「万葉集」に②を用字法にとりいれた例が見られる。「あしひきの木の間立ち八十一(くく)」〔一四九五〕、「かく二二(し)知らさむ」〔九〇七〕、「わかこもを 猟路の小野に 十六(しし)こそは いはひをろがめ」〔二三九〕など。
1から9までの自然数間の乗法の表,または,それを暗唱するときの言い方。もっと広く,演算法の簡易記憶法を指すこともあり,掛算の九九のほかに割算,開平,開立の九九もある。九九の語の起りは,古代中国での掛算の九九は九九八十一から始まっていたことによる。中国古代の暦法および数学の書《周髀算経》にすでに記載されていて,n×9(n=9,8,……,2)から始まり次がn×8(n=8,7,……,2)のようになり,最後が2×2という順で,全部で36句あった。言い方としては,日本の場合の数字の読み方を中国読みにしただけのが大部分であり,例外は二三〈が〉六のような〈が〉は〈如〉がふつうで,〈而〉が使われた場合と,二三六のように文字なしの場合とがあったこと,2×5については,二五如十,二五一十,二五十の3種があったことと,2×7,3×6などの場合十四,一十四のように十,一十の2種があったことである。1×nの加わった45句のものも古くからあったようで,敦煌の千仏洞で発見された数学書にもあり,36句のものとの共存期間は長かったと思われる。順序は唐代までは上記の順であったようだが,元代以後は2×n(n=2,3,……,9)から,もしくは1×n(n=1,2,……,9)から始まるものばかりのようで,また,現代の中国でも9×7のように,大きい数×小さい数の形のは加えられておらず,現代の中国では1×nの入った45句からなるものになっている。日本では1920年代から逆順に掛けたものが加えられた81句の九九が始まり,順序は元代以降のものに従い,36句,45句,81句の3種併存となり,現在では81句のものに統一されたといえる。
なお,現在の台湾では81句のもの,1×nを欠いた72句のもの,1×n,n×1を欠いた64句のものの三種があり,72句のものが主流である。また,日本の〈が〉中国での〈如〉に相当するのは〈得〉で二四得八のように記述する。中国で九九がうまく発生した原因には,漢字1字の音が1シラブルに統一されていることと十進法が古くから定着していたことによろうが,もう一つ見逃せないのがそろばんの使用である。掛算以外の九九はそろばん利用の面から生まれたといって過言ではない。掛算以外の九九は日本と中国とではだいぶ異なっているが,そろばんという共通な基盤をもっていたのである。中国の九九の直接導入のなかった文化圏では,われわれが使っているような便利な暗唱句はなく〈2掛ける3は6〉のような文章の形で暗唱しているようである。しかし,ドイツ語の場合は,この形の文はわりあい調子のいい句になるせいか,九九のことをEinmaleins(1の1倍の意)といっている。この命名は九九の命名と軌を一にしている。
執筆者:永田 雅宜
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普通、乗法九九あるいは掛け算九九のことをいう。これは、1桁(けた)の整数(1から9まで)どうしの乗法の結果を、順序よく配列して、覚えやすくしたものである。1の段(「11―1」から「19―9」まで)、2の段、……、9の段まで、それぞれが9個ずつ、合計81個ある。この全体を総九九ということがある。この場合、たとえば、2の段をとると、「21―2」「22―4」「23―6」のように、被乗数は一定数2で、乗数が1ずつ増していき、結果が被乗数の2ずつ増える仕組みになっている。乗法では、交換法則が成り立つから、総九九のなかで、「23―6」と「32―6」は結果は同一で一方は省いてもよいと考えられる。そうすると、総九九のうち、被乗数が乗数以下のものだけに限ることができる。1の段は9個、2の段は「22―4」から「29―18」まで8個、3の段は「33―9」からの7個……と9の段の「99―81」だけの合計45個にしたものを、制限九九または半九九という。明治期から大正期までは、小学校算術では制限九九を教えたが、昭和期に入って、総九九を教えるようになっている。乗法九九は1桁の数の乗法結果をただちに知るのに使われるだけでなく、桁数の多い乗法の計算にも使われ、また、
24÷6=4, 27÷4=6余り3
のような除法の計算をするのにも用いられる。つまり、乗除の計算の基礎となっている。
九九には、乗法九九のほか、割り算九九もあり、広く使われていたことがある。これは、珠算で除法を行うとき便利な仕組みになっているもので、和算で利用された。さらに、第二次世界大戦後の一時期、加法九九を教えたことがある。これは、1桁の整数どうしの加法の結果を、乗法九九に倣って整理したものである。しかし今日このことばは使われない。
[三輪辰郎]
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…次の段階は正の分数であるが,この発展については地域による差が大きかった。中国ではずいぶん古くから自然数の十進法による表記法が整い,掛算の九九も整っていて,分数も〈何分之何〉という言い方で,われわれと同様な理解をしていた(九九という語は,古代中国の九九の表が〈九九八十一〉から始まっていたことによる)。古代メソポタミアでは六十進法を利用していて,分数ではなく,六十進法の有限小数を扱っていた。…
…この国家的な要請と,庶民の側に用意されていた条件とがあいまって,7世紀末から8世紀にかけて日本の律令国家が急速に形成されたのである。当時の庶民の読み書きや計算の学習に対する意欲は,今日全国的に出土している木簡(もつかん)に習字が少なくなく,なかには九九の練習もあることから,かなり広範であったと推測しうる。書物を読む層は限られていたとしても,《古事記》《日本書紀》《万葉集》など日本の古典が8世紀になって出そろうのも,識字層の急速な拡大の証拠である。…
…しかし,日本人自身が開拓した数学ではなく,そのためか,中国,朝鮮の数学は定着しなかった。この中で,日本人の文化的財産となったのは〈九九〉だけである。その当時,掛算は〈九九八十一〉から始まり,〈一一の一〉で終わる順である。…
※「九九」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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