デジタル大辞泉 「炭」の意味・読み・例文・類語
たん【炭】[漢字項目]
[学習漢字]3年
〈タン〉
1 すみ。「薪炭・石炭・塗炭・氷炭・木炭」
2 石炭のこと。「炭坑・炭鉱・
3 炭素のこと。「炭化・炭酸」
〈すみ(ずみ)〉「炭火/堅炭・白炭」
[難読]
翻訳|charcoal
木材の熱分解後の固体残渣(ざんさ)のことで木炭ともいう。炭を主目的として木材を炭化することを製炭といい,炭焼きともいう。木炭は炭窯で造られた黒炭,白炭のほかに,乾留でできた乾留炭があり,木材の不完全燃焼でできた残渣の消炭も木炭である。木炭は黒鉛,石炭,コークス類と同じ無定形炭素の一種である。
中国大陸では,約3000年前に青銅器文化が栄え,これに必要な木炭を焼いていたことが推定される。2100年前の前漢前期に作られた長沙の馬王堆の墳墓の木槨(もつかく)の外周に約50cmの木炭層が作られていて,その重量は5tであった。これは木槨や埋葬品の保存が目的である。ほぼ同時代の中山国王劉勝の漢墓の副葬品中に,手あぶりか食物の保温に用いたと思われる火炉が発見され,木炭を日用に供していたことが推定される。また韓国の天馬塚の中にも1500年前のアカマツ木炭粒が埋葬用に利用されている。
日本における炭の利用は,縄文時代の終りごろから始まったと考えられる。6世紀ごろと考えられる古墳から発見される木炭槨は,消炭ではないので,後述の伏焼法か炭窯で製炭されたものと考えられる。また《古事記》を撰進した太安麻呂(おおのやすまろ)の墓の木炭槨は黒炭のカシ炭が主であった。文書で明らかになっているのは奈良時代で,貢租として各地から集められた中に,木炭の記述がある。これらは宮殿などでの炊事,暖房に用いられたのであろう。正倉院には火鉢もあり,木炭が相当利用されたものと考えられる。とくに奈良の大仏の建立にあたっては,その鋳造に大量の木炭が使用されている。炊事,暖房に木炭を使用したのは初めは宮廷生活に限られたが,室町時代ころからは一般にも普及した。徳川時代には茶道が発達し,これに応じて,茶道用の木炭製造も進み,佐倉炭,池田炭など優良品質のものができてきた。明治初期には年生産高は約50万tであったが,その後生活用,工業用などの利用が進み,また人口増加ともあいまって製炭高は急増した。明治後期には110万t,大正時代は150万t,最高生産は1940年に約270万tに達している。第2次大戦後一時急減したが,57年には年生産高210万tに復活した。このころより一般家庭に石油,都市ガス,プロパンガスの使用が普及し,木炭の使用は激減し,近年は数万t単位にまで低下している。
なお,ヨーロッパでも石炭の普及以前には,製鉄用として木炭が重要な役割を果たした。
世界各国で風土にあった製炭が行われている。炭材を積み重ね,上を樹枝や草,土などでおおい窯を築かない堆積製炭法はヨーロッパで普及しており,マイラー製炭という。日本ではこれを伏焼法というが一般的ではない。炭窯による築窯製炭法は最良の木炭を製造する方法で,日本には独特の製炭技術がある。これには,黒炭をつくる窯内消火法と白炭をつくる窯外消火法がある。また工場で平炉,スクリュー炉,ロータリー炉,連続炭化炉などを用いてのこくずなどを炭化する工業的製炭法や,増炭を目的として無機塩類を使った触媒製炭法もある。
(1)黒炭の製炭 黒炭は粘土で築いた窯で焼くのが基準である。炭窯を築く工程は,まず適地を選んで穴を掘り,窯底の基礎,煙道,窯壁などをつくり,その後炭材を縦に並べてつめ,その上に小木片,小枝などをのせて天井をつくり小屋掛けをして終わる。着火して炭材を熱分解し出炭したのち,この窯でなん回も製炭する。標準的な窯の形を図1に示しておく。黒炭窯には三浦標準窯,岩手窯,農林1号窯などの土窯のほか,軽量で容易に組みたてられて,短時間で炭化できる移動炭化炉がある。
製炭工程は次の通りである。1m前後に切った炭材を末口を下にして立てて並べ,上げ木(あげき)をのせて詰める。たき口から着火すると,初めは煙突から水蒸気の多い白煙が出る。煙が焦げ臭く80℃をこすとまず上げ木がもえる。この時点でたき口を閉じ,通風口のみを残す。炭材は上部から下部へと熱分解が進み,煙温度が200℃くらいになるとタールの多い青い煙が出る。220℃をこえると煙は淡青から濃青となり徐々になくなる。この期間に通風口,煙突口を拡大する精錬操作(炭のガス分を抜く操作)を始め,380℃くらいまで続けて炭化を終了する。窯口,煙突口を閉じ3~4日おいて自然消火させる。その後窯口を開いて出炭・秤量し,包装,荷造りをして出荷する。収炭率は生材に対し18~20%である。
(2)白炭の製炭 白炭はきんちゃく形の窯(図2参照)で作られる。窯の高さが高いので,投込み操作がしやすく,窯口から炭をかき出しやすくなっている。白炭窯には備長(びんちよう)窯,日窯(ひがま)などがある。白炭は炭化の終りに窯口を徐々に大きくして炭のガス分を燃焼させる。窯が高温になり,樹皮は燃えてなくなり炭は真っ赤になる。これを窯の外にかき出し消粉(けしこ)(土砂と灰を混ぜてぬらしたもの)で消火する。このため木炭の表面は白い。高温で精錬をかけ急冷するため硬質の木炭ができる。白炭の収炭率は低く12~13%である。
