ラセミ化(読み)ラセミカ

デジタル大辞泉 「ラセミ化」の意味・読み・例文・類語

ラセミ‐か〔‐クワ〕【ラセミ化】

[名](スル)racemization光学異性体変性してその光学活性を失うこと。熱や光、あるいは酸・アルカリなどの化学試薬により、純粋な光学活性分子光学異性体に変化して、二つの光学異性体混合物になることにより、光学活性が失われる。

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化学辞典 第2版 「ラセミ化」の解説

ラセミ化
ラセミカ
racemization

】光学活性な物質の半分がその対掌体との1:1の混合物に変化し,旋光性を失う現象.ラセミ化は,熱や光などのエネルギーを与えることにより起こる場合と,酸またはアルカリの添加で起こる場合とがある.前者の場合は,キラルな状態よりはラセミ化状態にあるほうがよりエントロピー的に有利である結果,光学不活性になると説明される.後者の場合は,酒石酸や乳酸のように,H原子を有する不斉炭素原子カルボニル基が隣接しているような化合物で,ラセミ化が起こりやすく,これは次のようにエノール化が原因と考えられる.

このとき,酸やアルカリはエノール化を促進する.一般に,SN2型反応ワルデン反転ではdl(またはld)変化は起こるが,ラセミ化は起こらない.平面構造の中間体を経由するSN1型反応では,ラセミ化を伴う.【錯体のラセミ化の代表的なものとして,八面体形トリスキレート錯体のΔとΛ形からのラセミ化反応がある.このラセミ化反応については,金属-配位原子結合が切れて反応が起こるものと,金属-配位原子の結合を保持したまま反応が進行するものとが知られている.Δ-,またはΛ-[Ni(phen)3]2+のラセミ化反応は前者,[Fe(phen)3]2+ は後者の例である.これは,配位子交換反応速度定数とラセミ化反応速度定数を比較して決められており,ラセミ化反応速度定数が,配位子交換反応速度定数より十分速ければ後者となる.結合を保持したままラセミ化する機構として二つ提案されており,三回回転軸の回転により三角柱形構造を経由するベイラー(三方)ねじれ機構と,擬三回回転軸の回転により起こるレイ-ダット(斜方)ねじれ機構がある(図参照).

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラセミ化」の意味・わかりやすい解説

ラセミ化
らせみか
racemization

光学異性体が対掌体あるいはメソ形に変化して光学活性を失うか低下する現象。実験的には旋光度消滅あるいは減少によって観測される。温度などの物理的条件の変動、触媒作用、酵素作用などによっておこることが多い。ラセミ化を触媒する酵素をラセマーゼという。置換活性錯体では中心原子‐配位子間の解離再結合によってもラセミ化がおこる。

[岩本振武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラセミ化」の意味・わかりやすい解説

ラセミ化
ラセミか
racemization

光学対掌体の一方の成分から成る物質の半数がこれと鏡像関係にある他方の対掌体に変化することによって,光学不活性な物質,すなわちラセミ体になる現象のこと。光学不活性化ともいう。ラセミ化は光の照射などの物理的影響のもとに起る場合や,酸,アルカリの添加など化学作用によって起る場合がある。また,対掌体を長期間保存することによって起ることもある。互変異性体間の平衡状態にある化合物で不斉炭素原子をもつものはラセミ化を起しやすい。このほか,不斉炭素原子を有する化合物を合成するとき,各対掌体の等量から成るラセミ体が得られる場合もラセミ化ということがある。

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栄養・生化学辞典 「ラセミ化」の解説

ラセミ化

 不斉炭素原子をもつと,二つの光学異性体ができるが,この二つの等量混合物をラセミ体,もしくはラセミ化合物という.二つのうち片方の化合物が化学的な反応や酵素反応によって等量混合物に変化すること.

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