不法原因給付(読み)フホウゲンインキュウフ

デジタル大辞泉 「不法原因給付」の意味・読み・例文・類語

ふほうげんいん‐きゅうふ〔フハフゲンインキフフ〕【不法原因給付】

賭博とばくでの支払いのように、不法な原因に基づいてなされる給付民法は、不法の原因が一方的に受益者の側にあるときを除いて、返還請求を認めていない。

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精選版 日本国語大辞典 「不法原因給付」の意味・読み・例文・類語

ふほうげんいん‐きゅうふフハフゲンインキフフ【不法原因給付】

  1. 〘 名詞 〙 不法な原因に基づいてされる給付。たとえば、賭博(とばく)に負けて払う金銭などで、民法は不法な原因が利得者の側にだけある場合のほか、その返還請求を認めない。

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改訂新版 世界大百科事典 「不法原因給付」の意味・わかりやすい解説

不法原因給付 (ふほうげんいんきゅうふ)

A,B間の契約に基づき,AがBに物または金銭を給付したが,その契約が無効であったときには,AはBに対して,不当利得としてその返還を請求することができる(民法703条以下)。しかし,この契約の無効が善良の風俗に反する不法な目的を理由とするものであり,かつ給付者がその不法原因にみずから積極的に関与し,いわば手の汚れた者であるときには,法は,同人の不当利得返還請求を認めないこととしている(708条)。これを不法原因給付という。たとえば,妾契約や賭博契約は,善良の風俗に反して無効であり(90条。公序良俗),妾や賭博の勝者が約束の金銭を請求することは法律上認められないが,しかし,相手方が任意にこれを支払ってしまうと,もはやその返還を不当利得として請求することもできないのである。また,近時の判決が,大学等の裏口入学の工作資金は,たとえ不合格となっても返還請求することができない,としているのも,この制度の適用の結果である。

 このような法的処理は,すでにローマ法以来承認されてきた。そこでは,〈何人も,自分が不道徳であることを理由とする申立ては聴許されない〉とされた。また,英米法でも,〈衡平法救済を求めんとする者は,清き手をもって来なければならない〉とされている。

 しかし,ここでの不法の原因なるものは,せまく,時代の倫理思想に基づき醜悪もしくは不道徳と評価される場合に限られる。その程度に至らない,単なる国の政策的立場からの強行法規違反は含まれない。また,そう解さないと,たとえば,物資流通統制についての法律に違反して流通させた場合に,売主が買主に返還請求できないとすれば,あたかも裁判所が法律違反の流通を肯定したような結果となろう。

 なお,以上の不法原因給付の精神は,不当利得以外の諸場合にも類推されることがある。たとえば,不法原因の給付者はその給付物につき所有権に基づく物権的返還請求をすることも許されない。また,紙幣偽造や密輸の資金にするとだまされて出資をさせられた者は,その出資金相当額を不法行為としての損害賠償として請求すること(709条)も認められない。

 もっとも,その不法原因が受益者側にだけあって,給付者側にはない場合,あるいはさらには,受益者側の不法性が給付者側のそれより圧倒的に大きい場合には,不当利得の一般原則に返って,給付者の返還請求が許される(708条但書)。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不法原因給付」の意味・わかりやすい解説

不法原因給付
ふほうげんいんきゅうふ
Kondiktio wegen verwerflichen Empfanges

不法な原因に基づいてなされた給付。たとえば殺人依頼の対価として金銭を支払った場合や,妾となることを条件として家を与えた場合など。不法の原因による法律行為は無効であり (民法 90) ,したがって給付も効力をもたないので,受領者は一応,不当利得者となる。したがってその不当利得は返還しなければならないはずであるが,その返還請求権を認めることは,結局,不法な行為をした給付者に法律が助力することになるので,民法は不当利得の特則として,不法原因給付については,利得者 (受益者) の側だけに不法の原因がある場合 (たとえば相手の困窮に乗じて暴利を得た者など) を除いて,不当利得を認めず,したがって給付したものの返還請求は否定される (708条) 。ある給付が不法原因給付とされるのは,公序良俗に反する場合,または特に不道徳な原因によるときと解するのが通説であるが,強行法規に違反する原因による場合であれば,不法原因給付にあたるとする有力説もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不法原因給付」の意味・わかりやすい解説

不法原因給付
ふほうげんいんきゅうふ

不法な原因に基づいてなされた給付。たとえば賭博(とばく)に負けた者が金銭を支払ったとしても、賭博契約は公序良俗違反として無効(民法90条)なので、不当利得の返還請求ができそうであるが、この請求に裁判所が助力をするのは適当ではない。そこで民法は第708条で、不法な原因に基づいて給付をなした者は給付したものの返還を求めることができない、と規定した。ここにいう不法とは、単に法規違反というだけでは足りず、公序良俗違反ないし醜悪不正な動機をいう。なお不法性が一方的に受領者の側にあるといえる場合には返還請求は認められる(同条但書)。

[伊藤高義]

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世界大百科事典(旧版)内の不法原因給付の言及

【自然債務】より

…しかし,これへの反対論も有力である。すなわち,任意の履行が弁済となり,したがって,あとで給付目的物の返還を求めることができないという指標によって,自然債務を規定するときは,不法原因給付(民法708条)も有効な債務の弁済となり,不当であるから,自然債務概念を認めるべきではない,とするものである。【石田 喜久夫】。…

※「不法原因給付」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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