小説家。東京生まれ。慶応義塾大学哲学科卒業。1960年(昭和35)大学卒業と同時に理研化学(現、リコー)に就職、入社後も執筆活動を続け、1995年(平成7)定年退職後、慶応通信(現、慶応義塾大学出版会)社長に就任。在学中山川方夫(まさお)に勧められ『三田(みた)文学』に『息子と恋人』(1954)を発表、芥川(あくたがわ)賞候補となる。『ある秋の出来事』(1959)で中央公論新人賞受賞。『野菜売りの声』(1969)、『朝の村』『早春の記憶』(ともに1971)などで近親間の葛藤(かっとう)のなかで凝視した自己の内面を、透徹した文体で描く。そのほか、作者自身が企業人であった体験も交えて、処世の悲哀や安息の境地も作品世界に定着させた。それは『優しい人々』(1976)、『故人』(1979)、『初めの愛』(1980。芸術選奨新人賞)、『杞憂夢(きゆうむ)』(1984)、『優しい碇泊(ていはく)地』(1991。読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞)、『田園風景』(1992。野間文芸賞)、『台所』(1997。川端康成文学賞)、『啓太の選択』(1998)などにさらに昇華される。ほかに独特な味わいの紀行文『遠い国・遠い言葉』(1979)、『私の旅行鞄(かばん)から』(1983)、また企業人としての率直な感慨を綴(つづ)った『残照の山を降りて』(1995)というエッセイ集などがある。
[金子昌夫]
『『優しい碇泊地』(1991・福武書店)』▽『『田園風景』(1992・講談社)』▽『『台所』(1997・新潮社)』▽『『啓太の選択』(1998・講談社)』▽『『百日の後』(講談社文芸文庫)』▽『『優しい人々』(講談社文庫)』▽『『初めの愛』(講談社文庫)』▽『『ある秋の出来事』(旺文社文庫・中公文庫)』▽『『早春の記憶』(集英社文庫)』
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