木炭の物理的性質は樹種や炭化の状態によって異なる。木炭の炭素構造は黒鉛類似の微結晶とその周辺をとりまく非結晶部分よりなる。微結晶の大きさは炭化度が高いほど大きい。とくに650℃から急に大きくなることはX線回折によって明らかになっている。結晶が発達すると電気伝導度は高くなり,電気抵抗は小となる。残留未分解物含量と電気抵抗との間には,直接の関係が成立する。発熱量は7000~8000kcal/kg,比重は1.4~1.9,容積重は平均0.65~0.70。硬度は樹種,含水量,炭化温度,精錬操作で異なる。黒炭のうち,ナラ,カシ類のものは硬く,針葉樹などからなる松炭,雑炭は軟らかい。白炭はひじょうに硬い。また木炭は多孔質で吸着性が大きく,とくに白炭は大きい。着火点は白炭が440~482℃,黒炭が330~390℃である。
木炭の炭素含量は白炭95%前後,黒炭89%前後,乾留炭80%前後で,炭化温度の高いほど大で,酸素や水素の含量が少なくなる(炭化温度の最高点は,白炭1000℃以上,黒炭450~750℃,乾留炭400~450℃)。木炭中の灰分は3%以下と少なく,かつ,硫黄,リンなども少ないので工業用には優れた炭素源である。また一般に薬品に対する抵抗性は大きい。
日本の木炭はJAS(日本農林規格)によって製品が明示されている。原木の種類(クヌギ,ナラ類,カシ類その他)と製炭法(白炭,黒炭),製炭技術による優劣で,形状・品質の等級(特選,堅1級,1級,堅2級,2級)があり価格も差がある。品質の検定には水分・灰分・揮発分・固定炭素の比率や精錬の程度,容積重,標準硬度,発熱量などを測定する。外観上は,黒炭は樹皮が密着し,横・縦割れがなく,銀灰色を示し,切口断面は光沢があり,よく収縮したものがよい。白炭は樹皮の付着がなく,断面は貝殻状で光沢があり,重く,金属音を発するものがよい。黒炭,白炭とも臭気や爆跳および立消えのないものがよい。爆跳する炭は不良で,ヌルデ,ハゼの炭に多い。そのほか,製鉄用,二硫化炭素用,活性炭用は自主規格をつくり取引されている。
木炭の一般用途は燃料で,炊事,暖房用に使用されるが,日本ではこの面での利用が激減している。白炭は長時間の暖房のほか,魚,肉,餅,せんべいなどの焼物に適し,紀州備長炭(炭材はウバメガシで備長窯で製炭したもの)は蒲焼,焼肉料理に珍重され,料理店での利用は多い。農業用には,シイタケ,タバコ,寒天の乾燥ならびに養蚕,製茶の燃料として使用されるが,その利用は減少している。茶の湯用にはクヌギの黒炭で佐倉炭,池田炭が著名である。樹皮が密着し,断面が菊花状に割れ,未炭化のない軟質で,真円に近いものがよい。茶の湯用の枝炭はコナラ,ツツジの2本枝,3本枝をわらでしばり炭化したものと,それに胡粉(ごふん)を塗って白色にしたものがある。
現在でも重要な木炭利用は活性炭の製造である。活性炭は粉末と粒状(破砕炭)があり,木炭,ヤシ殻炭,のこくずなどにより製造され,脱色,水処理,ガス洗浄,におい消しなどに広く用いられている。製鉄冶金用木炭はリン,硫黄の少ないことが,金属ケイ素用木炭はカルシウムの少ないことが要求される。鉄1t製造するのに要する木炭は,製鉄で970kg,金属ケイ素で1400kgである。松炭は日本刀製造に適する。金属表面に焼入れをする浸炭剤にはナラ,カシの硬質白炭が使用される。二硫化炭素用木炭には揮発分の少ない硬質の白炭が適しているが,オガライトを高温炭化したオガタンも使用される。黒色火薬用木炭にはハンノキを350℃前後で長時間炭化したものが良品だが,松炭も使われる。用途は鉱山火薬,導火薬である。研磨炭はホオノキ,ニホンアブラギリの白炭とアセビ,チシャノキを特殊製炭したものでつくられ,金属研磨,漆・七宝焼研磨に使用される。画用木炭はヤナギ類,キリ,ハンノキ,トチノキを特殊なるつぼで製炭する。そのほか成形木炭は野外料理,レジャー用,ストーブ,あんか,温風暖房機燃料に,木炭粉はゴルフ場の芝の管理,アース,境界,埋葬用など広い用途がある。以上のほかに新しい利用として次のものがある。木炭の吸着性と木酢液の消臭効果を併用して,畜産の悪臭防除に用いる。土性の悪いところに木炭粉を施用し,緑化木など苗木の細根を多くし生長をはやめる。海岸林のクロマツの新植地でも木炭粉は根を発達させ生長をはやめる。そのうえ菌根菌がはやくつき,ショウロが出る。モウソウチクの竹林に木炭,竹炭粉を散布してたけのこの早出し効果を得る。
→炭焼き →燃料
執筆者:杉浦 銀治+橋本 与良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…木炭を作ること,またそれを生業とする人。炭焼きはほとんど山間農民の兼業として行われてきたが,それが一般化したのはむしろ明治以後といってよい。…
※「炭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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