不当景品類及び不当表示防止法
ふとうけいひんるいおよびふとうひょうじぼうしほう
過大な景品付販売と虚偽・誇大な表示を排除して、公正な競争を確保し、消費者の利益の保護を目的とする法律(昭和37年法律第134号)。景品表示法または景表法と略称される。
[植木邦之]
過大な景品付販売、虚偽・誇大な表示は、消費者の錯誤に乗じて、品質、価格による商品・サービスの適正な選択をゆがめて公正な競争を妨げ、ひいては経済全体の資源の最適配分を害することから、不公正な取引方法として独占禁止法19条に違反する。しかし、独占禁止法の規制規定が抽象的で、かつ、違反排除手続が厳格であることから、続発する個々の事件に対応できないという問題があった。
1960年(昭和35)ごろから、過大な景品付販売が横行し、また、馬肉の缶詰を牛肉缶詰と偽る不当表示が発生して問題となったことから、規制内容を明確にし、簡易な手続で敏速な取締りを行うようにするため、62年、この法律が制定された。また、72年には、多発する違反行為に対処するため、都道府県知事に権限の一部が委任された。
[植木邦之]
景品表示法の内容は、第一に、景品付販売の際の景品の最高額、総額、提供方法の規制で、これらの限度は公正取引委員会により、各場合に応じて定められている。ただ、景品は、消費者の取引の際の選択をゆがめるという弊害がある反面、新規に市場に進出した企業にとっては、新しい商品・サービスを消費者に印象づけ、既存企業との競争を活発にする側面をもつ。このため、景品付販売は全面的な禁止はされず、公正な競争を妨げる過大なものが禁止される。最近は、海外企業がわが国市場に進出するため、規制緩和の要求が強く、緩和が行われている。
内容の第二は広告などの表示における不当表示の禁止である。表示には、広く商品・サービスの説明書、包装などを含み、最近はインターネット上の表示も追加された。禁止されるのは、商品・サービスを実際よりも優良にみせかける表示(優良誤認表示)、価格などの取引条件を実際よりも有利にみせかける表示(有利誤認表示)、誤認を防止するため公正取引委員会が指定する表示の3種類で、指定されたものには、無果汁飲料、商品の原産国、消費者信用の条件、おとり広告についてのものがある。
[植木邦之]
禁止事項に違反する者には、公正取引委員会が簡易な手続による命令で、行為の禁止、不当行為の訂正広告などの措置を命ずる。知事も、同様な内容の指示をすることができる。また、企業またはその団体は、公正取引委員会の承認を得て、過大な景品付販売と不当表示を自粛することを内容とした「公正競争規約」を締結し、自主的に不当行為を是正することができるようになっており、現在、不動産、自動車、家電製品、牛乳、菓子などの食料品の多くに、公正競争規約が設定されている。
[植木邦之]
『地頭所五男編『新しい独占禁止法の実務』(1993・商事法務研究会)』▽『植木邦之著『判・審決例からみた不当表示法』(1996・商事法務研究会)』
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不当景品類及び不当表示防止法 (ふとうけいひんるいおよびふとうひょうじぼうしほう)
過大な景品付販売と誇大な表示を禁止することにより,公正な競争を確保し一般消費者の利益を保護することを目的とした法律。略して景品表示法とか景表法といわれる。過大な景品付販売や誇大な表示による販売は,射幸心をあおり,欺瞞的で非倫理的であるばかりでなく,取引に関する情報をゆがめ,資源の最適配分を妨げる。そこで,この種の方法は,従来から独占禁止法19条(不公正な取引方法の禁止)に違反するものとして禁止されてきた。ところが,同条の規定は抽象的であるため,個々の事例に対応できず規制の実効があがらなかった。そこで,具体的な基準を設定し,取締りを強化するために立法化されたのが,この法律である。その意味で,景表法は独占禁止法の特別法としての性格をもつ。景表法は1962年に制定されたが,昭和40年代に至り,消費者保護機能を大いに発揮した。その後,72年の強化改正を経て現在に至っている。
景表法が規制する第1の内容は,景品の最高額,総額,提供の方法等の制限と禁止である。ただし,その具体的な内容は法律に明示されておらず,公正取引委員会の準立法権に委ねられている。そこで,同委員会はいくつかの告示を制定してこれに対応してきたのであるが,その内容には変遷がある。概していえば,1990年頃までは規制強化の道を歩んでいたが,その後は景品規制を大幅に緩和する方向に転じた。現在は,景品付販売を懸賞による場合とそれ以外の場合に分けて2種類の告示を公表し,あまりにも過大な景品類の提供は禁止するとの立場から規制を行っている。
