下・降・卸(読み)おろす

精選版 日本国語大辞典の解説

おろ・す【下・降・卸】

〘他サ五(四)〙
[一] 事物や人を上から下へ移す。
① 高い所から下の方へ移す。上流から流れくだらせる。また、特に体の一部を下の位置に落ちつける。「手をおろす」
※神楽歌(9C後)小前張「稲舂(つ)き蟹(かに)の や 汝(おのれ)さへ 嫁を得ずとて 捧げては於呂之(オロシ) や 於呂志(オロシ)ては捧げて や かみなげをするや」
※源氏(1001‐14頃)朝顔「池の氷もえもいはず凄きに、童べおろして雪まろばしせさせ給ふ」
② (幕、すだれなどを)垂れさげる。また、(格子、とびら、錠などを)上から下へ動かしてしめる。
※蜻蛉(974頃)中「月いと明かければ、格子(かうし)などもおろさで」
③ (馬、船、車などの)乗物から離れさせる。
※竹取(9C末‐10C初)「船そこにふし給へり。松原に御むしろしきておろし奉る」
④ 陸から水の上に移しおく。また、水の中に入れる。
※万葉(8C後)一一・二七三八「大船のたゆたふ海に碇(いかり)(おろし)如何にせばかもあが恋止まむ」
⑤ 貴人の前から退かせる。さがらせる。
※源氏(1001‐14頃)帚木「みな下屋(しもや)におろし侍ぬるを。えやまかりおりあへざらむ」
⑥ 天皇に位を退かせる。また、身分や地位を低くする。
※大鏡(12C前)二「をしておろしたてまつらんことはばかりおぼしめしつるに」
⑦ おつげを受けるため、神の霊を天から下界に呼びよせる。
※米沢本沙石集(1283)一「大明神をおろしまゐらせて御託宣を仰ぐべしとて」
⑧ 神仏の供え物や貴人の飲食物の残り、また、使い古しの物などを下げてもらう。おさがりをいただく。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「『ここにておろしを物せよ』とておろさせ給ふ」
⑨ 家来に食糧を支給する。
※日葡辞書(1603‐04)「ハンマイヲ vorosu(ヲロス)
⑩ 悪くいう。こきおろす。
※源氏(1001‐14頃)乙女「右大将民部卿などのおほなおほなかはらけ取り給へるを、あさましく咎め出でつつをろす」
⑪ (風が自分自身をおろす意から) 上の方から風が吹く。吹きおろす。
※千載(1187)秋下・三〇七「みむろ山おろす嵐のさびしきにつまとふ鹿のこゑたぐふなり〈京極前関白家肥後〉」
⑫ (「胤(たね)をおろす」の形で) 高位者が女性を妊娠させる。
※浮世草子・好色訓蒙図彙(1686)上「もし殿様の、わき道に胤をおろし給へば」
⑬ 上から下への移動と見なしうるそれぞれの行為をする。
(イ) 外出用、来客用の物を日常用にまわすなど、品物を一段低いと見られる使い道に変える。
※真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉一六「鼠小紋の常着(ふだんぎ)を寝着(ねまき)におろして居るのが」
(ロ) 白紙に、最初の文字や図形を記す筆をつける。
※ある偽作家の生涯(1951)〈井上靖〉「一筆もおろしてない画紙が拡げられてあった」
(ハ) 囲碁で、石を打つ。
※良人の自白(1904‐06)〈木下尚江〉前「石を下(オロ)す音がパチンパチンと寂しく響くばかり」
(ニ) 原稿を印刷に回す。また、印刷で、紙型を取るためなどで、組版を次の工程に移す。
※菊池君(1908)〈石川啄木〉二「三時半には私が最後の原稿を下した」
(ホ) 役目や仕事からはずす。
※日々の収拾(1970)〈坂上弘〉「トラブルがおこらない前に、役目からおろしてやるのが」
(ヘ) (「調子をおろす」の形で) 手加減する。手心を加える。
※自由と規律(1949)〈池田潔〉その生活「相手を弱しと見て調子を下すもの」
[二] 切ったりすったりして、もとあった所から離れるようにする。
① (枝などを)切り取る。
※万葉(8C後)一五・三六〇三「青楊の枝切り於呂之(オロシ)斎種(ゆだね)蒔きゆゆしき君に恋ひわたるかも」
② (頭髪を)剃(そ)る。
※伊勢物語(10C前)八三「思ひのほかに、御ぐしおろし給うてけり」
③ からだの中から下へ出す。堕胎する。
※桂宮甲本元輔集(990頃)「おとこの、〈略〉こをおろしてける人につかはす」
④ (魚、鳥、獣の肉などを)切りさく。
※今昔(1120頃か)一九「猪(ゐ)を捕、生け乍ら下してけるを見て」
⑤ (金属を)すりへらす。また、(野菜、薬などを)すり砕く。
※大般涅槃経治安四年点(1024)八「金の鉱(あらがね)(オロシ)(きたふる)時は是れ無常の相なり」
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)初「山葵卸(わさびおろし)を借て大根を卸(オロ)し」
[三] おさめてある物を使うために出す。
① 取り出して使う。また、新しい品物を使いはじめる。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「三合の米おろして食ひつつ」
※落語・かつぎや五兵衛(1889)〈禽語楼小さん〉「何にか旧幣に新しい筆を卸(オロ)して」
② 商品を問屋が小売商に売り渡す。卸売をする。〔志不可起(1727)〕
③ (預けた金や元手の金などを)出す。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉投機「縦令(たとひ)廉蔵さんは一と資本(もとで)卸す下心があっても」
④ 口先で人をだまして、金品を奪い取る。
※洒落本・十界和尚話(1798)二「今度かふいふ手で客をおろし、其金にて鮒又が泥亀代」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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