野鳥研究家,詩人。石川県金沢市に生まれる。幼くして父母に別れ,天台宗の僧侶であった伯父中西悟玄に育てられた。12~13歳のとき秩父山中で108日間の荒行の際,肩やひざにとまりにきた小鳥と親しんだのがきっかけで,野鳥や自然の保護を生涯のしごととするようになった。15歳で得度剃髪(ていはつ)。1934年,竹友藻風らとはかって〈日本野鳥の会〉を起こした。この会には,柳田国男,北原白秋,杉村楚人冠,内田清之助,黒田長礼,山下新太郎,山口蓬春などが多数参加して,当時起こりつつあった博物趣味に,高い文化性とそこはかとない野生との共存の哲学を秘め,科学と文芸の合体融合を願う姿勢をとるが,いささか高踏的雰囲気をもっていた。〈野の鳥は野に〉という標語を掲げ,野鳥飼育流行への批判もあったが,後の野鳥の会のように厳しいものではなく,当時は飼鳥界の大家もなん人か会員に加わっていた。中西悟堂の自然観は,仏教の哲理を基盤とした東洋風のそれであったことが,外来の自然保護とは異なる独自の自然保護活動を展開する母胎となった。なお〈野鳥〉などのことばもつくった。第2次大戦後の中西悟堂は,日本鳥類保護連盟の山階芳麿と提携して,霞網猟の撲滅,空気銃の使用禁止,狩猟制度の見直しの提唱など,国の中央鳥獣審議会(のちに自然環境保全審議会)委員として大奮闘する。70年5月に〈自然を返せ〉という自然保護運動が起こったとき,若い人々とともにデモ行進の先頭を歩いた。その間,天台宗権僧正となり,日本エッセイストクラブ賞,読売文学賞,新年詠進歌入選などを受け,77年に文化功労者に選ばれるなど多彩な活動を続けた。80年に法人化した日本野鳥の会の運営に強い不満を表明して会長を辞任したが,その後,81年に名誉会長として復籍した。晩年には,同人誌〈連峯〉を通じて長老的立場から警世の論陣をはり,独特の文明批判を続けていた。《定本野鳥記》など著書は百数十冊に及んでいる。
執筆者:柴田 敏隆
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大正・昭和期の僧侶,歌人,詩人,野鳥研究家 日本野鳥の会名誉会長;天台宗権僧正;国際鳥類保護会議終身日本代表。
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野鳥研究家。明治28年11月16日石川県金沢市に生まれる。幼名富嗣(とみつぐ)。10歳で養父悟玄の教化により秩父(ちちぶ)山中で断食の苦行を行い鳥に親しむ。15歳で仏門に帰依(きえ)し法名悟堂。天台宗学林に入学。20歳で歌集『唱名』(1916)を出版。以後30歳まで仏門にあって作詩作歌活動を展開。その後、鳥虫魚の飼育観察に取り組み、36歳で『虫・鳥と生活する』(1932)を出版。2年後に日本野鳥の会を創立し機関誌『野鳥』(1934)を発刊。同時に富士山麓(さんろく)での探鳥会を始め、探鳥ブームの基礎を築いた。当時流行していた飼い鳥の廃止を訴え、のちにかすみ網の全廃運動の陣頭にたち、野鳥保護思想の啓蒙(けいもう)普及に生涯を捧(ささ)げた。『野鳥と生きて』(1956)で日本エッセイスト・クラブ賞、『定本野鳥記』で読売文学賞を受賞。主要著作114点。比叡(ひえい)山天台宗権僧正(ごんそうじょう)。紫綬褒章(しじゅほうしょう)、文化功労者、勲三等旭日(きょくじつ)中綬章などを受けた。昭和59年12月11日肝臓癌(がん)で死去。
[藤原英司]
『中西悟堂著『定本野鳥記』全16巻(1962~1986・春秋社)』▽『小谷ハルノ著『父・悟堂』(1985・永田書房)』
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…自然の中であるがままの野鳥の姿や声を,鳥を傷つけたり驚かしたりすることなく観察し,観賞して楽しむ行為をいう。日本語では〈探鳥〉ないし〈探鳥会〉なる訳語があてられるが,このことばは,1934年中西悟堂が〈日本野鳥の会〉を創立したとき,〈野鳥〉とともに初めて用いたものである。〈日本野鳥の会〉の探鳥会が初めて行われたのは同年6月3~4日で,富士山麓の須走(すばしり)に,当時の文壇,画壇,歌壇の重鎮,著名な民俗学者,言語学者,動物学者,会社経営者,貴族およびその家族などが参加して行われた。…
※「中西悟堂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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