景表法の第2の内容は,広告等による誇大な表示の禁止である。その規制は3種に分かれる。その一は,優良誤認規制といわれるものであって,商品やサービスの品質・規格等について,実際のものまたは競争事業者にかかわるものよりも優良だと誤認される表示を行うことを禁止するものである。その二は,有利誤認規制といわれるものであって,価格などの取引条件について,上記と同様な誤認を引き起こす表示を禁止するものである。その三は,公正取引委員会が指定することにより違法となる場合であって,無果汁の清涼飲料水表示,原産国表示,おとり広告表示,消費者信用表示等について告示がだされている。
これらに違反する行為が行われた場合,公正取引委員会は排除命令を出して違法行為の差止め等を命ずる。都道府県知事も,同趣旨の指示を出すことができる。なお,景品や表示を自粛するために,公正取引委員会の認定をうけて,業界で規約をつくることができる。これを公正競争規約という。
執筆者:川越 憲治
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不当景品類及び不当表示防止法
ふとうけいひんるいおよびふとうひょうじぼうしほう
昭和 37年法律 134号。景表法と略称される。独占禁止法で禁止されている不公正な取引方法の一類型である「不当な顧客誘引行為」のうち,不当な景品付き販売と不当表示をより効果的に規制するために,独占禁止法の補助立法として制定された法律。不当な景品付き販売あるいは不当な表示が行われた場合に,都道府県知事が指示を行い,この指示に従わないときには公正取引委員会に対し,この法律の規定に従い適当な措置をとることを求めうるが,これと並んで同委員会は排除命令を出して,是正させることができる (6条および9条の2) 。
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不当景品類及び不当表示防止法【ふとうけいひんるいおよびふとうひょうじぼうしほう】
商品やサービスの取引に関して不当な景品や表示による顧客の誘引の防止を目的とする法律(1962年)。独占禁止法の特例法である。公正取引委員会は誇大広告など不当表示について排除命令を出すことができる。また都道府県知事は景品類の最高額や,総額等を制限または禁止できる。
→関連項目懸賞
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世界大百科事典(旧版)内の不当景品類及び不当表示防止法の言及
【景品】より
…1950年代後半からは,懸賞付き販売の景品が大型化して,電気製品,自動車,海外旅行へと拡大していった。行き過ぎた景品付き販売への批判も生まれ,62年〈[不当景品類及び不当表示防止法]〉の成立に至った。この法に基づいて,景品の金額は,商品の購入金額との関連で制限されることになった。…
【広告】より
…これらは,消費者の選択を誤らせ,企業への不信を招くが,広告の機能に関するというよりは商業倫理の問題である。これに対して,国も医薬品,化粧品,医療用器具などについては〈[薬事法]〉によって,効能その他に関する虚偽または誇大な記事の広告を禁じ,また,〈[不当景品類及び不当表示防止法]〉のなかで,商品一般について虚偽誇大な広告をすることを禁ずるなど,必要な法的規制を行っている。また,広告主,媒体企業,広告代理店の側でも,たとえば,全日本広告連盟倫理綱領を作成して,〈広告はすべて社会道義や関係法規にもとづき,一般大衆に福祉と便益を与えるものでなければならない〉ほか7項目を定めて自主規制を行い,また,自主規制の実効をあげるために,日本広告審査機構(JARO)を設立している。…
【品質表示】より
…しかし商品の複雑化,多様化とともに消費者はますます詳細な情報を要求するようになり,それにつれて品質表示の虚偽や情報不足がますます大きな問題となっており,品質表示の義務づけや不当表示の排除にかかわる制度が各国で近年著しく強化されている。 日本では1960年に起きた〈にせ牛かん事件〉をきっかけとして,62年〈不当景品類及び不当表示防止法〉(景表法),〈家庭用品品質表示法〉の2法が制定され,この種の制度の本格的な成立をみた。景表法は,公正取引委員会による不当表示の取締りのほか,表示に関する業者の申合せとしての公正競争規約の実施の道を開き,後者は多くの家庭用品について,業者が通産省の定める型式に従って適正な品質表示を行うことを義務づけている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」