薬材料や更紗(さらさ)の開発も手がけ、1848年(嘉永1)にオランダから発明当初の写真術ダゲレオタイプ(フランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによって発明され、1839年にフランス学士院で発表された写真術。銀板上にアマルガムで画像が形成される。1回の撮影で1枚の写真しか得ることができず、出来上がった写真は左右逆像)の機材一式をいち早く輸入したことでも知られている。1850年に俊之丞が没し、12歳で家督を相続。1852年、大分日田(ひた)の広瀬淡窓(ひろせたんそう)の私塾咸宜園(かんぎえん)に入門、漢学を学ぶ。1856年(安政3)長崎へ帰り、オランダ語を通詞名村八右衛門(なむらはちえもん)に伝授される。さらに1858年、長崎海軍伝習所の医官を務めていたオランダ人軍医ポンぺの塾舎密試験所(せいみしけんじょ)で舎密学(化学)を学び、津藩士堀江鍬次郎(くわじろう)(1830―1865)とともに写真術の研究を始める。1861年(文久1)津藩主藤堂高猷(たかゆき)(1813―1895)の出資でフランスから最新の写真機材と感材用の薬品を取り寄せ、江戸の津藩邸で藩主の肖像撮影に成功。翌1862年堀江の協力を得て津藩藩校有造館(ゆうぞうかん)の化学教科書『舎密局必携』を著し、同書中の「撮形術ポトガラヒー」の項で写真技法の詳細について述べる。同年、長崎中島河畔の自邸に営業写真館「上野撮影局」を開設、写真撮影業を始める。当初、長崎に滞在する外国人を顧客とした肖像写真の撮影をおもに手がけたが、やがて日本人にも客層を広げていき、坂本龍馬(さかもとりょうま)、高杉晋作(たかすぎしんさく)をはじめとする数多くの幕末の志士たちも上野のもとを訪れ、被写体として肖像撮影に臨んだ。
明治期に入ってからも上野は写真師としての活動を旺盛(おうせい)に繰り広げた。1874年(明治7)、金星の太陽面通過を観測した日本最初の天文写真を撮影。1877年には長崎県令北島秀朝(ひでとも)(1842―1877)の委嘱により西南戦争の戦跡を記録撮影。陸軍参謀本部に提出されたそれらの写真は、弟子の冨重利平(とみしげりへい)(1837―1922)が反政府(西郷軍)側の谷干城(かんじょう)の依頼で撮影した同戦争の記録写真とともに、現存する日本写真史上最初の戦争写真として知られており、同年第1回内国勧業博覧会(東京・上野公園)に出品され、一等賞を受賞した。1890年代には上野撮影局支店をロシア沿海州のウラジオストクや中国の上海(シャンハイ)、香港(ホンコン)にも開設している。その門人から内田九一(くいち)(1844―1875)、守田来蔵(1830―1889)、冨重をはじめ明治期に活躍する写真師が輩出した。
[大日方欣一]
『鈴木八郎他監修『写真の開祖上野彦馬』(1975・産業能率短期大学出版部)』▽『上野彦馬抄訳『舎密局必携(覆刻版)』全4冊(1976・産業能率短期大学出版部)』▽『八幡政男著『評伝上野彦馬』(1993・武蔵野書房)』▽『『日本の写真家1 上野彦馬と幕末の写真家たち』(1997・岩波書店)』▽『「寫眞渡来のころ」(カタログ。1997・東京都写真美術館)』
江戸末期から明治初期の写真家。島津藩で日本最初のダゲレオタイプを試みた上野俊之丞の四男として長崎に生まれ,豊後日田の広瀬淡窓の下で学んだ後,長崎でオランダ語と化学を学び,1862年(文久2),堀江鍬次郎と共著の《舎密局必携》を出版,近代的化学を紹介した。化学と写真術はオランダ政府派遣の海軍医ポンペvan M.から学び,写真機や薬品を自製,62年長崎に日本最初の営業写真館を開設し,コロジオン湿板を使って写真を撮影して好評を博し,坂本竜馬,高杉晋作,伊藤博文ら維新の志士たちも長崎に赴いて肖像を撮影した。
執筆者:友田 冝忠
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