日本大百科全書(ニッポニカ)「景品」の解説
景品
けいひん
販売する商品、提供するサービスなどに添えて顧客に贈る物品で、金銭(コインのつかみ取りなど)なども含まれ、販売促進を目的とし顧客に無料で提供する経済上の利益をいう。景物、おまけ、法令用語では景品類。景品の使用価値が販売するもののそれとは異なるのが基本で、品物などの増量は通常値引きとされる。景品は、顧客に購入するもの以外のものを無料で得るという満足感と割安感を与えること、価格引下げなしに顧客にアピールできること、とくに、新商品の発売、新規事業開始(新規参入)のときに人目をひいて広告としての効果が大きいことから、販売促進の重要な手段としてよく用いられる。
[植木邦之]
景品提供の方式
景品提供の方式は、
(1)すべての顧客に一定のものを与えるもの(総付け)、
(2)継続的な購入により一定金額に達した顧客に与えるもの、
(3)購入者のなかから抽選などで、価額の異なる景品を与えるもの(懸賞)、
の三つに大別されるが、懸賞方式では、特定の少数者に高額の景品の供与が可能で、これを得ようとする人々を購入者となしえることから販売促進効果が大きい。反面、射幸心をあおる面があり、アメリカのように禁止されることもある。
[植木邦之]
景品付販売の歴史
景品による販売促進は古くから行われ、1792年(寛政4)、江戸の紅問屋の玉屋が開店の際、山東京伝(さんとうきょうでん)の著作を景物として配布して成功したのが有名で、当時、著名な戯作(げさく)者の作品がしばしば景物本として利用されたという。明治時代に入ると景品の使用はさらに活発となり、1897年(明治30)、村井兄弟商会が輸入たばこの発売にあたり、金時計、自転車などの高額品を提供したのが有名で、江崎商会、森永製菓がキャラメル販売の際、子供向けの「おまけ」をつけたのも成功例として知られている。また新聞販売では生活用品が使われ、「鍋釜合戦」といわれた。外国でも景品の使用が激しく、20世紀初頭のドイツでは、それが中小企業を圧迫するとして禁止要求がなされ、1923年、大統領令(景品令)により禁止措置がとられている。
[植木邦之]
景品表示法の制定
第二次世界大戦後のわが国では、ドイツと同様な理由で、1952年(昭和27)ごろから、みそ、しょうゆなどの数種の日用品に添付される景品や、百貨店の販売に用いられる景品などが、独占禁止法の不公正な取引方法の一つ、不当な利益供与にあたるとして制限が行われた。しかし制限外の業種で懸賞販売が盛んとなり、たとえばウイスキーにハワイ旅行、10円のガムに1000万円が当たるというように、景品の最高額が高騰し、社会的批判が高まった。このため、1962年、景品の額を一定限度に制限できるようにした「不当景品類及び不当表示防止法」が制定されるに至った。
この法律に基づき、公正取引委員会の告示で、懸賞方式の景品は最高額と総額、その他の方式は最高額が制限されており、また、相当数の個別の品目でも、告示または業界の規約により一般的制限よりも厳しい制限がなされている。
なお、物品などの購入を条件にしないいわゆるオープン懸賞では、独占禁止法により、景品の最高額は1000万円までとなっている。
法律による景品の規制は、販売される物品、提供されるサービスなどの品質と価格によって行うべきであるとの考え方を根拠にしているが、1990年代に入り、景品の提供が新規参入を容易にするという側面が着目されて、制限が相当程度緩和されている。
[植木邦之]